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集結

「アルス殿、待たせたな」


「キシリアにようこそ、ピーチャ殿。用意した宿泊地はあれで十分でしたか?」


「ああ、問題ない。だが、貴殿は相変わらず仕事が早いな。キシリアへと向かった直後にキシリア家を手中に収めたと聞いて、急いでここまでやってこねばならなかった」


「たまたまですよ。キシリア家が弱みを見せましたからね。うまく主導権を握ることができるようになりました」


「ふむ。話自体は報告で聞いている。だが、あのときの戦いで話に出てきた巨人がふたたび現れるとはな。よく無事だったな、貴殿らは。当主級の強さを誇るのだろう、その巨人は」


「そうですね。巨人タナトスは間違いなく通常の騎士を凌駕する当主級の実力があると思います。が、それでもだいぶ弱っていましたからね」


「だが、その巨人までもをフォンターナの陣営に取り込むことができたのだ。必ず大きな戦力となるだろう。して、問題のキシリア家当主ハロルド・ウォン・キシリアはその後どうなったのかな?」


「そのことですか。ハロルド殿はウルク家当主に拘束されたようです。裏切り者として尋問されているとか」


「……貴殿はその情報をどのように考える?」


「おそらくハロルド殿は最初から捕まることを見越してウルク家当主の説得に向かったのでしょうね。キシリア家の存続のために」


 俺がキシリアの街に到着してからしばらくしてアインラッド砦からピーチャが軍を率いてやってきた。

 その直前にアインラッドの北の街ビルマからも別の騎士がフォンターナの軍を率いてきた。

 おそらくこれで対ウルク家のためのフォンターナの戦力は集結したことになる。

 キシリア家の軍とあわせて4500ほどとなるだろうか。


 そして、最後にやってきたピーチャと少し雑談を交わしながら情報交換を行う。

 その話の中で出てきたキシリア家の当主ハロルドの動きだが、当主の説得に失敗したようだ。

 だが、おそらくは失敗も予想の範囲内だったのではないかと思う。


 ハロルド・ウォン・キシリアはキシリア家の未来をつなぐことを最優先に考えて行動したのではないだろうか。

 偽情報によってフォンターナと繋がっていると噂され、どの程度かはわからないが間違いなく立場が低下した。

 そこで、自分の地位や命ではなく、キシリア家を残すことを目標に定めたのだ。


 ある意味踏ん切りがついたのか、本当にフォンターナへと連絡をとってきた。

 キシリア救援の要請を出してフォンターナから軍を派遣してもらう。

 だが、このフォンターナ軍がウルク家に敗北するとキシリア家は本当に裏切り者として一族郎党皆殺しにされるだろう。


 だから、保険をかけた。

 フォンターナからバルカが派遣されてキシリアの街に到着したあとになってから、ウルク家への忠誠も捨てられないとして当主の説得を申し出たのだ。

 その申し出によりキシリアを離れて当主のもとへと向かう。

 そして、説得そのものは成功しようが失敗しようが問題ではなかったのだろう。

 成功しようが失敗しようが、肝心なのはどちらが勝ってもキシリア家が存続する可能性があるということだ。

 もしも、ウルク家が勝利した場合、最後までウルクへの忠誠を捨てなかった騎士とでも言われたりするのだろう。


 そのとき重要なのがキシリア家の後継者だった。

 キシリア家はウルク家第二の街を治める貴族であり、ハロルドの子供は複数いる。

 そして、父ハロルドとは離れてウルクの領都で暮らしているワグナー以外の子供もいるのだ。

 ウルクが勝利した場合でも父ハロルドの最後の忠誠を認めて、その子供をキシリア家の後継者として存続させてもらえるかもしれない。

 領地は無くなるかもしれないが、ウルク家がフォンターナに勝利した場合にもキシリア家の血が残ることになるのだ。


 ようするに、ハロルドの目的はどっちが勝ってもキシリア家に未来が残っているように行動するというものなのだろう。

 ハロルドの子供を両陣営のもとに預ける形にして、自分の身は拘束させる。

 そうすれば、ハロルドの身柄を解放するようにという名目でこちらも動くことができる。

 そう遠くないうちに両陣営がぶつかり合って勝敗を決めることになるだろう。


「本当にそうなのだろうか? それなら巨人がバルカ軍を襲撃するはずがないと思うが……」


「もしかしたら、ハロルド殿は本当に襲撃に関しては知らず、一部の騎士の独断だったのかもしれませんね。そのほうが今のハロルド殿の状況を説明しやすくはあります。まあ、実際にどうなのかはわかりませんけど」


「ふむ。農民出身から騎士になった私であれば最後まで自分の力で運命に抗おうと考えるところであるが、家を優先するというのは歴史ある騎士家らしいとも言えるか。で、そのハロルド殿はいつ迎えに行くのかな?」


「ピーチャ殿の連れてきた兵たちを少し休ませる必要もあるでしょう。数日体を休めてから出陣しましょう。ウルク家もハロルド殿を拘束したあと軍の動きが活発になっていますから」


「わかった。準備を進めておこう。ウルク家も出てくるのであれば、決戦の地はミリアス平地あたりになるのかな?」


「そうです。キシリアからウルク領都の間にあるミリアス平地。そこでウルク家と決着をつけます」


 拘束されたハロルドを解放するように、という内容の使者はすでに出してある。

 だが、ウルク家はそれを突っぱねた。

 向こうの戦力は偵察による報告だと5000ほどだという。

 おおよそ、同数同士の軍による決戦。

 それがウルクとフォンターナの雌雄を決する戦いになりそうだ。


 そして、予定通り数日後にはバルカを始めとしたフォンターナ軍はキシリアの街を出発してミリアス平地へと向かっていったのだった。

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