ワグナー
「申し訳ありません、バルカ様。我々の関知しないところでそのものたちが独断で行動したのです。ですが、その責任は私にもあります。ぜひ、罰を与えるのであれば私へとお願いします」
「……つまり、この巨人が我々バルカ軍を襲ってきたのは数人のキシリア家の騎士による独断の行動で、他のものは知らなかった。そう言いたいのか?」
「はい。そのとおりでございます。何卒、みなの命だけはお救いくださいますようお願いいたします」
「ではハロルド殿はどうなのかな。ハロルド殿がウルク家当主の説得へと赴いたその夜にこのようなことが起きた。彼が命じていったということではないかという疑念が拭えないのだが」
「決して、決してそのようなことはありません。我が父はそのようなことをする男ではありません。父ハロルドが当主様へと説得へと向かったのは紛れもなくウルク家への忠義のためだけであり、決してバルカ様へと手を出すつもりなどありません」
一夜明けて食事を済ませた。
そして、今は昨夜の事後処理にあたっている。
すでにキシリアの街にいた騎士たちをすべて拘束しており、こうして話を聞いている。
キシリア家当主のハロルドが少数の供回りをつけてウルク家当主のもとへと向かっている。
つまり、現状ではこの場にキシリアの街の最高責任者がいない。
なので次に偉い人物と話すことになったのだが、その人物というのはハロルドの第一子だった。
ワグナーくん13歳、まだ幼さの残る少年だったのだ。
責任は自分にある、とかなんとか言っているがこの子は責任をどうやって取るつもりなのだろうか。
みんなのために命を差し出すとか考えているのだろうか。
心情的には次にまた何をするかわかったものではないので、キシリア家に関する人間を全員排除したいくらいだ。
だが、そのへんの判断は難しい。
一応、名目的にはキシリア家の救援要請を受けたということでバルカ軍はウルク領まで来ているのだ。
そこへ到着した翌日に当主ハロルド不在の中でキシリア家次期当主予定のワグナー含む騎士すべてを処刑でもすればこちらが悪者に見られかねない。
タナトスの襲撃でこちらがたいして被害も出ずに終わったこともあり、最初からキシリア家を騙し討ちするためにバルカ軍はやってきたのではないか、と事実とは違う受け取られ方をするかもしれない。
大義名分が無くなってしまうという問題があったのだ。
「バルカ様、お願いがあります。聞いていただけないでしょうか」
「なんだ、ワグナー?」
「我が父ハロルドは必ずやウルク家への説得を成功してくると私は信じています。しかしながら、もし万が一でもそれが成功しなかった場合にはぜひともウルク家との戦では我がキシリア家を使ってほしいのです。必ずや戦で働いてみせます。今回の一部の騎士の暴走という失態をキシリア家総出で償ってみせます」
「ワグナー、お前は軍の指揮を執れるのか?」
「はい。ぜひとも我らに最後の機会をお与えください」
「よし、わかった。だが条件がいくつかある。それを飲んでもらおうか」
「どのような条件でしょうか、バルカ様?」
「ひとつは今回の襲撃の首謀者となった騎士たちの処遇だ。彼らにもチャンスをやろう。巨人タナトスと戦ってもらおうか。タナトスに勝てば今回の件を不問にしよう」
「きょ、巨人と戦うのですか?」
「そうだ。俺達バルカは昨日戦ったぞ。巨人に対して絶対に勝てないというわけではない。そうだろ?」
「は、わかりました、バルカ様」
「次はキシリアの騎士についての処遇だ。最初はハロルド殿の家族だけの予定だったが、今回の件は連帯責任として問うことにする。キシリアの騎士全員の家族もフォンターナへと移ってもらうことにする。いいな?」
「そ、それはさすがに……」
「そうか。それが嫌なものは申し出るように。そのものたちにも平等に機会を与えてやろう。タナトスと戦って勝てばその条件を不問とする」
「……わかりました。私からみなに説明しておきましょう」
「ああ、我々も決してキシリア家をないがしろにしているわけではない。フォンターナへと移された者たちが不利益を被らないように計らうと約束しよう」
「ありがとうございます。バルカ様のご温情にキシリアを代表してお礼申し上げます」
「言っておくが次はないぞ、ワグナー」
「はい、もちろんわかっています」
とりあえずはこんなものでいいだろう。
最初は全員処分してやろうかとも思ったが、一晩寝て冷静になれたように思う。
キシリア家はウルク家の配下の一騎士としての立場だが2000ほどの戦力を集めることができるという。
それがこちらのために必死になって戦ってくれると言うのであれば、せいぜい頑張ってもらおう。
それに本来は救援に来ただけのバルカ軍がキシリア家に対して主導権を握れるようにもなった。
大した被害も出ずにキシリア騎士領を実質的に手に入れたようなものとも言えるだろう。
思う存分こき使ってやることにしようか。
襲撃事件の首謀者の騎士が【狐化】してタナトスに向かっていき、大きく吹き飛ばされているところを見ながら俺はそう判断したのだった。
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