装備
「本当によく食うな。食料補充しておいたほうが良さそうだな」
俺が寝込みを襲われた翌日の朝、ベッドから起きて食事に向かうとタナトスがご飯を食べているところを発見した。
今のタナトスはごく普通の人間の兄ちゃんという感じで、これが巨人となるというのは信じられないように思う。
が、その食べっぷりは巨人の胃袋を通常状態でも腹の中に納めているのではないかと思うほど、ガツガツと食べていた。
『アルス、ようやく起きたか、お前も食え。これもうまいぞ』
『ありがとう。けど、酒はいらねえ。ていうか、よくそんな蒸留酒をガボガボ飲めるな。酔って暴れたりしたら今度は手加減しないぞ』
『大丈夫だ、問題ない。いくら飲んでもアトモスの戦士は酔わない。いつでも戦える』
『……じゃあ、別に飲まなくて良くないか?』
『駄目だ。この酒は今まで飲んだ中で一番うまい。だから飲む』
『そうか。けど、食べ物に関しては食い放題だけど、その蒸留酒は限りがあるからな。もうちょっと味わって飲めよ、タナトス』
「お、こんなところにいたのか、アルス。探したぜ」
「ん? どうしたんだ、バイト兄?」
「どうしたんだじゃないぞ。昨日言っていたやつ用意しといたぜ。ほら、これだろ?」
「ああ、助かるよ。これなら巨人でも着ることができるだろ」
俺がタナトスと話しながら食事にありついたときだった。
そこへ声をかけてきたバイト兄が手に持つものを渡してくる。
そういえば、昨日寝る前にバイト兄に用意してもらうように頼んだんだった。
バイト兄から受け取ったものを両手で広げながら、タナトスに見せるようにして話しかける。
『タナトス。俺からお前にプレゼントだ。これを着ておけ』
『もぐもぐ……ごっくん。それはなんだ、アルス』
『防具だよ。鬼鎧っていうバルカ製の新装備だ。お前にやるよ』
『……だめだ、アルス。アトモスの戦士はでかくなる。そんなものを着てもすぐに破れる』
『そんなことはお前が裸で戦っているのを見てわかってるよ。だから、そうならないようにこれをやるっつってんだ。この鬼鎧は大きくなっても破れないから大丈夫だよ』
俺がバイト兄から受け取ってタナトスに渡したのは、新しい鎧だった。
バルカニアの北の森から出てきた鬼を退治し、その鬼からグランが作った新しい防具。
それがこの鬼鎧だった。
グランがつくったというこの鬼鎧は実に不思議な装備だった。
なんと、この鎧を着ると着用者にジャストサイズに変化する性質を持たしているのだという。
鬼からとった素材と大猪の毛皮と牙、ヴァルキリーの角、そしてさらにヤギのアキレス腱までをも使用して作り上げたのだという。
よくわからんが、ヤギのアキレス腱を素材に使用することで伸び縮みする性質がついたらしい。
どうやら、まだ体が成長中の俺でもいつでもピッタリと体にあった鎧をつけさせるために開発したのだという。
ちなみに鬼鎧を装着すると防御力の底上げだけではなく、力も向上するというおまけまで付いているという。
なかなかにぶっ飛んだ性能の鎧をグランは用意してくれたのだった。
『おお、すごいぞ、アルス。本当に破れない』
その鬼鎧を着て巨人化したタナトス。
本当にもとの3倍くらいの大きさになったタナトスが着ていても破れていないようだ。
これで戦場で素っ裸の猥褻物陳列罪を回避できる。
『ついでにこれも試してみろよ、タナトス。いつまでも丸太が武器ってのはしまらないだろうしな』
『おお! アルス、それなんだ!?』
『槍だ。ただし、俺のお手製の硬化レンガ製の大型タイプだけどな』
そういって、タナトスに渡したのは武器だった。
5mほどの長さの硬化レンガの棒の先が鋭くなったものだ。
以前、騎兵の突撃用に作った硬化レンガ製の先が円錐状のランスを大型にしてみることにした。
普通ならば重くて持てないが、巨人化したタナトスだったら何も問題ないだろう。
もっとも、普段は他の人と同じような大きさの人間なので、持ち運びには不向きだろうから俺が毎回戦場で作る必要があるかもしれない。
まあ、最初から強力な武器をタナトスに預けておくよりもそのほうがいいだろう。
『感謝する、アルス。アトモスの戦士として、この報酬分は絶対に活躍してみせる。よし、それじゃまた食べることにする』
『え、さっきまでたくさん食べてたんじゃないのか? まだ食うのか』
『俺、ずっと牢で食べ物少なかったらか弱くなってる。もっと食べて、力を取り戻す必要がある』
『そういえば、前にあったときよりも威圧感少なかったしな。だいぶ痩せただろ』
『痩せた。今までにないくらい力も体力も落ちた。元気だったら、アルスたちみんなと戦っても負けてない』
まじかよ。
さすがに嘘だろうと言いたいが、前にあったときハメ技以外の倒し方が思い浮かばなかったのを思い返すと否定しきれない。
……もっと酒を増産しようかな。
蒸留酒のことをだいぶ気に入っていたみたいだが、現状、あの酒はバルカ以外では手に入らない。
ならば、ほかのところに行けばこの酒を飲むことはできなくなるぞ、というのはよそからのスカウトをはねのける力になるかもしれない。
満面の笑みを浮かべながら食料を食い尽くす勢いで食べるタナトスを見て、俺はそう考えたのだった。
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