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タナトス

「お、気がついたか」


「ぐ……だれ……だ」


『俺の名はアルス。こっちの言葉のほうがわかりやすいか?』


『……アルス? 俺の名はタナトスだ。お前、言葉が話せるのか?』


『大雪山の向こうの、東の言語だな。東の出身のやつに習った。簡単な言葉はわかるぞ』


 キシリアの街に滞在している俺たちへと襲いかかってきた巨人。

 その巨人をバイト兄を始めとする兵たちが迎撃した。

 バイト兄は確実に強くなっているようだ。

 以前は手も足も出なかった巨人へと十分に戦えていた。

 だが、相手もまた強かった。

 硬牙剣と雷鳴剣というふたつの魔法剣による攻撃を受けながらもバイト兄へ対して反撃を仕掛けたのだから。


 しかし、その反撃が成功することはなかった。

 自らの視界を悪くしながら行った巨人のカウンター攻撃がバイト兄へと届く前に、俺の攻撃が巨人へと叩き込まれたからだ。

 俺の持つ斬鉄剣グランバルカによる攻撃。

 圧倒的な魔力を持ち高い防御力を誇る当主級すらも倒すことのできる武器での攻撃。

 だが、その攻撃によって巨人が息絶えることはなかった。


 俺が手加減したのだ。

 片刃の日本刀型の魔法剣である斬鉄剣で巨人のうなじを峰打ちすることによって。

 首の後ろを攻撃されることはさすがに巨人といえどもこたえたようだ。

 あたった場所と角度がよかったのか、攻撃の直後に巨人は膝をガクンと落として意識を失ったのだった。


 そうして、倒れた巨人を拘束して今に至る。

 わざわざこちらを攻撃してきた巨人を殺さずに捕まえた理由。

 それは巨人と会話をするためだった。


『俺は負けたのか……』


『そうだな。これでお前に勝つのは二度目だぞ。覚えているか? 以前にも俺たちと戦ったことを』


『……もしかして、お前たちか? 俺を水の中に落としたのは?』


『正解だ。あれで死んだもんだとばかり思っていたぞ。よく生きていたな』


『ほとんど死んだも同然だった。偶然この街のやつらに水から浮いたところを発見された。それからはここで牢へと閉じ込められていたのさ』


『牢に? 巨人になれるなら逃げられるんじゃないのか?』


『食べるものを最低限しか与えられなくてな。あの状態で抵抗してもいずれ捕まって命を落とす。しかたがないから、機会をうかがっていたんだ』


『へー、大変だったんだな。……あやまんねえぞ?』


『いいさ。お前たちに負けた俺が悪い。それが俺の運命だったということだ』


『そのことなんだけどな。タナトスって言ったっけ? お前はなんでここにいるんだ? 普通なら越えることができない大雪山を踏破してまで、なんでこっちに来たんだよ?』


『……来たくて来たわけではない。逃げてきたんだ』


『逃げた? お前たちみたいな強い戦士がたくさんいたんだろ?』


『そうだ。だが、アトモスの里は潰された。俺たちアトモスの戦士を雇うと言っていた連中が揃って騙し討ちしてきたんだ。抵抗したが数が違いすぎた。追い詰められた俺たちはお前らの言う大雪山を越えて西に向かうしかなかったんだ』


『俺たち? っていうことは、他にも巨人が、アトモスの戦士がこっちに来ているのか?』


『多分、いない。俺は運が良かった。だけど、ほかのやつらはここまでたどり着いていないと思う』


『……そうか、タナトスには嫌なことを聞いたな。で、なんでそんな思いをしてこっちに無事についたお前が戦場で俺たちに会うことになったんだよ?』


『俺は戦うことしかできない。だから戦って生活をすることにした。だけど、はじめてのこちらの戦場で負けるとは思わなかった』


『なるほどな。ていうか、タナトスってこっちの言葉も喋れるのか。それともウルクの連中の中にも東の言葉を話せるやつがいたのか?』


「こっちの、ことば、おぼえた。おれ、はなせる」


『いや、面倒くさいから俺と話すときはいいよ。でもまあ、その片言ことばでウルクとやり取りしてたってわけね。じゃあ、本題に入ろう。なんで今日、俺たちを襲ったんだ?』


『命令された。お前たちを殺せば腹いっぱい飯をくれると。夜になって牢から出されて、ここの建物の中にいるやつを全部殺せって言われた』


 いいね。

 すごくいいよ、タナトスくん。

 ウルクの連中はタナトスに俺たちを襲わせて、その首謀者を見つけられることはないと踏んでいたのだろうか。

 あるいは、もしかすると片言でしか話せないタナトスが野蛮な動物にでも見えて、命令したやつを覚えていないとでも考えたのだろうか。

 だが、そうではなかった。

 タナトスは俺達の言葉を流暢には話せないが、別にバカではない。

 普通の人間だった。

 これで少なくとも命令した奴らを探すことはできるだろう。


「バイト兄、ウルクの騎士を捕らえろ」


「おう、任せろ、アルス」


『で、タナトス。お前に質問がある』


『なんだ、アルス?』


『お前はこれからどうするかを決めなければならない。ここで死ぬか、俺と一緒に来るかをだ』


『アルスと一緒に?』


『そうだ。俺はこれから戦場に向かうことになる。俺を攻撃してきたお前は死に値する。が、俺と一緒に戦うって言うなら許してやらんでもない。どうだ?』


『……報酬は?』


『報酬?』


『俺はアトモスの戦士だ。アトモスの戦士は報酬を得て戦場にたつ。それは絶対だ。お前は報酬を出すのか?』


『……なるほど。いいね。ギブアンドテイクといこうじゃないか。そうだな。とりあえずまずは飯と酒だな。それが報酬だ。好きなだけ食って、飲め。そんで戦でお前の価値を証明しろ。そうしたら、住処と金をやろう。どうだ?』


『わかった。だけど、俺はたくさん食うぞ、アルス。覚悟しておけよ』


『契約完了だな。これからよろしく頼むぞ、タナトス』


 こうして、ウルク領の中で襲われたバルカ軍には新たに強力な仲間が加入することになったのだった。

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