買取品目
「うーん、あんまり欲しいものってないもんだな……」
カルロスに言われたとおり、俺はフォンターナにある騎士領から買い取るものがないかどうかを調べていた。
だが、思ったよりも難しいかもしれない。
たとえばよくわからない工芸品みたいなものを買うことにしたとしても別に必要ではないので大量に買うこともなければ、継続して買うこともない。
が、カルロスの言うようにフォンターナ領内で金が巡るようにするにはもっとそれなりの金額が毎年のように動く必要があるのだ。
どうしようか。
リリーナやクラリスに相談してまた調度品などを購入することを考えたほうがいいのだろうか。
確かに、新しくフォンターナの街に作った館に合う調度品はもう少しあってもいいかもしれない。
しかし、それも数には限りがある。
どうしたものだろうか。
「どうしたんだ、アルス? 顔が暗いぞ?」
「バイト兄か。実はちょっと考え事があってな。聞いてくれないかな?」
「ああ、いいぜ。どうしたんだよ。次はどこと戦をするか悩んでるのか?」
「物騒なことを言うなよ、バイト兄。そうじゃなくてな、カルロス様に言われたんだよ。もっと他の騎士の領地から物を購入しろってさ。でも、何を買うのがいいか思いつかなくてな」
「なんだよ、そんなことか。簡単なことじゃねえか」
「……え、なんか思いついたの? バイト兄が?」
「おい、俺がなんか思いついたら文句あるってのかよ」
「ああ、ごめん。そんなつもりじゃないんだけど、ちょっと予想外ではあったかな。で、聞くけど、バイト兄なら何を買うんだよ? 言っておくけど、それなりに大量に継続して買い続けるような商品じゃないと駄目だぞ」
「なんだ、やっぱり簡単じゃないかよ。食いもんだよ、アルス。食えるものを買え」
「……あのな、バイト兄。俺たちバルカが他の騎士領に行って農地改良するんだ。そりゃ買い取るだけの麦はできるだろうけど、別にバルカでも麦は作れるんだ。ある程度は酒造りのために買うつもりだけど、それ以外の商品を探しているんだよ」
「何いってんだ、麦以外にも買えばいいだろ。結構あちこちの騎士領を俺も回ったけど、そこでしか作ってないような食べ物ってのもあったぞ。それを買えばいいだろうが」
「麦以外を? 売れるほどの量があるのか?」
「知らねえけど、【土壌改良】を使えば畑のものは今までよりも収穫できるようになるんだ。多く作れれば売る分くらい確保できるんじゃないのか?」
……なるほど。
バイト兄の言うことは一理ある。
というか普通に考えれば工芸品よりも食べ物を買うほうが先に考えつきそうなものだ。
なんでそんなことを思いつかなかったのだろうか。
いろいろと売れる商品を考えることが多かったから、食べ物は腹を満たせれば十分だと思っていたからかもしれない。
基本的には他の騎士領もバルカ騎士領も自分の領地に住む農民に麦を作らせてそれを納めさせる。
なので食べ物の基準は麦の収穫量になる。
が、実際の畑では俺自身も麦以外を作っていた。
しかし、それは家族の飢えを凌ぐためのもので税として納めるためでもなければ、商品としてでもなかった。
それに道路網が発達してきたといえども、基本は地産地消であり、他のところで何を食べているのかはあまり伝わってこない。
が、もしかしたら思ったよりも農作物のバリエーションというのはあるのかもしれない。
ならば、バイト兄の言う通りその土地でしか食べられていない食材を探して買い取るのもありかもしれない。
それが畑から収穫できるものであれば【土壌改良】した土地で大量に作ることができる可能性もあるだろう。
いいぞ、バイト兄のアイデアを聞いてこっちも考えが膨らんできた。
そうだ。
なにも他の土地で麦だけを作る必要はないのではないだろうか。
逆にいろんな物を作らせたほうが天候不順などの不作にも対応できるだろう。
それに畑から収穫できるのは何も麦や野菜だけではない。
花を育てることもできる。
今までバルカでは腹を満たすためという目的で麦のほかはハツカなどの収穫までの期間が短いものばかりを育てていた。
だが、他の騎士領では花を育ててもらってもいいかもしれない。
花の中には蜜のあるものも存在する。
そして、蜜があれば、それを集める虫も存在する。
そうだ、ハチミツだ。
これまであまり口にする機会もなかった甘味を確保できるかもしれない。
それに花の利用は蜜集めだけにはとどまらない。
油だ。
アブラナのような花であれば、絞って油を取ることもできるだろう。
実は油というのはそれなりに貴重な品だ。
絞って取れる量というのはそう多くないため、常に品薄で高価なのだ。
だが、油は使える。
それは料理だけではなく籠城したときにも使える。
壁の上から熱した油を落として攻撃側を迎撃するのにも使えるのだ。
なにげに油は戦略物資として認識されていたりする。
よし、他の騎士領から購入するものはこれらのものをメインとしていこう。
なんなら油作りなんかはこっちが積極的に推奨してもいいかもしれない。
農地開発した畑で油を作ると約束するなら、貸し付ける金の金利を通常よりも低くするとかいえばやるやつはいるのではないだろうか。
別にその騎士領のすべてで油を作る必要もないのだ。
領地の一区画を油を作るためのスペースとして設定して、そこでアブラナを育てる。
そうしてできた油をバルカが買い取る。
お互いウィンウィンの関係となれるのではないだろうか。
「よし、バイト兄。今までどこで何を食べてきたか全部教えてくれ。そこでしか取れない食べ物があれば、その騎士領ではそれを増産して販売できないか相談してみることにするから」
こうして、フォンターナ領では各騎士領でそれぞれ他所では手に入りにくい作物などが販売用として増産され始めることになったのだった。
とくにカルロスなど貴族に献上されるような貴重な品として知られるものではなく、庶民がひっそりと食べていたものが発見されることにもなり、俺の食卓に並ぶ料理のレパートリーも増えはじめたのだった。
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