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予想外

「よーし、じゃあ魔法を使ってみようか、ヴァルキリー」


「キュイ!」


 命名を終えた俺がそう言うと、ヴァルキリーが返事をしてのそりと立ち上がった。

 相変わらずでかい。

 子供の俺では見上げるような高さに顔がある。

 そう思って立ち上がったヴァルキリーを見ていると、そのまま外へと移動していった。

 どうやら隠れ家の外で魔法を披露するらしい。

 確かに家の中で火を使われるよりもいいだろう。

 俺よりも気が回る頭のいい子だ。


 そのヴァルキリーの後を追って俺も隠れ家の外へと向かった。

 レンガで作った隠れ家の外は広々としている。

 もとは森の中だったというのに、まっ平らな土地へと整理されてしまい、現状では畑が広がっているからだ。

 ただ、そうは言っても畑の外は森に囲まれた状態だ。

 あたりを見渡してみても誰もいない。

 そんな風に周囲を確認してから、いよいよヴァルキリーによる魔法のお披露目が始まった。


「キュー」


 馬の姿だが可愛らしい声を上げるヴァルキリー。

 きっと今のは呪文を唱えたのだろう。

 ヴァルキリーの鳴き声とともに、その前方には光の玉が飛び出した。

 まだ日光のある真っ昼間だが、それでもその明かりが十分に明るいことが見てわかる。

 これは紛れもなく生活魔法にある【照明】だろう。


「すごいぞ、ヴァルキリー。ちゃんと魔法を使えてるじゃないか。よし、ほかのも使えるかどうか試してみてくれ」


 どうやら無事に命名の儀には成功していたようだ。

 単に呼び名をつけるだけではなく、きちんと命名ができたようで魔法を使用可能となっている。

 そのことが嬉しくて、俺はピョンピョン飛び跳ねるようにして喜びながら指示を出した。


 【照明】の他の生活魔法を次々と披露していくヴァルキリー。

 【着火】や【飲水】、【洗浄】といった魔法も全く問題なく使っている。

 見ていると、どうやらやはり生活魔法の発現規模は統一されたもののようで、俺が使ったときと同じもののようだ。

 だが、俺がのんびり観察できたのはここまでだった。


「クゥ!」


 ヴァルキリーが更に魔法を発動させたのだ。

 それは生活魔法には含まれていない魔法。

 俺だけのオリジナル魔法。

 ヴァルキリーは俺の目の前に魔法でレンガを作り上げたのだった。




 ※ ※ ※




「どうなってんだよ、これ」


 新しく作られたレンガを見た俺はあまりのことにしばらく呆然としてしまった。

 だが、その間にもヴァルキリーは次々と魔法を披露していく。

 一瞬で土地を均す【整地】。

 畑の土を良質な土へと変える【土壌改良】。

 瞬時にレンガを作る【レンガ生成】。

 そして、見た目にはわかりにくいが魔力茸を作る際に原木に魔力を送り込む【魔力注入】や【身体強化】も使ってみせた。

 俺にはわからないが、多分もう一つ見せてくれた魔法は【記憶保存】ではないだろうか。


 すべて、俺が独自に作り上げた魔法のはずだ。

 少なくとも教会の洗礼式のときに、名前を授かった他の子供達は生活魔法しか使えなかったことはわかっている。

 もしかして、魔法陣に何らかの誤りがあったのか?

 それとも、命名の儀のやり方自体に違いがあるのか。

 とにかく考えてもわからないことばかりだ。


 だが、ほかに気づいたことがある。

 それは、ヴァルキリーが使える魔法は俺が呪文名をつけたものしかないということだ。


 例えば、俺はヴァルキリーが使った以外のものとして白磁器やガラスでできた食器を魔法によって作ることが可能だ。

 だが、母親にプレゼントした分以上のものは必要なかったため、量産することもなく、魔法も呪文化していなかった。

 そのためだろうか。

 俺がいくら説明して、実演して見せてもヴァルキリーは食器づくりができなかったのだ。

 まぁ、馬型の使役獣であるコイツにとってそんな魔法はいらないだろうけど……。


 そしてもう一つ、呪文化について気になる点がある。

 それは魔法の効果そのものについてだ。


 例えば【整地】という呪文を唱えて魔法を発動すると、10m四方の土地を平らに均す事ができる。

 だが、俺は呪文を使わずに整地することも多い。

 その時は、どのくらいの土地を均すのかを頭の中でイメージして、それにあった魔力を消費して魔法を発動させている。

 こうすれば一度の魔法で更に広い範囲を整地することもでき、移動する手間がないぶん便利なのだ。


 だが、このイメージと魔力消費量を変えて自在に効果範囲を変更する、ということがヴァルキリーにはできなかったのだ。

 あくまで俺が呪文化する際に固定化していた広さしか魔法の影響を及ぼすことができない。

 なので、【身体強化】で体の動きを良くすることはできても、魔力消費量を増やして更に身体機能を底上げするといったこともできない。

 俺のように目や手足に魔力を集中させて、その部位を強化するといったことも無理なようだった。


 こう考えると一つの仮説が成り立つのではないだろうか。

 命名をすると魔法が使えるようになる。

 ただし、それは生活魔法のみにとどまらず、命名主の持つ呪文をインプットされ、その呪文を勝手には改変できない。

 こう考えると俺が生活魔法をすきなようにカスタマイズできなかったことに説明がつく。

 やはり、洗礼式における命名の儀は神の加護というよりは、違うシステマチックなものによるものだと思ってしまう。


 しかし、そうなると問題も出てくる。

 ヴァルキリーのことだ。

 名前をつけただけで魔法を覚えさせられるのに、それを神の加護と説明しているのだ。

 そんな中に生活魔法どころか俺のオリジナル魔法まで使えるコイツを使役獣として商売の種にしても大丈夫だろうか?

 一度、そのへんのことも確認しておく必要があるかもしれない。


 魔法を披露して、「褒めてー」と言わんばかりに角の生えた頭を俺に突き出してくるヴァルキリーに対して、よしよしとなでながら今後のことについてを考えるのだった。

お読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] うーん? あの魔法陣は、術者の持っている呪文有り魔法を、 相手に強制インストールするものなんじゃないの? だから主人公の持っている魔法を全部得てしまったんじゃないの? ヴァルキリーを売って…
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