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相場

「貴様、金貸しを始めたらしいな?」


「……もしかして、駄目ですか、カルロス様?」


「ふむ、騎士の領分は土地を治めることにある。金を貸し付けて私腹を肥やすことではない。その点でいえばいい行いとは言えんな」


「でも、もう貸付が始まっているのですが……」


「ああ、そう聞いている。まあ、よかろう。内容は農地開発が主なのだろう?」


「はい、そのとおりです、カルロス様。今のところ、貸した相手にはそのお金で農地の開発を依頼してもらい、数年かけて返済していくという形を取ることにしています」


「わかった。だが、あまりにも複数の騎士が返済不能に陥るようなことがあれば、俺もフォンターナ領の領主として問題解決に動かざるを得ないことになる。せいぜい、加減を見誤らんようにしろよ、アルス」


「わかりました。ご忠告感謝します、カルロス様」


 おお、反対される可能性もあるかと思っていたがどうやらバルカが金融事業を始めるのをカルロスが許可してくれた。

 ただ、やはりあまり騎士らしい行為ではないようだ。

 禁じてはいないが、望ましい行為ではない、という感じだろうか。


 しかし、そうは言っても確実に儲けがでるのでやらないという選択肢はない。

 というのも、農地開発というのはあくまでもきっかけに過ぎないからだ。


 金を貸した騎士領でバルカの騎士が【整地】や【土壌改良】を行えば確実に翌年の収穫量は増えることになる。

 が、実はそれはそこまでの話だ。

 その次の年には増えた収穫量が再び減ることになるだろう。

 もちろん、【整地】した畑は今までとは比べ物にならないくらい農作業しやすくなっている。

 それに畑そのものの面積を広げることもできるだろう。

 が、【土壌改良】の効果は次の年にまで引き継がれないのだ。

 バルカに仕事を依頼した土地は農作物の収穫量が劇的に増えはするが、それを継続させるためにはそれ以降もずっとバルカへと仕事を依頼し続けなければならない。

 依頼しない、という選択肢はおそらく取れないだろう。

 なにせ、このあたりの価値観では騎士にとって領地がなにより重要で、領地とは麦が取れる場所、すなわち収穫量の多さこそが騎士にとって大切なのだ。

 一度手にした収穫量を前に、それを自ら手放すことなどできはしないだろう。


 ちなみに、融資の返済期間を翌年ではなく数年間に設定したのもそれが理由だ。

 一年間で返す金額が少なければまるで自分が借りたお金が少額であったかのように錯覚するものだ。

 だが、確実にその次も、更にその次の年にも返済しなければならないお金というのは発生する。

 そして、その金を返すためには麦を作り続けなければならないのだ。

 俺に仕事を依頼して。


 だが、この計画には致命的な欠陥が存在する。

 この話だけを聞けば、バルカは永遠に儲けを出し続けることができるのではないかと思ってしまう。

 が、実際にはそうはならないだろう。

 おそらくはそう遠くない未来に破綻する。


 それは麦の相場が下落するからだ。

 今までの麦の収穫量を遥かに超える量が取れるようになれば、余剰分を売り現金化することができる。

 それは間違いないのだが、他の騎士領の多くがそれに追随して収穫量を伸ばせば麦の販売単価が下がってしまうのだ。

 おそらく数年間は大丈夫だろう。

 だが、それ以降は確実に今と同じ重量の麦が低い値段で取引されることになる。

 そうなると多くの麦を収穫しても販売価格が低く、手にする金が増えないことになる。


 だからこそ、その問題を解決する方法を事前に用意する必要があった。

 その解決方法こそが、酒だ。

 それも今までになかったという蒸留酒だ。


 収穫して作った麦から酒を作り、蒸留器によって濃縮して作る蒸留酒。

 大量の麦からひとしずくのお酒を作るということは、収穫量が増えてダブついた麦を減らす助けになるはずだ。

 つまり、収穫した麦が大量に取引されて単価が下がるのを、麦を酒に変えて防ぐのだ。

 何なら最初のうちはバルカが麦を買い取って酒造りをしてもいい。

 値崩れしないように麦相場を監視し、必要量を酒に変えてそれを売る。

 多分失敗はしないだろう。


 そこまでいけば、おそらくはフォンターナ領の多くの騎士がバルカから金を借りた状態になっているはずだ。

 あとは酒造りの方法を騎士たちに教えて、バルカは【土壌改良】を毎年引き受けるだけでも良くなるだろう。


「おい、聞いているのか」


「え、なんですか、カルロス様?」


「全く、あくどいことでも考えていたのか、貴様は? もう一度言うが、貴様が他の騎士に金を貸すのは構わん。が、金を使うのも忘れるなよ」


「金を使う? バルカはかなり金遣いが荒いと思っているのですが?」


「いや、貴様が使っている金の多くは使役獣の卵などだろう。あれはフォンターナの騎士領で作られているものではない。そうではなく、他の騎士が領地で作る品を貴様も買え。そうしないと、フォンターナ領で金が回らん」


「ああ、なるほど。私が稼いだお金の大半は使役獣の卵か教会への支払いに消えていますからね。ただ、バルカが買い取るような品物を作っているところってあるのですか?」


「それは貴様が自分で調べろ。他の騎士とももっと話をしろ。たとえ商売上であっても、普段から他の騎士たちと付き合いがあれば貴様も揉め事を起こした時に話し合おうという気になるだろうしな」


「いやだな、カルロス様。私はいつも話し合いで問題解決したいと思っているのですよ」


「そう言うのなら実際にやれ。いいな?」


 カルロスに正論を突きつけられてしまった。

 まあ、確かに金の貸し借りだけの関係だと騎士同士では問題あるかもしれない。

 が、バルカで買い取りたいと思うような商品があるのだろうか。

 俺はカルロスからの宿題を抱えることになったのだった。

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