西への対処
「それにしてもすごいですね、アルス殿。恥ずかしながら私は今まで酒は常温で飲むものだとばかり思っていました」
「ああ、そうらしいですね。フォンターナの騎士は【氷槍】の魔法を攻撃魔法だと認識していますし、それを酒を冷やすために使おうとはあまり思わなかったのでしょう」
「ははは、耳が痛いですね。だが、このパラメアにはアルス殿によって冷蔵倉庫なるものが作られました。これからはいつでも冷蔵倉庫にて冷やした酒と食べ物を楽しめるというものです」
「あまり飲みすぎないようにしてくださいね、ガーナ殿。あと、たまに氷で冷やした新鮮な魚をバルカに送ってくるのも忘れないようにしてくださいよ」
「わかっていますよ。ですが、さすがに他の騎士とは視点が違いますね、アルス殿は。バルカを短期間で発展させたというのは決して偶然などではなかったというのがよくわかります」
「氷の活用くらいでそんな大げさな……」
「いえ、氷だけではありませんよ。我々のような騎士というものは、土地を治めてそこから麦などの税を取る。それこそが領地の運営だと考えてきました。ですがそれだけではなかった。まあ、アルス殿のようにあまりお金にがめついのは少々考えものだとも思いますが」
「そんなにがめついわけじゃないと思いますけど……。けど、このパラメアはお金を稼ぐには結構いいところだと思いますよ、ガーナ殿」
「そうですね。パラメアはアーバレスト領につながる玄関口であると同時に他の貴族領からの川が複数流れ込んでいます。つまり、他の貴族領の品物がこのパラメアを経由して取引されているということでもある。確かに商売に向いている土地であると言えますね」
「アーバレスト領は北西の端っこですからね。このパラメアは難攻不落の要塞であったと同時によそからの商品の輸入口でもあったということになります。ここさえ押さえておけば、アーバレスト領はかなり困るかもしれませんね」
「ただ、リオン殿はやりすぎには注意だと言っていました。あまりアコギなことをしすぎると、アーバレスト家がすぐに一致団結してこのパラメアを取り戻そうと行動することになると」
「うーん。どっちにしろ早いか遅いかだけの問題って気もしますけどね。ガーナ殿はまだ領地の切り取りを狙っているんでしょう?」
「もちろん、そのつもりです。なにせアルス殿がアーバレストの騎士家に伝わる土地の資料をすべて提供してくれていますからね。各地の住人数から始まって騎士の数や税の収穫量など、実に様々な記録が書かれています。これがあるだけで、かなり取れる手段が増えるでしょう」
そう言ってガーナは俺が手渡した資料を手に持ってひらひらと振った。
俺がアーバレスト家と戦った時に騎士の館を攻略し、そこにある本を【記憶保存】で覚えた内容。
実は、本とはいっても実際にあったのは領地運営に使用していたと思われる資料が多かったのだ。
各地の名前や住民の数もそうだが、ガーナが一番喜んだのは地図だった。
俺から見るとなにかのラクガキかと思ってしまうような大雑把な地図だが、それがあるかないかで大きな影響が出てくる。
地図が軍事的機密に当たるというのは本当らしい。
さて、と。
とりあえず、パラメアを始めとしたアーバレスト領への対応はここらへんで一区切りというところではないだろうか。
住民は一応こちらの支配下におくことに成功した。
難攻不落と呼ばれたパラメアも補修工事が終わり、ガーナの配下たちがしっかりと管理している。
そして、そのうえでパラメアから先の領地についても情報を得て狙いをつけていることになる。
アーバレスト家がすぐに対応してこないだろうということなら、俺がこれ以上ここにいる必要もない。
そう判断した俺は、パラメア周りの土地の開発を終えたタイミングでパラメアを引き上げていったのだった。
※ ※ ※
「アルス兄さん、おかえりなさい。で、その草はなに?」
「これか? これはパラメア湖に固有の水草だそうだ」
「へー、本当だ。見たことない草だね。で、それをどうするの?」
「これをカイルダムで育てようかと思ってな」
「ダムに? 別にいいと思うけど、何の意味があるの?」
「うん、この水草はスライムたちの大好物だそうだ。で、この水草が生えているパラメア湖にはスライムが住み着いていて、よそには行かない。そして、スライムは水草と一緒に沈殿する泥も食べるんだと。要するにダムに貯まる土の処理をスライムに任せようかなと思ってな」
「え、スライムって危険な魔物なんじゃないの? 大丈夫なのかな?」
「ま、大丈夫じゃなかったらあとでダムの水を抜いてスライムを退治すればいいだろ。とにかくやってみて損はないさ」
パラメアから帰ってきた俺はカイルへと土産を見せながら言う。
俺は農地用の水の確保としてダムを造った。
だが、ダムはメンテナンスにも手間がかかるものだ。
川というのは水が流れているが、それに合わせて土も流れている。
その土がダムによってせき止められているところでたまってしまい、ダムの底にたまってしまうことになる。
そのために、定期的にメンテナンスをする必要があるのだ。
が、そんな手間を減らせないかと考えていたときに、パラメアでスライムのことを聞いた。
スライムがパラメア特有の水草を好んで食べ、泥の除去にも役立つということに。
これはダムのメンテの役に立つのではないかと思った次第である。
早速、この水草を植え、スライムを放流した。
あとは問題なくうまくいくことを祈ろうと思う。
こうして、カルロスに依頼された西への派遣仕事は大きな問題が起こることもなく無事に終わることとなったのだった。
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