名付け
どんな名前がいいだろうか。
俺は成獣になった使役獣を見ながら考える。
自慢にもならないが、ネーミングセンスはあまりいいとは言えない。
せめてそれなりの名前をつけてあげたい。
そう考えるとパウロ神父の持っていた名前辞典(推定)の本のようなものはすごく助かるだろうなと思ってしまう。
角のある馬のような体をした動物。
それが俺の使役獣の姿を端的に表したものだ。
となると思い浮かぶ名前はユニコーンだろうか?
だが、ユニコーンは確か角は1本で真っすぐ伸びた長いのが特徴だったように思う。
コイツは2本も角があるし、真っ直ぐでもないからあんまりユニコーンっぽいとは言えないような気がする。
一角獣がユニコーンだったが、二角獣はたしかバイコーンとか言ったのだったか?
それをヒントにひねった名前を考えるがあまり思い浮かばない。
そこで連想ゲームをイメージする。
バイコーン……バイ……ヴァイ……ヴァイキング……。
ヴァ……ヴァ……ヴァ……。
……ヴァルキリー。
ヴァルキリーなんてどうだろうか?
確か神話に出てくる戦女神のことを指す言葉だったはずだ。
使役獣は全身に白毛が生えており、陽の光が当たるとキラキラ輝いて銀色に見えたりもする。
そのためか、どことなく神聖な生き物っぽく見える。
結構いいんじゃないだろうか。
「お前の名前、ヴァルキリーなんてどうかな?」
「キュイ!」
俺が使役獣に問いかけると、目を合わせながら首を縦に振って返事をしてくる。
賢いやつだ。
こちらの言語をある程度理解しているのかもしれない。
この感じならあまり嫌がっているというふうでもないのでこれにしようか。
「よし、それならこれから命名の儀を始めるぞ」
そう言って俺は使役獣に名付けを行ったのだった。
※ ※ ※
眼の前に使役獣を座らせて、その前に立つ。
そして、【記憶保存】の魔法で覚えた魔法陣を頭に浮かべる。
最近は息をするかのごとく自然に行うことができるようになった魔力の練り上げだが、今回は慎重に、繊細に行っていく。
目を閉じて何度も深呼吸を行い、大気に浮かぶ魔力を体内へと取り込み、お腹のあたりでしっかりと自身の魔力と練り合わせる。
スーハーと深く呼吸を繰り返しながら、ひたすら魔力の濃度を上げるように意識する。
そうしてできた魔力を体内に行き渡らせ、その魔力によって俺という器を魔力で満タンに満たした。
そして、その状態を保ちながらゆっくりと魔力を手へと移動させる。
単に手に集めるだけではなく、右手の人差指へとすべての魔力を集中させた。
そうして集めた魔力を徐々に体外へと放出していく。
だが、ただ単に外へと魔力を出すだけではなく、その場に留まるように意識する。
これが思った以上に難しい。
気を抜けばあっという間に魔力が霧散してしまいそうなのだ。
全身からじっとりと汗が吹き出してくる。
ここが集中のしどころだ。
俺はフーっと息を吐き出しながら次の工程へと移動した。
指先から出した魔力を糸状にし、それを動かして魔法陣を描いていく。
脳みそが破裂しそうなほど頭に血が上っているのがわかる。
体内で魔力を移動させるときと比べて格段に負荷が大きいからだ。
だが、焦ってはいけない。
記憶した通りの魔法陣を寸分違わず再現する。
どれくらい時間がかかったのだろうか。
すでに全身はビッチャリと汗ばんで、喉はカラカラ。
しかし、そんな苦労のかいあって、俺は魔法陣を作り上げることに成功していた。
だが、もう限界が近い。
俺は最後の力を振り絞るようにして、使役獣へと告げた。
「命名、お前はこれからヴァルキリーだ」
俺がそういったときだった。
指先に描いていた魔法陣が一際光ったかと思うと、すぐにおさまる。
そして、次の瞬間には魔法陣は虚空へと消え去っていた。
ゼーハーと息を切らして床へと膝をついてしまう。
思った以上に負担が大きい。
これで失敗していたら目も当てられないぞ。
しばらく呼吸が整うのを待って、俺はヴァルキリーの名付けが成功したのかどうかを確認することにしたのだった。
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