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進捗確認

「よう、ビリー。調子はどうだ?」


「あ、アルス様。すみません。まだこれといって成功例ができていなくて……」


「ん? そんなことないだろ。鳥の使役獣はかなり役に立つ。あれも一つの成功例だろ?」


「え、でも、魔獣型ではありませんよ。魔法を使える使役獣を孵化させないと成功と言えないのではないですか?」


「ああ、最終目標はそうなんだけどな。飛行型の使役獣っていうのは結構貴重らしい。それにカルロス様がもっとほしいって言ってきていてな」


「ふぉ、フォンターナの領主様がですか?」


「ああ、俺や他の領地持ちの騎士をこれからはみんなフォンターナの街に集めることになっただろ? でも、各地の騎士領の統治の仕事そのものが無くなるわけじゃない。だから、各地の道路整備を進めて人の行き来を早めるのと、飛行型使役獣での手紙のやり取りでフォンターナの街にいながらでも統治の仕事をできるようにしたいって考えているみたいなんだ」


「そ、そうなんですね。なら、これからは飛行型の使役獣も数を増やす必要があるのですか、アルス様?」


「ああ、そうだ。ビリーには悪いけど、魔獣型の使役獣の研究と同時並行して飛行型も生産してほしいんだよ」


「わ、わかりました。あ、あの、それなら一つお願いがあるのですが……」


「なんだ? 人手が足りないっていうなら数を増やしてもいいんだぞ?」


「あ、それも助かります。けど、そうじゃなくて……。指定した人を戦に連れていかないっていうのはできないですか、アルス様?」


「戦に連れていかない? バルカ姓を持つ者は戦力になるから特別な事情でもない限り連れていきたいんだけど、なんでまた?」


「は、はい。使役獣の卵を孵化させるために【魔力注入】を利用していますよね。その組み合わせで産まれてくる使役獣が変わってきます。今回偶然無事でしたけど、飛行型の使役獣を産むために【魔力注入】をした人が戦に出て死んでしまうと困るので」


 あ、そうか。

 そのことを全然考えていなかった。

 使役獣の卵は取り込んだ魔力によって産まれてくる形質が変化するという特性がある。

 そして、その魔力は組み合わせることによって更にバリエーションが増えるのだ。

 だが、魔力を提供する側の人間がいなくなってしまえば、一度孵化に成功した使役獣をもう一度手に入れるということは難しくなるということでもある。


 俺が孵化させたヴァルキリーは特殊なのだ。

 ヴァルキリーは使役獣の卵を使ってヴァルキリーを増やすことができるが、普通の使役獣ではそんなことはできない。

 おそらく、ヴァルキリーが産まれながらにもっていたという【共有】の魔法の効果の一つなのかもしれない。

 ヴァルキリーを生み出した俺がいなくなってもヴァルキリーの数を増やすことはできるが、それ以外の使役獣は違う。

 狙った形質を持つ使役獣を確保しておきたいならば、その使役獣を孵化させるために必要な魔力を持つ人材は常に確保しておかねばならないということになる。


「わかった。とりあえず飛行型と魔獣型に使えそうだとビリーが考える連中をピックアップして名簿を作っておいてくれないか。そいつらは無駄に命を落とさないような仕事を割り振るとかしてみようと思う」


「あ、ありがとうございます、アルス様。ご配慮、感謝します」


「いや、よく言ってくれたな。これからも気になることがあったら俺かカイルに言ってくれよ、ビリー」


 ついでに早いところ【産卵】持ちの魔獣型使役獣の生産に成功してくれたら言うことないのだが。

 まあ、あんまり急がせても仕方がないのだろう。

 ビリーのまとめた研究資料を見ながら、俺はそう思ったのだった。




 ※ ※ ※




「おーい、いるのか、ミーム」


「……ああ、ちょっと待ってくれたまえ。おお、これはこれはこれは我が同志ではないか。よく来てくれた」


「相変わらずって感じだな。画家くんが嘆いていたぞ。リード家の魔法を使えるミームなら自分で【念写】を使って絵を描けるようになったのに、人体解剖図の仕事から抜けさせてくれないってさ」


「ふむ、モッシュくんにも困ったものだね。この仕事から抜けるだなんてもったいないことだと思わないのだろうか」


「でも、実際自分でも描けるんだろ? なんで、わざわざ画家くんに解剖図を描かせているんだ?」


「ああ、【念写】の魔法は便利ではあるが万能ではないからね。解剖図は正確な絵が求められはするけれど、見たままをそのまま描写するだけではわかりにくい。あくまでも、必要なところをわかりやすく正確に描写してこそ、私の研究した文章を補完することができるのだよ」


「……ふーん、そんなもんなんだな。ま、そのへんのことはミームに一任しているから好きなだけ画家くんをこき使ってやってよ」


「うむ、助かるよ、我が同志よ。して、今日はどうしたのかな?」


「ああ、人体解剖図の進捗もそうなんだけど臨床試験についてもどうなったかなと思ってね」


「ああ、それのことならここに資料があるよ。あのあと、他の薬も順に増やして効果の判定を行っている。概ね私の経験則と同じ効果が示されているが、中には予想外のものもあった。やはり調べてみるのは大切だね」


「……これが? 結構な数の薬に効果なしや悪影響の判定が出てるみたいだけど?」


「ああ、そうだよ。各地を旅して得た薬の知識などを調べているからね。眉唾ものの薬も当然あるさ」


「そ、そうか。思った以上にカオスだな」


「そうかな? こんなものだと思うよ、我が同志。で、ここに来たということはなにか研究したいことがあるのかな?」


「ああ、そうそう。ちょっと聞きたかったんだけどさ、暗殺向きの毒薬とかってあるのかな?」


「……暗殺。もしかしてそのような薬を使う気があるのかな、我が同志には?」


「いや、俺が使いたいんじゃなくて、使われる可能性を考えていてさ。今俺が死ぬとバルカは崩壊するだろ。戦って死ぬこともあるかもしれないけど、暗殺を狙うやつがいないとも限らないし。その場合、毒を使われることもあるんじゃないかと思ってさ」


「ふむ、なるほど。確かにその心配はあるかもしれないね。私もすべてを網羅しているわけではないが、確かに暗殺に使われる毒というのは存在するよ。そういうことなら解毒剤を用意しておいたほうがいいのかな?」


「ああ、頼むよ。あと、無味無臭で遅効性の毒なんかがあれば、それを察知する方法も知りたい。銀の食器とかを使ったほうがいいのかな?」


「確かに伝統的で確実性のある方法だね、銀の食器は。ただ、それだけでは不足かもしれない。わかった。同志がいなくなればせっかく手に入れた居場所がなくなるのは私も同じだからね。いろいろとアドバイスさせてもらおう」


「ありがとう、ミーム。俺の知り合いでこういうことが相談できるのはミームだけだからね。頼りにしているよ」


「ああ、任せてくれたまえ」


 物騒なことであんまり考えたくはないが、安全のためにも備えておかねばならない。

 毒は怖い。

 実はカルロスやリオンからも注意を受けているのだ。

 最近悪目立ちしてしまったバルカを消すために誰が何をしてくるかわからないということを。

 一応フォンターナの街に建てる新たな建物は防犯性の高いものを作るようにグランに頼んでいる。

 が、建物だけでは足りない。

 他にもいろいろと危険はあるが、普段から絶対にする食事という行動にも気をつける必要がある。


 なので、ミームへと助言を受けに来たのだ。

 さすがに本職だけあっていろいろ知っている。

 特にこの辺りにはないものにも詳しいので助かる。

 隣村にガラス温室を作って薬草園にしていたのも功を奏したようだ。

 俺はミームによって想定されうる毒に対する解毒剤を手に入れることに成功したのだった。

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