新方針
「おい、アルス。なんだよ、あの論功行賞は?」
「どうしたんだよ、バイト兄? なんで怒ってんだよ?」
「お前はなんで冷静なんだよ。もっと怒れよ。今回の戦での一番の武功がお前じゃないのはおかしいだろ?」
「武功第一はリオンってのは別におかしくないだろ?」
「お前はアーバレストの当主とウルクの次期当主を倒したんだぜ? アルスが一番じゃないのはおかしくないのか?」
「いや、アーバレストと戦ったときは各騎士の連合軍をまとめて指揮をとっていたのはリオンだったからな。アーバレスト軍に勝った一番の要因はリオンの作戦立案とその遂行能力の高さだよ。ペッシを倒したのは俺たち3人でやったって言ったし、戦全体を見て総合的に判断してリオンの武功が一番だってのはそうおかしくないと思うよ」
「っち。相変わらず欲がねえな、アルスは。領地の加増も断ったんだろ?」
「その分きっちりとお金をもらってあるからいいんだよ」
東のウルク家と西のアーバレスト家の戦い。
それが終わり、一通り後始末がついたときだった。
カルロスが今回の戦の論功行賞を行った。
一番武功があったとされたのはリオンで、俺は二番手だ。
どうやらバイト兄はそれが少し気に食わなかったらしい。
だが、リオンの働きは大きい。
というか実質的に軍の指揮官として兵を動かし、勝利までの道筋をつける能力があったのはリオンだけだ。
バルカは基本的に目の前の敵に突っ込んでいくのはできるが、戦場全体の動きを把握し、相手の裏をかくように自軍を有利に働かせるような戦いは難しい。
もう少しそういうこともできるようにならなければいけないだろう。
まあ、そのへんのことは今はいい。
問題はこれからのことについてだ。
俺は武功の二番手として事前にカルロスと話していた通り、主にお金を恩賞としてもらうことに成功した。
普通ならば領地をもらうケースが多いのかもしれない。
特に今回はアーバレスト領で奪った領地がフォンターナにはあるため、加増できなくもなかった。
が、バルカが今まで以上に大きくなるのはいろいろと問題もある。
隣の騎士領の騎士をぶっ殺して領地を占領したという記憶はみんなの頭にしっかりと刻み込まれているのだ。
大金と引き換えに領地を得ない、というのはバルカには領土的野心はありませんよと改めてアピールすることにもつながる。
そして、俺はこの大金から教会に名付けの儀式のための金を支払った。
というか、主にパウロ司教に対してだ。
さすがに名付けの儀式を再び勝手に使うというのはパウロ司教にとっても許しがたいことだろう。
なので、俺は戦が終わったあとに名付けをして増やした、かつウルクの逆包囲戦を生き残ったバルト姓のものを全員引き連れてフォンターナの街の教会に訪れたのだ。
魔法を使える人間数百人で押し掛けてから、密室でパウロ司教にお金をわたして謝罪する。
その念を入れた詫びの入れように感動したパウロ司教は「今回限りですよ」と許してくれたのだ。
これで一件落着だ。
とは、ならなかった。
それは論功行賞が終わったあとにカルロスが言った一言が原因だった。
※ ※ ※
「全員聞け。今回はみなよくやってくれた。すべての騎士が全力を出し働いたおかげでフォンターナ領の危機は去った。だが、今回のことでわかったことがある。それは周囲の動きがこちらの予想を上回るほど早く、かつ不安定だということだ。そこで、これからは我がフォンターナ領では次のことを各騎士に徹底してもらう」
騎士に対して武功に応じた恩賞を与え終わったカルロスが最後に発表した内容。
それはこれまでの領地の運営を大きく変えることになる内容だった。
その内容というのはフォンターナの街の拡張だった。
現在あるフォンターナの街は壁で囲まれた城塞都市だ。
その壁をさらに拡張する。
そして、そこに家を建てて住まなければならないという。
誰が住むのかというと、フォンターナの騎士とその家族だ。
家族というのは具体的に言うと妻子が主な対象だろう。
そして、これは領地持ちの騎士も例外ではないらしい。
今までは自分の領地を与えられた騎士はその領地に館を建ててそこを本拠地としていた。
当然、その館に家族が住んでいた。
フォンターナの街に領地持ちの騎士の館がないわけではなかったが、それは冬に訪れるときのための、いわば別邸のようなものだった。
どうやらカルロスはフォンターナ領の改革に踏み切ったようだ。
それまでのレイモンドの色が強かったフォンターナの勢力図が変わり始めてきたからだろう。
いわゆる中央集権化に近いものかもしれない。
今までのように各騎士が自分の領地でふんぞり返っているのではなく、常に当主のもとに待機しておく体制。
有事のことがあれば、カルロスの一声ですぐに騎士が動けるようにもなる。
が、まあ、最大の原因はバルカだろう。
さすがに当主級を複数倒したという実績があり、機動力のある戦力を持ちつつ、何をするかわからない存在。
いくらなんでもこれを今までどおり放置しておくということはできなくなったのだろう。
フォンターナの街に俺の家族を住まわせておけば、いざというときの抑制にもなる。
以前話していたヘクター兄さんの件を取りやめて、俺自身がフォンターナの街に住まなければならないというのも大きい。
それにフォンターナ領内に裏切り者がいたのも関係するのかもしれない。
勝手に他の領地と内通するものが出ないようにという思いがあると思う。
こうして俺はいよいよバルカニアから住所を移すことになったのだった。
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