対話
「あー、なんとか生き残ったか……」
「お疲れ様です、アルス様。ご無事で何よりです」
「ああ、お疲れ様、リオン。バルカ・グラハム軍は全部で何人くらい残ったかな?」
「おそらく半数ほどかと……。多くのものが亡くなりました」
「アインラッドに向かってきたときの半数か……。シャレになんねえ損害だな」
「ですが命があっただけ良かったと思いましょう。正直わたしも死を意識しましたから」
「そうだな。それもこれもカルロス様が原因だろ。今日救援に来るならそう言っておいてくれたら籠城を続けていたんだから。ちょっと話をしてくる」
軍の半数が死んで、残り全員がケガしている状態とか悪夢だ。
ペッシを倒せたから良かったものの、これはきつい。
さすがにこの問題を放置はできないだろう。
そう思った俺はウルク軍に追撃をかけてからアインラッド砦へと戻ってきたカルロスと話をするために、カルロスがいる陣へと向かったのだった。
※ ※ ※
「この度の戦、大儀であった。フォンターナの危機によく戦ってくれたな」
「ありがとうございます、カルロス様。しかし、どうしてもお尋ねしたいことがあり参上しました」
「例の指示のことだな。陣地で耐えていろというものについてでいいか?」
「そのとおりです。なぜあのような指示を出したのですか? 本当はすぐに救援に来ることができ、実際に来られました。それならばあのような指示を出さずにいてくれたほうがこちらとしては被害が少なく済んだはずです」
「どうしても必要なことだった。貴様らには負担をかけたがやらねばならなかった。許せ」
「必要なこと?」
「そうだ。貴様は考えはしなかったか? どうして、今回の危機が訪れたかについてを」
「今回の危機というのは、ウルク家とアーバレスト家から挟撃されたことですか? 自分で言うのもあれですが、私がフォンターナ領で混乱を引き起こしたからではないですか?」
「それは違う。貴様の行動は確かに色々と問題がある。が、それはきっかけの一つにすぎない。実際は別のところにある」
「別のところですか?」
「ああ、フォンターナの内部に裏切り者がいた」
「え、裏切り者ですか?」
「そうだ。我がフォンターナ領内の一部の連中が今回の件を画策していたのだ。ウルクとアーバレストの両者に連絡を取り、同じ時期に攻撃させる。そして、それを計画したものとしてどちらからも報酬を得ようと考えていたのだろう」
「ああ、そういえばリオンも言っていましたね。東西から挟撃するタイミングが良すぎる、と」
「そのとおりだ。その首謀者をあぶり出すためにピーチャと一芝居打ったのだ。あと5日は様子を見るとみなの前で発言した。その情報をウルク軍に伝えるものがいないかどうかを調べていたのだ」
「なるほど。っていうか、それならば別にこちらに偽の指示を伝えなくても良かったのではないですか? 裏切り行為のあぶり出しには関係ないでしょう」
「それは違うな。やるならば完全にやりきらねばならない。ま、実際に貴様らに命令を伝えるほうが裏切り者を騙しやすかったということだ。もっとも昨日の今日で貴様らが打って出るとは思いもしなかったがな」
「酷いとばっちりなんですが……。結局その裏切り者は見つかったのですか?」
「ああ、ウルクに知らせようと砦を出ようとしたものがいたので、それを捕らえて吐かせた。思ったよりもあっさり見つかった。情報を引き出して裏切り者を牢に繋いだあとに出陣したのだ。だが、まさか貴様たちがペッシをすでに倒しているとは夢にも思わなかったぞ」
まじかよ。
それなら後1日だけでも我慢して耐えていれば犠牲を増やさずに終わったのか。
まあ、そんなことを言っても結果論でしかないが。
気持ち的には納得できない部分もあるが、一応理由があっただけまだマシだと思おう。
それに自陣営に裏切り者がいると考えていたら、俺もカルロスと同じ立場であればアインラッド砦を出ようとは思わなかったかもしれないし。
「それにしても貴様が当主級を2人も倒すとはな……。正直驚いたぞ、アルス。そうだ、褒美は何がいい?」
「褒美ですか?」
「ああ、今回の戦いで武功を上げた貴様たちに褒美を与えるのは当たり前だが、当主級を倒したとなると何をやるべきかが難しい。全員の前で恩賞を与える必要があるが貴様は何を望む?」
「……そうですね、では、事後報告になるのですが我が兄バイトの家をたてる許可を頂きたいです。バルト家として新しい家をたて、その下に配下の騎士を置く許可を出してはもらえないでしょうか?」
「事後報告、だと?」
「はい。実は今回アインラッド砦に救援に向かう前に戦力不足を補うために教会にて名付けを行ったのです。報告が遅れたことを申し訳なく思います。そのうえで兄バイトによるバルト家とその家名を使っての名付けを正式に許可していただきたいと思います」
「……他に報告していないことはあるのか?」
「実は兄とともにリオンも配下を増やすべく教会にて名付けを行いました。リオンから報告がいっているかもしれませんが、私からもご報告申し上げておきます」
「バイトとリオンか。それは本当に教会でしたのだろうな?」
「はい。パウロ司教に確認していただければと思います」
「よかろう。だが、それだけでは当主級2人を討ち取った恩賞としては足りんな。他にはなにかあるか?」
「ほかに、ですか……。それなら金銭を頂きたいのですが……」
「金だと?」
「はい。実はバルカ騎士領は今少しばかり資金繰りに不安がありまして……。恩賞がいただけるのであれば現金で支払っていただけると非常にありがたいのですが」
「それは領地ではだめなのか? 領地があれば安定して収入が得られるだろう? 今回の働きであればそれなりの規模の領地を手に入れることもできるのだぞ?」
「いえ、領地は結構です。ああ、そうだ。もう一つ、こちらが手に入れた雷鳴剣や九尾剣については所有権を認めてもらえると嬉しいです」
「わかった。考えておこう。恩賞についてはほかのものとの調整もあるからすぐには答えられんしな。後で正式に発表する。下がっていいぞ」
「はい。失礼します」
大丈夫かな。
早めに口裏を合わせておいたほうがいいかもしれない。
リオンやバイト兄はもちろんだが、フォンターナの街にいるパウロ司教にも鳥の使役獣を使って事情を説明しておこう。
まあ、何にしてもこれで終わりだろう。
東西から攻めてきたウルク軍とアーバレスト軍は両方とも軍のトップが死亡したのだ。
軍そのものも大きな被害を受けている。
すぐに立て直して攻めてくるということはないと思う。
こうして、第二次バルカの動乱から始まった東西二方面戦争は終結したのだった。
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