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対ペッシ戦

「くらえ!!」


 ヴァルキリーに騎乗したまま、眼前にたつペッシへ向かって走りより武器を振るう。

 その手に持つのは九尾剣。

 かつてウルク家の老将が所有していた魔法剣だ。

 【魔力注入】によって注がれた魔力によって九尾剣には炎の剣が浮かび上がる。

 この炎の剣は実際の剣身以上の長さがあり、剣の形をしているものの本質的には炎の塊だ。

 仮に相手も剣で迎え撃とうとしたところで、相手の剣をすり抜けてしまう。

 そして、その炎によって相手は肉体を焼かれてしまうという恐るべき武器だった。


「っち」


 だというのに、その炎の剣をペッシは防いでしまった。

 左の手で九尾剣から現れた炎をガードしてしまったのだ。

 ありえない、わけではない。

 実際、このことは事前にありえるかもしれないと予測はしていた。

 だが、実際に目にすると恐るべき防御力と言わざるをえない。


 以前戦ったアトモスの戦士という巨人も同様にこの九尾剣の攻撃を受けても耐えていた。

 しかし、俺が隣の騎士領と揉めたときに相手の騎士をこの九尾剣の炎で切りつけた際、相手は即死だったのだ。

 魔力量だけでここまで防御力に違いが出てくるのかと思ってしまう。

 というか、バルガスも似たようなものか。

 魔力を皮膚に集めて防御力を向上させていた。

 かつてバルガスと戦ったときは【散弾】を食らってもびくともしなかったことを思い出す。

 バルガスと違ってペッシは金属鎧を着ている。

 ペッシが同じように魔力を利用して金属鎧ごと防御力を上げているのだとすればその守りは魔法だけには限らないだろう。

 つまり、普通に剣で斬りかかっても傷一つつかない可能性が高い。


「お前の相手はアルスだけじゃねえぞ!」


 俺が九尾剣の攻撃を防いだペッシを見て思考をめぐらしているときだ。

 俺の攻撃のあとからバイト兄が次なる攻撃を繰り出した。

 雷鳴剣だ。

 しかも、先程の敵陣突入時と同じように【魔力注入】ではなく自ら雷鳴剣に魔力を注いでいる。

 どうやら雷鳴剣は魔力を多く注ぐほど威力は高くなるらしい。

 バチバチと閃光を放つほどの雷撃が雷鳴剣の剣身に現れて、それがペッシへと向けられる。


 さらにそのバイト兄の攻撃は今までのように雷撃を放つというものではなかった。

 剣身に雷撃を纏わせた状態の雷鳴剣で切りつけにいったのだ。

 あれなら雷鳴剣によって傷つけた場所から直接体内に電撃をお見舞いできるかもしれない。


「ほう。本当にアーバレストの雷鳴剣を持っているのか。話に聞いたときは他愛もない嘘だと思ったぞ」


「お前は九尾剣か。そいつも俺がもらうぞ」


「無理だな。反対にわたしがそれをもらってやろうではないか」


 バイト兄の強烈な一撃。

 それが決まればさすがにペッシにダメージが与えられるだろうと思ったのだが、そうはならなかった。

 ペッシがバイト兄の攻撃を防いだからだ。

 といっても、先程の俺の攻撃のときと同じように手で止めたわけではない。


 九尾剣だ。

 ペッシも九尾剣を持っている。

 その九尾剣によってバイト兄の雷鳴剣の攻撃が防がれたのだ。

 剣と剣でつばぜり合いのように打ち合うが、バイト兄が持つ雷鳴剣が纏っていた雷撃はすでに無くなっている。

 どうやら激しく打ち合った際に消し飛んでしまったようだ。

 あの雷撃を打ち消すだけの魔力が九尾剣には込められていたのかもしれない。


「バイトさん、離れて!」


 そこへ今度はリオンが加わる。

 といっても打ち合っているところへと切り込んだわけではない。

 リオンはバイト兄とは違って雷鳴剣の雷撃を放って遠距離から攻撃を行ったのだ。

 リオンの声を聞いたバイト兄が離れた直後、その雷撃がペッシへと直撃する。

 だが、それもあまりダメージを与えられていないようだった。


「金属鎧を着ているんだから電撃攻撃に弱いとかってないのか?」


「残念だったな、少年。このわたしがただの鎧を着ているはずがないだろう。貴族の当主に相応しい装備を持っていないとでも思ったのか?」


 もしかして、魔法攻撃に強い鎧とかがあるのだろうか。

 そんなもんがあるのなら俺もほしいもんだ。

 というか、今から思うとアーバレストの当主は鎧なんか着ていなかったな。

 なんかローブみたいなものしか着ていなかった気がする。

 超遠距離から攻撃できる【遠雷】とかいう魔法があるから、接近される可能性を考えていなかったのかもしれない。

 それとも単純に油断をしていたかだが、まあ今となってはわからないことだ。


「さて、遊びは終わりだ、少年たちよ。そろそろ格の違いというものを見せてやろう。特にアルス、貴様にはその九尾剣は相応しくない。本来の使い方というものを見せてやろう」


「な……、まじかよ」


 俺たち3人の攻撃を防ぎきったペッシ。

 そのペッシが攻撃態勢に移ろうとしている。

 だが、俺と同じ九尾剣を持っているはずなのに、俺とは明らかに違う攻撃を行おうとしている。


 それは【黒焔】だった。

 ペッシが九尾剣へと魔力を込めたと思ったら剣身から現れたのは黒い炎だったのだ。

 俺が使ったら普通の炎なのになんで違うんだよ。

 だが、そんな文句を言っていられる状況ではない。


 【黒焔】は危険すぎる。

 ペッシが使う九尾剣の攻撃が俺と同じなら、相手がしたのと同じようにこちらも魔力を防御に使えるのではないかと考えていた。

 だが、【黒焔】ではそうもいかない。

 あの黒い炎は対象を燃やし尽くすまで消えないのだ。

 もし、そんなものを一撃でももらってしまったどうなるか。

 結果は試す前から分かるというものだろう。


「燃え尽きよ」


 その防ぎようもない攻撃を行うペッシ。

 どうやらやつは魔法だけにあぐらをかくタイプでもないようだ。

 おそらくは武術もしっかりと修めているのだろう。

 真っ直ぐに天を向くように掲げた九尾剣を一切のよどみなく振り下ろす流麗な動きで俺へと斬りかかってきたのだった。


 こいつは強い。

 間違いなく俺たちの誰よりも強いと認めざるを得ない。

 この世界の貴族として他の騎士たちの上に立つ存在だ。


 こいつに勝つにはどうすればいい?

 魔力量はどうだ?

 だめだ。

 ペッシの魔力量は俺よりも多い。

 剣の腕も相手が上。

 ならば他に何がある。

 俺が持ち、相手は持たないもの。

 相手の度肝を抜くことができるものはないか?


 そう考えた俺の頭には、魔法の存在が浮かぶ。

 俺がこの世界で今まで生きてこられたものであり、ここまで死なずにすんだ俺だけの武器。

 だが、駄目だ。

 俺の魔法は土が基本で攻撃力がない。

 壁を作るだけではペッシを上回ることはできないのだ。

 即興で石の弾丸でも飛ばそうかとも考えたがそれも却下だ。

 九尾剣や雷鳴剣の攻撃が通用しない相手に今更石を飛ばした程度で勝てるとは到底思えない。


 体中の魔力を練り上げていたおかげで思考は早い。

 ペッシの一撃が振り切られる前にいろんなことを考えることができる。

 だが、決定的な正解というものが得られない。

 俺にはないのか。

 やつに勝つことができる方法が……。


 そう思ったとき、視界の端でちらりと目に入った。

 俺が自分の腰に差しているもう一つの武器が。

 その存在に気がついたとき、俺は無意識に行動していた。


「ッシ」


 右手に持っていた九尾剣から手を離す。

 そして、右手で腰の武器を握り、左手でその武器の鞘を掴んだ。

 そうして、鞘の中を滑らせるようにその武器を走らせ、その勢いのまま武器を引き抜くだけに留まらず攻撃に移る。

 一連の動作によって【黒焔】に纏われたペッシの九尾剣ごと斬りつける。


「……ガハッ。ば……ばかな……。黒焔を打ち消しただと?」


「悪いな。俺の勝ちだ」


 ペッシによる振り下ろしの攻撃に対して真正面から斬りかかった俺の攻撃。

 そこで打ち勝ったのはペッシではなく俺の方だった。

 ペッシの持つ九尾剣はその手から叩き落とされ、さらにその向こう側にあったペッシの体にも切り傷がついている。

 雷鳴剣の攻撃を防いだ鎧にも切れ込みが入っており、その中にあるペッシの身体から血がドクドクと流れ出していた。


 そんな自身の状態を見ても全く事態が飲み込めず、現実を受け入れられない様子のペッシ。

 が、そんな決定的なスキを俺が見逃すはずもない。

 さらなる追撃により、俺はペッシを討ち取ったのだった。

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