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「よし、行きますか」


「作戦はアルスの作った地下道を通って外に出るんだったな?」


「そうだ。俺たちが作った壁とスライムプールの外側に出る地下道を作ってある。そこから外に躍り出て一気にペッシがいる陣地へと強襲をかける」


「それってさ、相手の陣地まで地下道を作ってあるのか?」


「いや、人やヴァルキリーが通れる道を地下に作るのは魔力的にかなりしんどいんだよ、バイト兄。地表から地中深くなるほど魔力を使うから、そこまで長い距離は用意できなかった。一応向こうの布陣を塔の上から観察して、地下道から出た直後に攻撃されないような場所へつなげただけだな。ペッシまではちょっと距離があるかもしれない」


「わかりました、アルス様。それでは最後の確認です。今よりこの陣地より地下道を通って脱出。その後、ウルク軍を率いているペッシ・ド・ウルクを強襲し、これを撃破。後に敵陣を脱出する。以上でよろしいですか?」


「……そうやって改めて聞くと、わざわざペッシを狙う意味あるのかな? 普通に脱出してもいい気もしてきたんだが……」


「今更そんなことを言い出さないでくださいよ、アルス様」


「そうだぞ、アルス。なに弱気になってんだよ」


「バイトさんの言うとおりです。それにおそらくウルク軍もアルス様の脱出はなんとしても防ごうとしてくるでしょう。向こうの布陣はこちらの陣地をしっかりと囲って逃げ場を封じています。そこに察知能力の高いウルクの騎士が配置されているはずですから」


「ああ、【狐化】したやつらの探知能力は高かったな」


「そのとおりです。もしも弱気になって逃げようとした場合、ウルクの騎士に捕捉され取り囲まれたところにペッシという強大な相手を前にすることになります。それならば、最初からこちらがペッシを狙って攻撃したほうが消耗度も考えると得策であると思いますよ」


「なるほどね。何にしても俺はペッシを倒さないと逃げることもできないっていうんだな。悪かった。情けないところをみせた。俺もキチンと覚悟を決めるよ」


「そうだぞ、アルス。お前が弱気だったら周りのみんなにそれが感染るんだからな。絶対にペッシを倒すくらいの気概を見せろよ」


「ああ、そのとおりだな、バイト兄。よし、じゃあ、改めて行きますか。今回の獲物は狐のボスだ。気を引き締めていくぞ」


「おう」


「はい」


 長いようで短い、あるいは短いようで長い籠城戦。

 その最終局面が近づいてきた。

 カルロスの援軍を期待して始めた急造の陣地での籠城だったが、その作戦の根幹であったカルロスが来ないという事態。

 そして、ウルク家の上位魔法【黒焔】が想像以上に凶悪だったことでこちらの作戦は修正せざるを得なくなった。

 陣地を捨てて包囲しているウルク軍に突撃を行い、ペッシを討ち取る。

 それが成功したら即座に包囲を破って逃げる。

 とにかく俺が助かるにはそれしかない。

 俺は一縷の望みをかけて自分の身を守るために建てた壁の外へと地下に作った小さなトンネルを通って出ていったのだった。




 ※ ※ ※




「よし、出るぞ。騎兵は俺のあとに続いてペッシのもとへ直行する。歩兵はバラバラにならないようにかたまって敵を食い止めろ。俺たち3人がペッシを討つ時間を確保しろ」


 俺が地下道の最終地点まで来てから一度後ろを振り返って指示を出した。

 そして、その直後に地下道の行き止まりの壁へと手を当てて魔力を送り込む。

 最後の壁となる地面を魔法を使って穴を開け、そこから外へと顔を出す。

 サッと周りを見渡し周囲に人がいないことを確認し、すぐに一緒に外へと出たヴァルキリーへと飛び乗る。


 そうして、俺が出ていった後からも地面から続々と人とヴァルキリーが出てきた。

 といっても、大きな損害を受けたとは言えこちらも800人ほどがいるのだ。

 全員が外に出るまで待っていたら時間がかかりすぎて、こちらの存在に気が付かれてしまうかもしれない。

 そこで俺はバイト兄とリオン、そして騎兵200と角あり200を引き連れてペッシのもとへと先行する。

 歩兵たちはその後から続き、騎兵が相手に突撃をかけた後の穴を広げるようにしてもらうこととした。


 ヴァルキリーに乗って駆け出す。

 時刻は明け方ですでに太陽の光が昇り始めていた。

 この数日間で一番相手からの攻撃が緩まる時間帯を狙ったものだ。

 うまいこと相手が寝ていたり朝食の準備でもしてくれていればいいのだが……。


「敵襲! 敵襲だ! 騎兵だ、バルカが出てきたぞ!」


「やっぱ、そううまくはいかないか。ま、ここにペッシがいることはわかってんだよ。散々俺たちを石焼きにしようとしてくれた落とし前はつけさせてもらうぞ」


 俺が向かう先の陣地には頭から狐の耳を生やした騎士がいた。

 そいつは俺たちの姿が見えないうちからこちらの存在を察知していたらしく、すでにぞろぞろと集まってきている。

 やつらも決して油断などしていなかったのだろう。

 朝も早い時間だというのに、きちんと武装してこちらを迎え撃とうとしている。


「俺がやる。アルスは後ろに引っ込んでな」


 騎士たちが待ち構えているところへとそのまま突っ込もうとしたとき、俺の後ろからバイト兄がそう声をかけて前に出てきた。

 そうして、手に握る魔法剣に魔力を注ぎ込み雷撃を放つ。

 というか、今のは【魔力注入】の呪文を使わずに直接魔力を流して魔法剣を発動させていたのではないだろうか。

 おそらく普段以上に魔力が注がれた雷鳴剣はその魔力をエネルギー源として、かつてないほどの威力の雷撃を発生させていた。


 その雷撃にはさすがに通常の人間以上の身体能力を持つ【狐化】したウルクの騎士たちの動きまでもを完全に止めてしまっていた。

 そこへと容赦なく突っ込む騎兵隊。

 まるでたくさんの自動車に突っ込まれてしまったかのように、こちらを迎え撃とうとしていた騎士が撥ね飛ばされた。


「ナイスだ、バイト兄。いくぞ、全軍そのまま突撃しろ!」


「今の見たかよ、アルス。今まで以上の威力だったぞ」


「ああ、すごいな、バイト兄。でも、あまりやりすぎるなよ。ペッシと戦うまでに魔力切れになっていましたとか笑えねえからな」


「わかってるって、アルス。だけど、その心配はいらないな。どうやら本命はすぐそこのようだぞ」


「……ホントだな。向こうも自分の実力に自信があるみたいだ。どうやらお出迎えしてくれるみたいだな」


 バイト兄による攻撃で敵陣へと入り込むことに成功した俺たち。

 塔の上からおおよその場所の確認はしていたので、この方向にペッシがいることは間違いないと思っていた。

 だが、騎士に守られた陣地の一番奥に居座っているものだと思っていた。

 何人いるかもわからないウルクの騎士を倒しつつ、敵陣を中央突破しペッシを討つ。

 その必要があるのだと思っていた。


 だが、どうやらその予想は外れたようだ。

 もしかしたら、アインラッド砦から出てくるかもしれないカルロスのことを警戒していたのかもしれない。

 ペッシは敵陣の中でも俺たちの陣地の方に近いところへと陣取っていたようなのだ。

 万が一にも自分たちが包囲しているところへ、後方からカルロスの襲撃があってはいけないと考えたのかもしれない。

 なんにしても、いち早く相手のトップのもとへと近づけただけでもこの奇襲は意味があったということだろう。


「黒焔」


「散開。手はず通りにほかを抑えろ」


「ふむ。はじめまして。小さな騎士たちよ。自分たちからわざわざここに来たということは首を差し出しにきたのかな?」


「寝言は寝て言え。ペッシ・ド・ウルク、あなたの首を貰いに来た」


「残念だが、それは無理と言うものだ。少年たちよ、君たちではわたしには勝てない。我が炎によって安寧の眠りにつくがいい」


「……やるぞ、バイト兄、リオン」


 次期当主とか言うが遠目で見たときも思ったがそこそこ年をとっているようだ。

 なかなかダンディなおじさんがこちらを出迎えてくれた。

 なんかこうなるとオヤジ狩りみたいだな、などと命の危機にあるものの考えてしまう。

 が、これ以上の言葉はいらない。

 二言三言ペッシと言葉を交わした後、俺はすぐさま攻撃体勢に入り、ペッシへと斬りかかったのだった。

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