ウルクの行動
「向こうの動きはどうなっている?」
「はっ。バルカ・グラハム軍はこちらの軍に対し夜襲を仕掛けました。逃走するバルカ・グラハム軍を追跡して陣を出た部隊ですが、その後敗北。バルカ・グラハム軍はそこで動きを止めて新たな陣地を構築しているようです」
「そうか。バルカというのは存外厄介な連中のようだな」
「はっ。昨年も我らウルク軍に大きな損害を与えたのが、そのバルカですから。今回の部隊も前回のキーマ騎兵隊も文字通り殲滅されています。恐るべき攻撃力を誇ると言わざるを得ません」
「いや、そうではない。俺が言っているのはそんな表面的なものではない」
「どういうことでしょうか? ぜひとも、ウルク家の次期当主様のお考えを私に教えていただきたいものです」
「ああ、と言っても難しい話ではないがな。お前はバルカ・グラハムの軍の指揮官について知っているか?」
「はっ。バルカ軍を統率しているのはバルカ家の当主アルス・フォン・バルカ、グラハム軍はリオン・フォン・グラハムです。どちらもまだ、当主になったばかりの若者だとか」
「そうだ。やつらはまだ若い。アルス・フォン・バルカがまだ11歳だというのも信じられんが、リオン・フォン・グラハムも15歳ほどだという話だ」
「末恐ろしい子どもたちですな」
「ああ、だが、やつらの軍の運用を見てみろ。子供らしさがないとは感じないか?」
「……子供らしさでございますか?」
「お前も自分の子供がいるだろう。あるいは自分が10代だったころのことを思い出して考えてもみろ。10代半ばで軍を統率し、敵を散々に打ち破る勝利を得たとき、お前ならどうなると思う?」
「そうですね。間違いなく調子に乗るでしょうね。家に帰れば大げさに自分の活躍を話してしまうかもしれません」
「そうだ。というよりも、あれ程の大勝であれば子供でなくとも浮ついてしまうものだ。そして、その浮ついた状態は軍の運用につながる。普通ならば調子に乗って、その勢いのままに更に攻撃をしてしまうものだろう」
「そうかもしれません。勢いに乗るというのは普段以上の攻撃力を発揮することができるものです。その分しっぺ返しもくらいやすく、今までに何度も痛い目を見てきましたが……」
「そうだ。我々軍を率いる者というのは多かれ少なかれそういう失敗をしているものだ。だが、奴らは違う。あれほどの勝利を得たというのに、その後ピタリと動きを止めて陣地づくりを始めている。率いている兵たちもそれにおとなしく従っているようだ。昨年からのバルカの情報を見るだけであれば、その攻撃能力の高さに目が向くが、実際に見ると勢いだけの集団ではないというのがよく分かるというものだ」
「なるほど。確かにそのとおりですね。確かに子供があの軍を率いているというのは情報を知らなければ思いもしないかもしれません。もしかすると軍の動かし方を熟知している者がバルカ・グラハム軍についているのかもしれませんね」
「そうかもしれんな。だが、トップがその意見を聞かなければ浮ついた気持ちが出てしまうものだ。そうではないということは、その新米子供当主たちの資質ということになるのではないか?」
「……それほどまでですか。やつらの存在は」
「ああ。だからこそ、今のうちに叩いておこう。大きく育って大輪の花を咲かす前に摘み取っておかねばならん。我らウルクの未来のためにも」
「おお、では……」
「ああ、俺が出る。バルカとグラハムの当主はこの俺、ウルク家の次期当主たるペッシ・ド・ウルクが直々に潰してやろう。全軍に告ぐ。バルカ・グラハム軍を攻略するぞ!」
※ ※ ※
「見ろよ、リオン。ウルクの連中は普通とは違う行動に出たみたいだ。囲まれるぞ」
「そうですね、アルス様。どうやら、ウルク家はこの戦いの戦果としてアルス様の首を持ち帰ることを選んだようです」
「怖いこと言うなよ、リオン。っていうかどうするんだよ。まだ、陣地も作り始めたばかりだから、こっちの備えも完璧ではないんだぞ?」
「ひとまず、外にいる者たちを陣地に収容して防衛の準備をしましょう。この状況をカルロス様が見逃すとも思えません。こちらがウルク軍の攻撃を防いで時間を稼いでいれば、アインラッド砦から出陣したカルロス様が相手の背後をつくことができます」
「ようするに陣地に籠もって籠城ってことね。こんなことならバルガスも連れてきておけばよかったかな」
ウルク軍を破った罠の地点を利用して、俺は陣地を作っていた。
壁で囲った場所の外にスライム入りの浅いプールがある陣地。
それをウルク軍が取り囲もうとしている。
数としてはすでに5000以上が動いているのではないだろうか。
もしかしたらもう少し増えるかもしれない。
こちらの数を圧倒している上に、陣地から逃亡できないようにしっかりと囲い込んでいるようだ。
どうやら、相手は当初の目的であるフォンターナ領の侵攻から勝利条件を切り替えたようだ。
撤退する条件として、カルロスの援軍としてやってきた俺の首を取り、それを持ち帰ることで作戦は失敗したが負けたわけではないと主張するつもりなのだろう。
だが、援軍として駆けつけたこちらに対して大多数の兵を割いて攻撃するということは、それまで包囲していたカルロスのいるアインラッド砦が手薄になることになる。
さすがにそれをカルロスが見逃すはずがない。
まあ、そんなことは相手も重々承知だろう。
ということは、こっちの陣地を囲んで兵糧攻めなどという気の長い攻略方法を取ることはないだろう。
一気に攻め立ててそのまま攻め落とすのが狙いのはずだ。
「ウルクの当主級が出てくるかな、リオン」
「そうでしょうね、アルス様。向こうにはウルク家の次期当主であるペッシ・ド・ウルクがいるという情報があるようです。まず間違いなく出てくるでしょうね」
まじかよ。
アーバレストの当主の【遠雷】のような攻撃をされたらこんな陣地に籠もっていても危ないのだ。
ペッシはウルクの当主と同じ上位魔法が使える当主級だという。
事前準備もなしにまともに戦ったらあっさりと潰されてしまいかねない。
カルロスへと救援の手紙を送りつけながら、俺は天に祈りを捧げつつ、迎撃準備に取り掛かったのだった。
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