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溶ける

「よし、ウルク軍が罠にかかった。壁を作れ」


「了解。壁建築」


 スライム入りの死のプールへと俺を追撃してきたウルク軍が入り込んだ。

 その状況は阿鼻叫喚といえるものだった。

 だが、相手には悪いがここで手を緩めるわけにはいかない。

 罠に入り込んだウルク軍を見て、俺は次の指示を飛ばしたのだった。


 追撃してくるウルク軍をスライムの餌にするためにそれなりに広く浅く作っていた水場を囲むように壁を建てていく。

 スライムの攻撃を受けつつも、決死の覚悟で突破してこようとしても壁に阻まれて水場から上がれなくするためだった。

 角ありまでも使って水場を囲むように左右に分かれて壁が作られていく。


 ウルク軍も罠にハマってしまい混乱していたが、徐々に落ち着きを取り戻してくる。

 大猪のように突進して止まれないというわけでもないのだ。

 水場に入り込む前に立ち止まることになる。

 水に落ちて負傷した者たちを救助する者や、その手助けをする者、状況把握に精を出す者などいろいろといる。


 が、結論として完全に軍としての足が止まった。

 ここが最大のチャンスだ。

 罠を囲むようにして壁を作りながら移動していた俺たちが再び攻撃へと移る。

 しかし、今からするのは騎兵による突撃だけではなかった。

 新たな兵が投入されたのだ。


 事前にこの罠の地点までウルク軍を誘導するようにしてきた俺とバイト兄の騎兵団。

 我がバルカの最強の部隊である騎兵団だが、それだけが俺の動かせる戦力ではない。

 俺が引き連れてきていたのは騎兵だけではなくバルカ・グラハムの歩兵もいるのだ。

 その歩兵部隊はこの罠地点の近くで待機させておいた。

 前回の隘路のときと同じように、リオンが指揮を執る歩兵部隊が危険な水場の罠の前で立ち止まってしまったウルク軍へと背後から襲いかかったのだった。


 追撃をかけていたはずの自分たちが背後から襲われる。

 これによって再びウルク軍は立ち直りつつあった混乱に引き戻された。

 そして、人間というのは背後から攻撃されたと気がついたときには無意識に逃げようとするものだ。

 そう、突発的な攻撃によって本能が逃げに傾いた兵たちは走り出そうとしたのだ。

 この場合、後ろから襲われた逆の方向、つまり水場の罠の方へ走り出したのである。


 おそらくまだ日が出ていない暗い状況であるというのも効果があったのだろう。

 人数の多い軍では足を止めた全員が状況を確認できていたわけではなかった。

 なぜ追撃を仕掛けていたはずなのに止まったのかわからず怒鳴り声をあげていたものもいるのだ。

 そんな連中が自身の背後から襲われて逆方向へと逃げるさいに、自分がいかに危険な場所へと走ろうとしているのかは全く理解できていなかった。


 罠にかかって先頭部隊が文字通り溶かされているところをみて足を止めた前方の軍を押すように、事態を把握しきれていない後方の軍が前の連中を押し込みながら罠へと突っ込んでいく。

 もちろん、前方にいた連中はたまったものではない。

 大声で叫びながら後方の兵が前に進むのを止めようとし、それが無理だと分かると攻撃魔法を使ってでも動きを止めようとする騎士まで現れてしまった。

 だが、後ろの人間も助かるために動こうとしているところに味方から攻撃を受けて、より冷静さをなくしていく。

 こうして、ウルクの追撃軍は指揮系統の全く機能しない人々の集まりへと成り果ててしまったのだった。


 こうなると話は簡単だった。

 俺たちのほうは後ろから背中を突くだけで相手が勝手に罠へと入っていってくれるのだ。

 中には少人数をまとめて何とか血路を開こうとこちらへと突撃してくる者もいる。

 が、それには俺やバイト兄が雷鳴剣を使って対処していく。

 対多数に有利なこの魔法武器が相手だと少人数ではどうしようもなかったのだろう。

 結局、こちらの囲みをまともに突破できるような者はほとんどいなかった。


 こうして、夜襲を仕掛けたバルカ軍に対して動いたウルクの追撃軍約1500が文字通り溶けてしまった。

 アインラッド砦の攻防戦のために援軍としてバルカ・グラハム軍が到着したその日の早朝の出来事。

 この、たった一戦だけでウルク軍は全体の20%ほどもの損害を被ることになったのだった。

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