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「おお、すごいな。アインラッド砦からバンバン投石が飛んでるぞ」


「そうですね。ですが、ウルク軍も果敢に攻撃を仕掛けているようです。見たところまだお互い決め手がなく膠着状態といったところでしょうか、アルス様」


「お前もそう思うか、リオン。多分、どっちも余力がある。お互い当主級の戦力を温存しているみたいだしな」


「さて、これからどうするおつもりですか、アルス様。何か考えはあるのか伺ってもよろしいですか?」


「……アインラッド砦についたらカルロス様に会いに行こうと思っていた。けど、砦の周りをウルク軍が包囲しているから近づきにくいな。どうするべきか……」


「こちらはバルカ・グラハム軍で1000に満たないですからね。ウルク軍の包囲を破ってアインラッド砦に入るのは危険だと思います」


「そうなると、後は包囲している外から攻撃をするくらいしかないんじゃないか、リオン。騎兵を中心にしてチクチクと一撃離脱の攻撃をするって感じで」


「悪くはありませんが、私としては別の案を提案したいと思います、アルス様」


「なんだ? どんな考えがあるんだよ、リオン?」


「ウルク軍を死地へと誘い込みます。前回アルス様がウルク軍を破ったときのように」


「……まさかまた夜襲して罠にはめようっていうのか、リオン。さすがに一度食らった罠をもう一度やられて釣られるほど相手も考えなしじゃないだろ。せっかくアーバレスト軍に勝ったのにここで危険を冒して死んだらおしまいだぞ?」


 もうそろそろアインラッド砦へとたどり着く頃になって、俺はヴァルキリーに乗って道を先行していた。

 偵察だ。

 カルロスがいるアインラッド砦がどのような状況なのかを自分の目で確認しておきたかったからだ。

 それに一緒についてきたリオン。

 そのリオンと遠くから双眼鏡を通してアインラッド砦を見ながら話していた。


 どうやら、ウルク軍がアインラッド砦を包囲して攻城戦を仕掛けているようだ。

 だが、俺が改修したアインラッド砦はそう簡単に破られたりすることはないだろう。

 なんといっても【アトモスの壁】でしっかりと囲ってしまっているのだから。


 だが、それは逆にカルロス率いるフォンターナ軍にも攻め手がかけるという側面にも繋がっていた。

 元々が、東と西から攻められるという二方面作戦での防衛側であり、フォンターナの戦力を分けざるを得なかったという事情もある。

 砦にこもって守ることはできても、勝ち切ることはできない。

 そんな膠着状態に陥っていた。


 そこで、どのように俺たちの軍が手を出すか、リオンと意見を交わす。

 が、俺の消極的ながら確実だと思う案に対して、リオンはむしろ危険を伴う作戦を勧めてきた。

 わざわざ危険を冒す必要があるのだろうか?


「いいですか、アルス様。奇しくも今回は前回と同じ状況が再現されつつあります。ここはやはり罠の待ち受けるところへとウルク軍を釣り出すようにすべきだと思います。いえ、むしろチャンスは今しかありません」


「どういうことだ、リオン。状況が再現されている?」


「はい。思い出してみてください。前回のウルク軍に対する夜襲が成功した理由についてを」


「理由って言ったってな。罠をうまく用意できたところとか、ヴァルキリーが役立ったとかそんくらいしか思いつかないけど……」


「それも成功の要因にはなったと思います。が、一番の要因はアルス様がウルク家にとって見過ごすことのできないものを相手に見せたということが大きかったはずです」


「……そうか、九尾剣だな。確かにウルクの騎士たちは九尾剣を見て、無警戒に俺たちを追いかけてきたんだったな」


「そうです。あの場では夜襲を防いだ時点で追いかけずに警戒態勢を維持するだけという選択肢も相手にはありました。しかし、九尾剣という餌に見事につられてしまった。罠の効果もありましたが、ウルクにとって一番の敗因は九尾剣に釣られたことです」


「つまり、今回も九尾剣を見せびらかせて相手を引き出すってことか。そこまでうまくいくかな?」


「いいえ、九尾剣だけでは次も同じように釣れるとは限りません。ですが、今回はさらにいい餌があります」


「もっといい餌? そんなもんがあるのか、リオン?」


「はい、アルス様です。今のウルク軍にとってアルス様の姿は必ず食いつく餌となるでしょう」


「ちょっといいかな、リオン君。君は俺を餌扱いにしようと考えているのかな?」


「申し訳ありません、アルス様。言い方が適切ではありませんでしたね。ですが、アルス様がウルク軍を引きつけるというのは事実です」


「別にいいんだけどさ。カイルもリオンももっと俺を大事に思いやってほしいんだけど。でも、なんで俺が餌になりえるんだよ?」


「よく考えてみてください。ウルク軍の目的を。彼らは西のアーバレスト家と極秘に連絡をとって東西から挟撃するという作戦を実行したのですよ」


「そうだな。それで?」


「ですが、その作戦は現在失敗に終わっています。反対側のアーバレスト家の敗北という形で。しかも、その情報はすでに周りへと広まっています。その情報をウルク軍が全く知らないということはありえないでしょう」


「そうだな。多分アーバレストが負けたってことを知らないってのはありえないだろ。ここに来るまでの村人でも知ってたしな」


「そうです。ですが、作戦が失敗したはずのウルク軍は何故かいまだにこの土地にとどまっている。我々が急がずに兵を進めてきてたという時間的猶予があったにもかかわらずにです。それはなぜだと思いますか?」


「もしかして、……俺たちが来るのを待っていた、とかか?」


「そうです。正確に言えばアルス様を、でしょうね。一年前にアインラッドの丘争奪戦という戦いにおいて、ウルク家当主の実子とその騎兵隊を打ち破り、ウルクの援軍を一夜にして作戦続行不能に陥らせた宿敵アルス・フォン・バルカ。そのバルカ家の当主アルス様がアーバレスト家を打ち破り、東へと向かった。この状況で、それでもあえて待ち続ける理由。それはアルス様の首を狙っているということにほかなりません」


「まじかよ。俺の首を狙ってるやつとかがこの世にいるのか。物騒すぎるだろ……」


「そこでアルス様が九尾剣を持ちながら現れたら、相手はどう動くと思いますか?」


「……本気で追いかけてきそうだな。アインラッドの包囲よりも優先して」


「そのとおりです。すなわち、これがアルス様が最高の餌になるといった根拠です。最初の一回です。最初だけはまず間違いなくウルク軍は釣りだすことができます。つまり、そこに勝機があるということです」


「なるほどね。相手の次の一手が間違いなく分かるからこその罠を仕掛けるって話ね。いいよ、わかった。俺がその餌という大役を務めてみせるよ、リオン」


「ありがとうございます、アルス様。では、さっそく準備に取り掛かりましょう」


 リオンの言うことは間違っていない。

 が、やはりそんなに恨まれて、かつ待ち構えている相手に対して自分の身を晒すのは怖い。

 しかし、やらざるを得ないだろう。

 ここで俺が逃げたとしてもカルロスという俺の身分の保証人がいなければどのみちいつかは困ることになるのだ。

 ならば、ここはチャンスがあるぶんだけ状況はいいのだと思うしかない。

 こうして、俺は再びウルク軍に対する罠を仕掛けることにしたのだった。

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