移動日
「バルガス、この城を頼んだ。というか、立地が立地なだけに大雨とかが降ったときにどうなるかわからんからな。増水したときのことを考えて、今後も使える城にしといてくれないか?」
「おう、わかったぜ、大将。俺も城造りには慣れてきたからな。まかせとけよ」
「頼んだ。それと、ガーナ殿にも一ついいですか?」
「なんでしょうか、アルス殿」
「私達フォンターナ軍はアーバレスト軍に勝ったうえに水上要塞や他の騎士の館も落としています。ですが、バルカはこれから東へ向かってカルロス様の援護に向かうことになります。そこで、アーバレストがどう動くか警戒をお願いしたいのですが」
「わかりました。何かあればすぐに連絡しましょう」
「ありがとうございます。ついでと言ってはなんですが、戦利品の管理もお願いできませんか?」
「それはありがたいですがバルカはよいのですか? 今回の戦で得るものがなくなるかもしれませんよ?」
「そうですね。代わりと言ってはなんですがアーバレストの当主と川の中にいた騎士から手に入れた2本の雷鳴剣はバルカがもらうということでどうでしょうか」
「……ふむ、こちらも手に入るのならぜひともほしいですが、魔法剣についてはあなたが自ら倒した相手ですからね。我々にそれを求める資格はさすがにないでしょう。わかりました。その条件であればこちらは何の文句も出ないでしょう」
「では、そのようにお願いします」
うーん、とりあえずはこんなものだろうか。
西のアーバレスト家との戦いに勝利した俺だが、すぐに東へと向かうことになった。
しかし、何の手立てもせずに引き返すわけにもいかない。
一応の処置としてバルガスに新しく作った急造の防衛用の城をこれからも使えるように整備してもらい、アーバレスト領を他の騎士に面倒を見てもらう。
まあ、後で何かあればそのときはその時だ。
運良く雷鳴剣が見つかったので、そいつはもらっておく。
なかなか手に入ることのない魔法武器が手に入ったので個人的には満足だ。
「よし、それじゃ東へと向かうことにしますか。リオンも来てくれるんだよな?」
「はい。アルス様を放っておくわけにはいきませんから」
「信用ねえな。まあ、よろしく頼む」
うーむ、年上の弟から微妙に信頼を失っているような気がしなくもない。
リリーナさん、あなたの弟が俺を見る目が変わってきているんですけど。
もうちょっといいところを見せておいたほうがいいかもしれない。
密かにもっと頑張ろうと心に誓いながら、俺は西から東へと移動を開始したのだった。
※ ※ ※
「しかし、こうしてみると道路のあるなしってのはかなり違うな。アーバレスト領を西に進んでいったときにはこんなしっかりした道路なんてなかったから余計にそう思うな」
「そうでしょうね。というか、アルス様の魔法がすごいのですよ。ここまで移動しやすい道を作る魔法はおそらく他にはないでしょう。通常よりも何倍も速く移動できるので、カルロス様のもとにすぐにたどり着くと思いますよ」
「移動速度もそうだけど、道に迷いにくいっていうのもいいよな。道路を真っ直ぐに進めば目的の場所に行けるし。実はアーバレスト領の中でリオンから連絡をもらったとき、迷わずに川の間に作った城に戻れるか、ちょっと不安だったんだよ」
「そう言われるとそうですね。ここまでしっかりした道なら迷うこともないのですね。うーん、グラハム騎士領を手に入れて喜んでいましたけれど、道路造りについてしっかりと考えておくべきでしょうか」
「ああ、そうだな。リオンのところなら人材派遣も割引してやるぞ」
「……親戚特権としてただではやってもらえないのですか、アルス様?」
「ねーよ。俺はきっちり金をもらう主義だ。というか、もらわないとうちの家計は火の車だしな」
「アルス様は常にお金を使い込んでいますからね。姉さんを路頭に迷わせないようにしてくださいよ?」
「わかっているよ、そんなこと。それよりグラハム家はどうするんだ? 領地を得てからの金儲けについてはなにか考えているのか?」
「どうしましょうか。とりあえず、この戦が終わってから落ち着いて考えてみる時間が必要ですね」
アーバレスト領からフォンターナ領へと戻り、そのまま領内を突っ切るように東へと向かう。
だが、一目散に全速力でカルロスのもとへと駆けつけるというようなことはしなかった。
というか、それはリオンに止められた。
リオンいわく、東のウルク領に近づいたらいつ戦闘になるかわからないのだから、しっかりと体力を温存しながら向かうべきだという。
そのため、騎乗して全力で走るようなことはせず、歩兵が無理なくついてこられる最大ペースで東へと向かうことにした。
その道中、道路のありがたみがよく感じられた。
しっかりと舗装されていて荷車をひいても足元の石に乗り上げて移動できないなどといったことがまったくない道路はかなり移動しやすい。
こう言ってはなんだがアーバレスト領と道路のあるフォンターナ領は全く別の世界のようにすら感じられた。
自分で魔法を作っておいていうのもおかしいが、よくこんな魔法を作ったものだと感心してしまう。
「おい、アルス。そんなことより、本当にこれをもらってもいいのか?」
「ん? いいんじゃないの? 雷鳴剣は2本あるんだし」
「本当だな? 後で返せとか言うんじゃないぞ? もうこれは俺のもんだからな」
「わかってるよ、バイト兄。その雷鳴剣はバイト兄のものだ。アーバレストの当主が持ってたほうは俺が預かるからな。当主を倒した証拠にカルロス様に見てもらう必要があるし」
「よっしゃ、これが夢にまで見た魔法武器か。アルス、これで俺はもっと活躍してみせるからな。見てろよ!」
「もう十分活躍してるよ、バイト兄は」
俺が移動中にリオンと話をしていると横からバイト兄が声をかけてくる。
前から欲しがっていたのでバイト兄に手に入れた魔法武器の雷鳴剣を渡したのだ。
アーバレスト領を騎兵で攻めたときにはバイト兄はいつも最前線で戦ってくれていた。
騎士の館を攻めるときには一番前に出て突撃していたのだ。
当然、何度か危ないこともあった。
貴重な魔法武器だが、それを渡すだけの活躍は十分すぎるほどしてくれている。
だが、おもちゃを貰った子どものように肌身離さず持ち運び、いつでも使おうとするのもどうかと思うが。
魔力を込めれば剣の先から電撃が放たれる効果のある雷鳴剣。
魔力を込めてから剣を振れば電撃が放たれ、それに当たれば感電し動けなくなる。
氷精剣や九尾剣よりも対多数の戦いで役立ちそうな魔法剣だった。
ヴァルキリーに騎乗して相手に突撃していくことの多いバイト兄にはすごく使いやすい武器だと言えるだろう。
そんな喜びが弾けたバイト兄を見ながら更に移動を続け、ようやくカルロスのいるアインラッド砦が近づいてきたのだった。
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