新たな動き
「おい、そこの馬鹿者」
「……え?」
「貴様のことだ、大馬鹿者が。これからは貴様のことはこう呼ぶことにしようか」
「すいません、カルロス様。さすがにそれはお許しを」
「これくらいで許そうとしている寛大な俺に感謝するんだな、馬鹿者が。貴様のおかげでわがフォンターナ領の騎士の数がどれほど減ったことか」
「でも、当主であるカルロス様に反抗的なものはいなくなったからいいではないですか」
「……だが、一番危険なやつが俺の眼の前にいるんだがな。今のうちに殺しておこうかと考えてしまうのだが、貴様はどう思う?」
「そんな、カルロス様がわざわざお手を煩わせることはありません。私に言っていただければきちんとおとなしくしているようにそいつに言い聞かせておきますよ」
「本当におとなしくしてほしいものだ。まあ、よい。それよりも今後のことを話そう」
「はっ」
「貴様がガーネス家を始めとした騎士家から奪い取った領地だが返還してもらおう。領地が欲しくて戦ったわけではないと言っていたのは嘘ではあるまいな?」
「もちろんです、カルロス様」
「よし。では、この返還された領地には新たに騎士家をたててそこが治めることにする。リオン、前へ出ろ」
「はい」
「リオン。貴様を我が騎士とし、新たな騎士家をたてることとする。これより貴様はリオン・フォン・グラハムと名乗り、新グラハム領を統治しろ」
「はっ。リオン・フォン・グラハムはカルロス・ド・フォンターナ様へ忠誠を捧げ、頂戴した騎士領を適切に運営することをここに誓います」
「よろしく頼む。貴様の領地の隣には頭のおかしい大馬鹿者がいるが、せいぜい気をつけることだ」
「わかりました。その方は我が姉を通して婚姻関係にあるようなので、姉にも落ち着かせるようにと言っておこうと思います」
「おい、聞こえているか、大馬鹿者。これより、貴様の領地はグラハム家と隣接するがくれぐれも問題を起こさないようにしろ。よいな?」
「もちろんです、カルロス様。このアルス・フォン・バルカ、決して親族であるリオンとは争わないと誓いましょう」
「今はそれが真実になることを祈ろう。それから、貴様にはもう一つしてもらうことがある。なにか分かるか?」
「……いえ、わかりません。何でしょうか?」
「我が居城のあるフォンターナの街に土地を用意した。そこへバルカの館を建てろ。そうして、その館に貴様の弟を住まわせろ」
「……弟のカイルは魔法を作りリード家をたてましたが、まだものの分別もわからない子供です。館の管理など無理でしょう。そうですね。我が兄ヘクターをその館へと住まわせることにしましょう。ヘクターはもうひとりの兄であるバイトと同じ役職について仕事をしているもので、我がバルカにとっても重要な人物ですので」
「……良かろう。貴様の兄、ヘクターを新たに作った館の主としてすぐに移せ。我が居城にも顔を出すように言っておけよ。仕事をしてもらうこともあるだろう」
ごめん、ヘクター兄さん。
どうやらカルロスは俺に対しての人質みたいなものが手元にほしいようだ。
が、そんな理由でカイルが俺のもとから離れるのは困る。
もしかすると、もう畑仕事ができなくなるかもしれないけどヘクター兄さんにはフォンターナの街に行ってもらうことにしよう。
エイラ姉さんがどうするかも確認しておかないといけないな。
一緒にフォンターナの街に移住するというのであれば、エイラ姉さんの後任も決めなければいけない。
誰かいい人がいるだろうか?
ほかにもいろいろと考えないといけないことがあるな。
なんだかよくわからん流れでリオンが独立してグラハム家を再興することに成功してしまった。
今回の騒動で結構な数の騎士が亡くなったのは本当で土地に政治的空白が生じてしまうことになったからだ。
俺が奪った土地やカルロスに反抗的な勢力を潰した土地が新たにフォンターナ家直々の領土となった。
それによって、フォンターナ領はかつてのレイモンドの強い影響下にあったときと違い、当主カルロスの力が強い土地に完全に変わった。
だが、問題もある。
現状ではカルロス派の主流として俺がいるのだ。
レイモンドを討ち取り、旧レイモンド派とも戦いつつ、その旧レイモンド派の一部を派閥へと取り込んだと主張している俺が。
ぶっちゃけて言うと、今の俺はフォンターナ領の中でもかなり大きな顔をすることができるところまできてしまっていた。
が、普通に考えればカルロスも嫌なのだろう。
俺みたいに政治的判断力がかけらもないやつが力を持っているというのが。
なので、リオンを利用した。
血縁関係のあるカルロスとリオンの領地でバルカ騎士領をピタッと蓋をしたのだ。
変に暴れたりしないようにという意味で。
リオン自身も優秀でグラハム家の人間が戻りつつある現状では領地を与えてカルロスの新たな手駒としたほうがいいという判断もあるのだろう。
こうして、リオンは早々と俺の領地よりも多くの村を持つ騎士領の当主に返り咲いたのだった。
しかし、リオンがグラハム家として独立するということは、今まで俺の領地の仕事を手伝ってくれていた人間がそっくりそのままいなくなるということだ。
もうちょっと領地の仕事ができる人間を育てる必要があるかもしれない。
それにフォンターナの街に行くヘクター兄さんにつく人間もそれなりのものを用意しないといけないか。
こうなると人材不足が祟ってくるな。
俺がそんなふうにあれこれと考えているときだった。
「失礼いたします。カルロス様、ご報告です」
「どうした。なにかあったのか?」
「はっ。先程報告が上がりました。敵がこちらを攻める動きを見せているようです」
「敵だと? まだ反抗勢力がどこかに残っていたのか?」
「いえ、そうではありません。他の貴族がこのフォンターナ領を狙って動き始めたのです」
「やはりこんな状況を見過ごすはずがない、か。動いているのはウルク家だな?」
「はっ。しかし、ウルク家だけではありません。どうやらウルク家と協調して西のアーバレスト家もフォンターナ領へと進軍を開始した模様です」
「なんだと!? アーバレストがウルクと一緒に攻めてきたというのか? それではフォンターナは挟み撃ちにされるではないか」
「は、そのとおりです」
「……おい、大馬鹿者。これは貴様が引き起こしたということは分かるな? 当然、貴様はこの責任を取る必要がある」
「……責任ですか?」
「そうだ。俺はこれから東へ向かってウルク家を迎え撃つ。貴様は西へ行け。アーバレスト家の侵攻を食い止めろ」
「アーバレスト家。雷の魔法を使う貴族ですか。わかりました。バルカ軍はこれより西へと向かいます」
どうやら、文官がどうこう言っている場合ではなくなったようだ。
フォンターナ領の混乱を見た他貴族の動きが早かった。
東西から挟み撃ちするように攻めてきたという。
そのうちの片方である西のアーバレスト家。
そのアーバレスト家の攻撃を受け止めるために俺は再び軍をまとめて移動することになったのだった。
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