なすりつけ
「ばかだとは思っていたがここまで大馬鹿者だったとはな。相変わらずお前は俺の予想を遥かに超えたことをしでかすな、アルスよ」
「すいません、カルロス様。でも、しっかりと汚名を晴らしましたよ。カルロス様をなめた発言をしたあの若騎士にはしっかりと落とし前つけておきました」
「……どの口がそんなことを言うのだ。あまり調子に乗っていると俺が直々に貴様に引導を渡してくれるぞ」
「すいません。反省してます」
「っち。俺の出した許可証を勝手にばらまいてくれたおかげでこっちはいい迷惑だ。この俺様のことを領地侵攻の大義名分にするとはな。いい度胸をしているよ、貴様は」
「いや、別に領地がほしかったわけではないんです。状況的に戦わないといけなくなっただけでして。それもこれも全部あんなことを言いだしたラフィン殿が悪いですよ」
「確かにそれも原因の一つではあるがな。だからといってあそこまでするやつがあるか。後腐れのない決闘でもして終わらせておけばよかったのだ」
「ああ、なるほど。決闘ですか。そういうのもありなんですね。次からはそうしましょう」
「まて、次は手を出す前に俺に言え。勝手な行動を貴様は慎め」
「わかりました、カルロス様」
ダム作りから始まった一連の出来事。
俺も予想していなかったスピードで進行していく事態は、最終的にフォンターナ領全土へと波及していった。
というか、途中からはそうなるように誘導したという面もあったのだが。
バルカ騎士領と隣接するガーネス家を攻め落とし、さらにその援軍に動いた騎士家すらも撃破した俺は事態の収拾が自分ではできないと判断した。
なので、さらに事態をややこしくすることにしたのだ。
カルロスからもらっていたラフィンに対する雪辱戦であるとの文面を書いた書類をフォンターナ領中にばらまいたのだ。
我に正義あり。
俺の行動はフォンターナ領当主の意思である。
そういう風に広めたのだ。
だが、突然こんなことを言われた他の騎士の中にはそんな手紙を受け取っても混乱もすれば反発もする。
とくに反発が大きかったのが旧レイモンド派の騎士たちだった。
何を隠そう、俺が攻め落として領地を奪ったところはすべて旧レイモンド派の騎士たちだったのだ。
彼らはかつての結束を思い出したかのようにして、カルロスの言葉という大義名分よりも仲間を助けるために動き始めたのだった。
それを見た俺は更に状況を複雑化させることにした。
旧レイモンド派の騎士の一部にさらに書類を送り届けたのだ。
それは新年の祝いに出席し、宴の間で俺と話をし、リード家の魔法を買い取った騎士たち。
すなわち、元レイモンドの部下として俺と直接剣を交えて戦い、アインラッドの丘では反対に俺と共闘したピーチャから紹介された騎士たちだ。
そいつらにこう書いた書類を送ったのだ。
ピーチャ殿はバルカと繋がっており、すでにバルカの軍をアインラッド砦に置いている。
そのピーチャ殿の紹介で我がバルカとつながりを持った諸君らも我らと同じ陣営である。
カルロス様の決定に異を唱えるものに、ともに立ち向かおう。
ようするに旧レイモンド派の中にこちら陣営を作り出そうとしたのだ。
偶然だが、今はアインラッド砦にバイト兄をはじめとしたバルカ姓の者たちが実際にいるという状況証拠もある。
もちろん、その書類を受け取ったからといって彼らが信頼の置ける仲間になったわけではない。
が、向こうの意思などどうでも良かった。
リード家の魔法を受け入れた騎士はこちら陣営である、と旧レイモンド派に思ってもらえばよかったのだ。
なので、その書類を送りつつ、旧レイモンド派に対しては「君の知り合いのあの人もこちらについたから君もこっちにつかないか?」と書類を送り届けたのだ。
こうなるとフォンターナ領内は無茶苦茶な状況になった。
誰が味方かよくわからない状況が出来上がり、お互いが疑心暗鬼に陥ったのだ。
だが、それでも断固とした対応をする連中はいる。
旧レイモンド派の中でも力のある騎士家が中心になり、まとまりを見せ始めたのだ。
このような状況を他の領地から見たらどう思うだろうか。
隣の領地が勝手に内部争いをして力を減らそうとしている。
つまり、これはチャンスだ、と思うだろう。
そうなったら一番誰が困るのか。
もちろんこのフォンターナ領のトップであるカルロスである。
カルロスは急激な展開を見せるこの事態を収める必要があった。
それも早急にだ。
つまりは事態の収拾をカルロスがする必要になったということだ。
原因であり、火に油を注ぎ続けている俺ではなくカルロスがその責任を負うことになったのだ。
カルロスが取るべき選択は2つだ。
俺か旧レイモンド派のどちらに手を貸すかという二択だった。
カルロスが自身を利用した俺に怒ってバルカを攻めることも考えられた。
その場合は限りなく俺に分の悪い状況になる。
が、結局、カルロスは俺について旧レイモンド派を攻めることを選択した。
俺がばらまいた書類や問題解決までの時間などを考慮してだろう。
こうして、フォンターナ領内で突如勃発した内乱はカルロスの迅速な判断と軍の運用によって、旧レイモンド派のカルロスに対する反抗勢力一掃という形で収束を迎えたのだった。
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