動乱再燃
「これが今回の税収か。ご苦労だった。バルカから購入したリード家の魔法はきっちりと使えているようだな」
「はい。税の計算など今までにないほどはかどったようです。あまり目立たないでしょうが、非常に優秀な魔法であると思います」
「そうか。いい買い物だったということか。わかった、下がっていいぞ」
フォンターナの街にある居城にて税収についての報告を受ける。
どうやら、アルスの弟から買い取った魔法がきちんと使えているようだ。
【自動演算】という魔法は正確な計算結果を導き出すもので、税の取り立てにはこれ以上なく役立っている。
計算が早いのも助かるが、書類上の数値が間違っていた場合はなんらかの不正を働いているということにもつながるのだ。
今までのようにあいまいな計算で取り立てた税の一部を中抜きされることも減ってくるかもしれない。
「カルロス様、アルス・フォン・バルカ様からの伝令が来ました。お会いになりますか?」
「うん? アルスからの伝令? わかった、会おう。通してくれ」
「かしこまりました」
税収の確認をしながらアルスのことを思い出しているときだった。
なにやらアルスから伝令が来たという。
今度はどんな要件だろうか?
アルスはこのフォンターナの街に自分の屋敷を持っていないからか、かなり頻繁に伝令を送ってくる。
リード家をたてる許可や賭博場の建設、暖かい衣服の献上といった要件もあれば、領地での人体解剖などという意味不明な行為の許可まで求めてくる。
今度は何を言い出すのだろうか。
「失礼いたします。アルス・フォン・バルカ様からカルロス・ド・フォンターナ様へ伝令がございます」
「話せ」
「はっ。先日、アルス・フォン・バルカ様がラフィン・フォン・ガーネス様と会談いたしました。その際、ガーネス様がバルカ様を侮辱されたゆえ、その汚名をそそぐ許可をいただきたいとのことです」
「ちょっと待て。ラフィンがアルスのことを侮辱したのか? なぜそうなったのか、説明せよ」
「はっ。両者の会談の中の発言でガーネス様がバルカ様のご正妻のリリーナ様を我がものとするとの発言があったようです。バルカ様はその発言を取り消すようにとガーネス様へと要求されましたが、受け入れられなかったとのこと。故にフォンターナ様へと汚名をそそぐ許可をいただきたいと私へ書面をもたせました」
なんだそれは?
そういえば、ラフィンはリリーナに想いを寄せていたという話があったのだったか。
リリーナは俺と血の繋がりがあり、没落したとは言え元領地持ちのグラハム家の当主の娘でもある。
そして何より美しい。
これまでリリーナが人前に出る機会がなかったこともあってか、リリーナのことは噂として話が独り歩きしていた。
俺と血の繋がった見目麗しい娘がいる、と。
それ故にフォンターナ領内のみならず他領のものにまで以前からリリーナと会わせてほしいという声があったのだ。
それがアルスの登場で急展開を迎えた。
ほとんど初めて人前にでたリリーナをアルスが妻へと迎えたのだ。
若い騎士や騎士候補の従士たちはさぞ悔しかっただろう。
そうか。
ラフィンの家のガーネス家はバルカ騎士領の隣だったな。
もしかして、いまだに恋慕の心が募った若き騎士がバルカへと押しかけたのだろうか。
だが、いくらなんでも発言内容がまずい。
貴族や騎士にとって妻を奪う、と言われることは最大の侮辱にあたる。
激怒して当然のことだろう。
アルスもまだまだケツの青い子供だと思っていたが、なかなかどうして一端の男らしいところがあるではないか。
「わかった。アルスへと伝えろ。我が名、カルロス・ド・フォンターナの名において貴様が汚名をそそぐことを認めるとな。せいぜい男らしいところを見せてもらおう」
「はっ。ありがとうございます」
こうして俺の発言と書面へのサインを確認し、その伝令はすぐさまアルスへと伝えるために城を飛び出していったのだった。
※ ※ ※
「報告いたします、カルロス様。先程入った情報ですが、アルス・フォン・バルカ様がガーネス家へと軍を率いて攻撃したようです。ガーネスの館はすでに陥落したと見られています」
「なんだと?」
「バルカの軍はガーネス領の村々を占領し、その支配下に置いたと見られています。この事態を重く見た他の騎士家も動きを見せていると報告が上がっています」
「ちょっと待て。アルスからの報告ではラフィンに対して汚名をそそぐという話だったのではないのか? なぜそうなる?」
「未確認の情報ですが、両家の領地間に問題が発生していたようです。ガーネス領に流れる川の流れがかわり水不足が懸念されていたようです。その話し合いにバルカへと会談を申し込んだガーネス家の使者としてラフィン様が出席されたようです」
「ばかな。そのような話は聞いていないぞ。領地問題だと? もしかして、領地に関する争いの中でラフィンはアルスの妻を奪うと発言したのか?」
「……わかりません」
「わからんではすまんぞ。前後関係をはっきりさせておかなければ収拾がつかなくなるかもしれんのだ。その発言が本当だったのかどうか証人を連れてこい」
「……バルカ家からは証人がすでに来ていますが」
「わかった。すぐに連れてこい。だが、ガーネス家からも証人を呼ぶ必要があるぞ」
「カルロス様、それは難しいかと……」
「なぜだ。多少時間がかかっても呼び寄せることはできるだろう」
「会談に出席した者たちはその場で乱闘に発展したとのことです。その争いでガーネス家の会談メンバーは負傷し、すでに全員が亡くなったようです」
「……なんだそれは。そんなことがあり得るのか。そうだ、ラフィンはどうした。まさか……」
「ラフィン様はアルス様によって討ち取られた模様です。アルス様は会談の場から逃走したラフィン様を追ってガーネス家の本拠地まで追跡。ガーネスの館での戦闘で汚名を晴らしたと宣言しています」
「……緊急事態だ。兵を集めろ」
あの馬鹿が。
なんでおとなしくしていられないんだ。
俺はフォンターナ領内で急遽勃発した問題をこれ以上広げないために兵の招集をかけたのだった。
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