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魔法販売

「カルロス様、新年明けましておめでとうございます」


「ああ、本当にめでたいことだな、アルス。貴様の働きによって昨年は我がフォンターナも大きくなった。これからもその力をフォンターナのために存分に奮ってくれることを期待しているぞ」


「は、ありがたいお言葉です。これからも粉骨砕身がんばります」


「よろしく頼むぞ。で、そこにいるのが貴様の弟とやらか」


「はい。私の弟のカイルです。昨年、我がバルカ家から独立してリード家を名乗っております。どうぞ、よろしくおねがいします」


「お初にお目にかかります、カルロス・ド・フォンターナ様。アルス・フォン・バルカ様の実弟カイル・リードと申します。どうぞ、よろしくおねがいします」


「カルロス・ド・フォンターナだ。カイル・リードか……。なんでも変わった魔法を持っているのだそうだな」


「はい。文字の読み書きと計算を正確に行う魔法でございます」


「なるほど。アルスも変わり者だが、弟であるカイルも変わっているのだな。あとで見せてもらってもいいか?」


「はい。ですが、兄のようにカルロス様を驚かすことはできないかもしれません」


「はっはっは。こいつは何をやり出すか全くわからんからな。急にとんでもないことをしでかして、俺を驚かせてばかりいる。弟である貴様もさぞ苦労していることだろう」


「はい。そのとおりです」


 おい、なんで初めて会った二人が急に意気投合して俺のことを悪し様に罵っているんだ。

 俺はカルロスとカイルの会話を見ながらそう思ってしまった。


 雪が降り、冬が来た。

 そして、そのまま何事もなく年を越した。

 そうして、俺にとっては2回目となる新年の祝いのために、俺はカイルとともにフォンターナの街にやってきていたのだった。

 カルロスの居城へと訪れて、多くの騎士が集まる中、カルロスに対して新年の挨拶をする。

 去年と違うのは今回はカイルを連れてきていたことにある。


 新たな魔法を発現したカイルにリード姓を名乗らせた。

 このとき、一応だが俺はカルロスにもその許可を仰いでいたのだ。

 どのような魔法を所持しており、それをどのように使うか。

 リード家をたてる前に事前に相談は済ませていた。

 だが、それは手紙によるものであり、カイル本人はカルロスへと直接会ったわけではない。

 そこで新年の祝いを利用してカイルを紹介したのである。


 まだ幼いカイルだが、しっかりとカルロスへと自己紹介しただけでなく、すぐに打ち解けて俺という共通項を元に笑い合っている。

 よかったような、よくなかったような釈然としない気持ちになりながらも、俺とカイルはフォンターナ家当主への挨拶を終えたのだった。




 ※ ※ ※




「久しいな、アルス殿。貴殿には世話になった。今一度礼を言わせてほしい」


「ピーチャ殿、お久しぶりです。アインラッド砦の守備をカルロス様から任せられていましたね。その後、ウルク家の動きなどはどうなっていますか?」


「なに、貴殿の活躍でウルク家は甚大な被害を被ったからな。その立て直しにはまだ時間がかかるのだろう。おかげであの戦のあとは落ち着いて周囲の統治を進めているよ」


「そうですか。それは良かった。ですが、立て直しが終わったらアインラッドは再び狙われるのでしょうね。気をつけてくださいよ、ピーチャ殿」


「うむ。カルロス様もその点は重々承知の上で多くの兵を私に任せてくれている。その期待に応えるように働くのみだな」


「頼もしいですね。さすがに多くの戦場を経験されているだけありますね」


「貴殿に褒められると自信につながるな。……ところで、そちらの少年が話に聞いた貴殿の弟か。本当にまだ子供ではないか」


「はい、弟のカイル・リードです。以後お見知りおきを」


「ああ、よろしく頼む。しかし、変わった魔法を持っているそうだな。事務仕事に特化している魔法だとか。戦ではあまり役に立たんが、領地の統治では便利になりそうな魔法であるな」


「そうですね。とても助かっていますよ。……そうだ、ピーチャ殿もアインラッドの運営にカイルの魔法が欲しくはありませんか?」


「うん? どういうことかね?」


「ええ、実は先程カルロス様にカイルの魔法をお見せしたのですが、たいそう気に入っていただけたようでして。ぜひ、フォンターナ家でも使いたいとおっしゃられていたのですよ」


「は? フォンターナ家で使いたいと言ったのか?」


「ええ。と言っても、リード家の魔法を使えるものが手元にほしいという意味ですが。そこで、カイルの魔法を売ることにしたのですよ」


「……貴殿が何を言っているのかよくわからんのだが? 魔法を売る、というのはどういうことか?」


「つまり、カルロス様が指定した人物へとカイルがリード姓を授けるのですよ。その対価として教会に喜捨する分とリードの魔法に見合った金額を頂戴したのですよ」


「……それはつまり【速読】と【自動演算】とやらの魔法を使うために、自分の家臣にリード姓を名付けさせたということか。バルカ家へと金銭を支払って」


「そうなります」


「攻撃系ではないとはいえ、独自の魔法をそのように売り出してよいのかね?」


「はい。うちはできたばかりの零細騎士領ですのでこのようなはしたない真似をしてしまいました。カルロス様には他の騎士の方々にも希望されるものがいるようであれば、魔法を売ってもいいというお言葉も頂いています。どうでしょうか。交通の要衝であるアインラッドを任されたピーチャ殿もお一人くらいカイルの魔法が使えれば、非常に効率が良くなると思いますよ」


「ううむ。急な話で答えられんな。だが、魅力的な提案ではある。少し考えさせてくれはしないか?」


「もちろんです」


「助かる。他の騎士にもこの話は持ちかけるのかな?」


「ええ、そのつもりですよ、ピーチャ殿」


「そうか。では私からも何人か交流のあるものへと話しておくことにしよう」


「ありがとうございます。ぜひ、よろしくおねがいします」


 やったぜ。

 俺は久しぶりに会ったピーチャと話しながら頬を緩めていた。

 カルロスへと挨拶を済ませたあとは、去年と同じように宴の間へと移動してそこで開かれたパーティーへと参加したのだ。

 一年前はこのパーティーにでたものの、ほとんど誰とも話さずに周囲の騎士を観察するばかりだった。

 だが、今年は違う。

 なんといっても知り合いもいるのだから。


 俺と一緒に行動していたピーチャだが、あの戦いのあと、カルロスからアインラッド砦の守備を命じられていた。

 だが、新年の祝いにはしっかりと参加しているようだ。

 そこで、俺と久しぶりに会い、こうして話をしていたのだった。


 その会話の中で出た話の一つに、俺がカイルの魔法を売るというものがあった。

 相手が指定する人物に対してカイルが名付ける。

 その際に、バルカへと金を支払ってもらうというものだ。


 カイルの魔法は有用なものではあるが、普通の農民には猫に小判となり得る。

 本当に必要なのは領地を経営するような者たちだろう。

 俺はそこに目をつけて、カイルの魔法を売りつけることにしたのだ。

 少なくとも一人いれば正確な計算機代わりになる。

 カルロスは領地経営に便利だということで、複数人に対して魔法を授けるように、カイルの魔法を購入したのだ。


 それをピーチャを通して他の騎士にも話を広げていった。

 最初にカルロスに話を通していたのも良かった。

 カルロスに魔法を売ったときより安値で売るわけにはいかない、という理由をつけてそれなりに高い値段設定で魔法販売をしたのだが、これがそこそこ売れたのだ。

 あとはカイルの魔法を授かった人がしっかり働いてくれれば、来年からは更に魔法の買い取りを希望するものもいるかも知れない。

 こうして、俺は新年から一稼ぎしていったのだった。

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