北西区
「賭博場か。どうせ作るなら確実にこちらが儲かるようにしたいな」
「博打の胴元なんてどうやっても儲かるんじゃないか。坊主?」
「いや、映画とかでは凄腕ギャンブラーによって被害を受けるカジノオーナーみたいな話があったから、必ず儲かるとは言えないんじゃないかな?」
「凄腕の博打打ちか。胴元が金を巻き上げられるなんてことがあるのか……」
「ああ、といっても俺はあんまり詳しく知らないんだけどな。おっさんは賭け事はするのか?」
「身内とやるくらいであまりやらんな。実は一度別の領地の街でひどい目にあってな。それからはあまり近づかないようにしている」
「なんだそりゃ。まあ、けどそうだな。よその土地からバルカに博打を打ちに来るやつがいれば、更に儲かるかもしれないってことでもあるか。バルカニアの住人だけでやるより人を呼べるようなものを作ることにするか」
「なにか案があるのか、坊主」
「ああ。人を呼ぶならバルカでしかできないものを作る必要がある。ってことなら、選択肢は限られてるだろ」
「へえ、どんな賭けをするんだ?」
「競馬場だ。ヴァルキリーに騎乗した人間がレースをして、その結果に賭けるようにする。他ではやってないだろ」
「ヴァルキリーの走りの競争に賭けるのか。面白いかもしれないな。たしかにバルカでしかできない。それが広まれば商人たちも金を落とすかもしれないか」
「ああ。掛け金の配当なんかはカイルの魔法が使えるリード家の人間がいれば正確にできる。あいつらがいれば計算も時間がかからないだろ」
「でも、肝心の儲けにはつながるのか? 凄腕の博打打ちがいれば危ないっていったのは坊主だろ」
「こっちの取り分を決めとけばいいよ。出走するヴァルキリーに賭けられた金の何割かを必ず胴元が回収する仕組みにしておこう。残った掛け金をレース結果を当てた人間で分配する。こうすればこっちの懐は痛まないさ」
「なるほど、考えたな。坊主、お前も悪いやつだな」
「何を言うんだ、おっさん。俺はこのバルカにちょっとした娯楽を住人たちに楽しんでもらいたいだけだよ。賭けをするのはほんの少しの刺激の追加ってだけさ」
「そうだな。みんなの生活に潤いを与えるために頑張ろうじゃないか、坊主」
「ああ、おっさん。さっそく取り掛かるぞ」
こうして、俺とおっさんはこのバルカニアに賭博場を作り始めたのだった。
※ ※ ※
バルカニアは現在大きく分けて壁に囲まれた土地が2つある。
北側の牧場エリアと南側のバルカニアの街だ。
この南側の中央区にはバルカ城があり、更に南エリアに自由市、南東エリアに教会と学校、北東区は木材置き場と職人たちの仕事場があった。
そして、西区は裁判所と警備隊の詰め所がある。
基本的に西区は兵の訓練などをする場所でもあるということになる。
賭博場はこのバルカニアの中の北西区に作ることにした。
やはり、賭場である以上トラブルはつきものであるだろうという思いからだ。
父さんが取りまとめている治安を維持するための兵がいるところが近いほうがすぐにトラブルに対処できるだろうと考えたのだ。
この北西区に賭博場を作る。
といっても、そこまで数多くの賭け事が行われるようなものではない。
あくまでも、他とは違う賭けができる競馬場のようなものと、それに付随するようにこの近隣でもメジャーな賭け事をいくつかする施設を併設することにしたのだ。
この賭博場を作るのはあくまでも金の使い先を求めるようになった小金持ちたちに対するものだ。
おっさんの言っていた通り、放置しておけばいずれ自分達で賭け事を仕切ろうとする荒くれ者たちが出てくるだろう。
そいつらが出てきてバルカ騎士領を運営する俺たちが関知しない間に勢力を伸ばされないようにこちらが先に手を付けておこうというのが最大の目的でもある。
この賭博場を開くことによって金を儲けることももちろん重要だが、それ以上に他のものに胴元にならせないように周知することも大切だろう。
そして、先日の温泉での一件でクラリスに言われたことも考慮に入れた。
よそからの訪問客も期待するなら安全を確保しておくことも重要である。
建物の作りにも気を使い、宿泊地としての機能も必要だろう。
もちろん金を持っている人に来てもらいたいので、それなりに格式のある建築にして調度品にも気を使うことも大切だ。
クラリス本人やグラハム家の人間にも足を運んでもらって、見栄えにも気をつけながら賭博場を造っていったのである。
こうして、バルカニアには人を呼ぶことを目指したレース場とそれに併設された賭博場、そして、ちょっと高級路線の宿泊地が出来上がったのである。
ちなみにもちろんだが、その工事によってさらにバルカの運営費は減っていったのだった。
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