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お金の使いみち

「おい、坊主。このままだと本気で金が底をつくぞ」


「そんなにないのか、おっさん。まだいくらかはあるだろ」


「今はまだ、な。だけど、坊主は思い切りが良すぎるんだよ。去年の城造りのときの調度品なんかでもそうだし、今回の使役獣の卵の爆買いでバルカ騎士領はいつでもカツカツなんだよ」


「でも、その分、角なしの販売なんかでも利益を上げてるだろ? そんなに使ったかな?」


「いいか、坊主。お前みたいな金の使い方を丼勘定って言うんだよ。カイル坊の魔法を広めるのにリード家として名付けしただけでも結構な数になるだろ。教会にもいくら払ったと思ってんだ。他にもいろいろ思いつきで金がかかることをしすぎてんだよ」


「でも、リード家を増やすのは間違った選択ではないぞ、おっさん。それにほかのことも将来的に間違いなく有益なことばかりだ。金はかかるが今からやっておくべきことだよ」


「そんなことを言って今現在の金が無くなったらどうしようもないだろ。将来のためっていったって、どのくらい先の話だよ。学問研究も結構だけど、あれも金にならないことをしてるしな」


「人体解剖図のことか? あれは絶対今後の生活の向上につながる研究だ。今更やめられないよ」


「だから、今の財政にもそれくらいの関心を持てよ、坊主。このバルカ騎士領はできてまだ日が浅い。金が無くなって経営難なんかになってみろ。いっぺんに信用を失うぞ。カルロス様もそれを理由に領地の取り上げをするかもしれないんだからな」


「……マジか。それは困るな。だけど、何度も言っているけど今やっているのは今後どうしても必要なことだ。中止するわけにはいかない。それをまかなえるだけの財源確保が必要だな。なんかいい案はないか、おっさん」


「んな都合のいいもんはない、……って言いたいところだが、一個だけ思いつくことはあるな」


「何だよ、あるのかよ。はやくそれを教えてくれよ、おっさん」


「いいけど、当然リスクもあることだぞ、坊主。ある程度、トラブルも覚悟しておく必要がある」


「わかった。とりあえず、おっさんの思いついた考えを教えてくれ」


「賭博だ」


「……は? 賭博? ギャンブルに手を出すとかいうつもりなのか、おっさん?」


「そうだ。……ああ、勘違いするなよ、坊主。ギャンブルで一発当てようってことじゃないからな。逆だよ、俺達が賭博の胴元になるんだよ」


「胴元? つまり、俺達が賭場を開いて賭け事をさせるってことか。大丈夫か、そんなことして」


「いや、これは前から言おうと思っていたことなんだがな。治安面からもやっておいたほうがいいと思う」


「治安面で? やったほうがいいのか、賭博場の運営を? 逆に治安が悪化するんじゃないのか?」


「正直言うとわからん。が、ちょっと気になるんだよ。バルカニアに住む人間の金の使い方がな」


 俺が隣村でリリーナとの混浴を楽しんできたあとのことだ。

 バルカ城へと帰ってきて執務室にいると、おっさんが真剣な顔をして部屋へと入ってきた。

 そして、バルカ騎士領の金が心もとないと言ってきたのだった。


 戦から帰ってきた俺が再びいろんなことに着手して、金遣いが荒くなってしまった。

 どうやら収入よりも支出のほうが多いようで、だんだんと減っていく領地の運営費に金庫番としていち早く気が付き進言しにきてくれたのだ。

 だが、俺とて完全な無駄遣いをしているつもりはない。

 使役獣の卵の研究も医学の発展もリード家の名付け費用もどれもバルカにとって必要なものだからしているにすぎない。

 道楽で金を使い込んでいるわけではないのだ。


 そこで、逆にこの財政難を乗り切る方法をおっさんに問いかけたところ、一つの案をだしてきた。

 それが、賭博場を開くという方法だったのだ。

 が、どうも俺にはギャンブル依存症を助長するだけで、健全な街づくりにはならなくなるのではないかという思いが拭えない。

 しかし、おっさんにとってはそうではなかったらしい。


 おっさんが言うのはだんだんとバルカニアの住人が賭け事をする頻度が増えている感じがする、という曖昧なものだった。

 これはおっさんが街中にいて感じるだけのものであり、統計をとったとかいうわけではない。

 だが、確かにおっさんはそのように感じているそうだ。


 なぜだろうかとおっさんも疑問に思って街にいるときに注意深く観察していたようだ。

 そして、一つの仮説にたどり着いた。

 それはバルカニアの住人が急に小金持ちになったからではないか、というものだった。


 バルカニアに住む人はもともとが貧乏な農民であることがほとんどである。

 だが、その中に急に俺が現れてバルカ姓を与えて魔法を授けた者たちがいる。

 バルカの動乱が終わったとき、俺はこのバルカ姓を持つ者たちに硬化レンガを売ったり、魔力茸を栽培したりするように指導した。

 この結果、彼らはそれなりに安定した収益を持つに至った。


 こうしてバルカ姓を持つものは農地を持たずともバルカニアに訪れた商人たちに商品を売りつけてお金を手に入れることになった。

 更に、バルカ姓を持たぬ者たちも紙やガラス作り、家具などの商品を作り、そこそこの収益を上げることに成功している。

 こうして、それまで農村で物々交換をしていた人間が一気に金を持つことになったのだ。


 このように増えたお金だが、最初は自分の家を手に入れて、家具や食料を買うことに使用していた。

 おかげでバルカニアは商品があれば売れる好景気状態となっていたのだ。

 だが、前世のようにものが溢れかえるようなご時世でもない。

 必要なものがある程度揃ったら、だんだんとどのようにお金を使えばいいかわからなくなってきたのだ。


 そうして、金の使いみちが一巡した物々交換を卒業したての小成金たちは何をするようになったかと言うと賭け事だった。

 といっても、今はまだそれほど大事にはなっていない。

 日々の生活で何気ないことに対して、「おい、例のあの件がどうなるか賭けないか?」みたいなちょっとした賭けが広まり始めているようなのだ。

 それをおっさんは街中で感じ取っていたのだ。


「でも、それくらいなら問題ないんじゃないか?」


「いや、あまりいい傾向とは思えない。というか、放っとくと誰かが賭場を開いて街中の金を一手に集めることになるかもしれないぞ。それが危険なことだってのはわかるか、坊主?」


「ああ、なるほど。それは困るな。俺たちの街でバルカ家以外の大金持ちの出来上がりってのは面白くないな」


「だろ? だから、今のうちに先手を打つんだよ。坊主の名前で賭場を開く。それ以外の賭場を勝手に開くことは禁止する。街中でダブった金を回収しつつ、治安の悪化を防ぐって寸法さ」


「……そうだな。適正レートで遊べるカジノでも作るか? 違法レートで借金まみれになったギャンブル依存症のバルカの騎士なんてのが出てきても困るしな。やってみるか、おっさん」


「よし、善は急げだ。すぐに準備しよう」


 こうして、俺はバルカニアに公営の賭博場を作ることにしたのだった。

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