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隠れ家

 隠れ家でも作ろうか。

 使役獣の卵に【魔力注入】を行いながら俺は考えていた。

 先日、母親にお説教を受けたときのことを思い出していたのだ。


 俺はまだ子供であり、親の庇護下にあることは言うまでもない。

 そのため、基本的に親に言われたように勝手にお金を使うというのはやってはいけないことに当たる。

 だが、それ以上に問題があった。

 それはこの辺の風習が、いかにも古臭いものだということにある。


 家のことは家長である父親が握っており、すべての決定権は父にあるのだ。

 それは俺の生まれた貧乏農家でも例外ではない。

 父の決定は絶対的であり、そしてそれを長男が引き継いでいく。

 母親や子どもたちは悪くいってしまえば、家長である父のものであり、従属的なものに当たるといってもいい。

 そして、俺はこの家において長男ではない。

 家を継ぐことができない。

 農家の次男以下の連中は一生を父や兄の手足となって働くか、なんとか独立するしかないのだ。

 もちろん、俺もそういった連中とおなじになる。


 身を立てる一番手っ取り早いのは兵士として戦に参加して手柄を立てることだ。

 どうせ、なかば強制的に連行されるようにして戦には連れて行かれてしまうこともあり、ならばいい武器を手に入れておこうとお金貯めを始めたのだ。

 だが、考えてみればまとまったお金がたまった頃になれば、「これは我が家のお金だ」などといって没収されてしまう可能性がないこともない。

 ならば、今のうちから独立後のことを考えておいてもいいのではなかろうかと思ったのだ。


「よし、善は急げっていうしな」


 こうして、俺はさっそく行動を開始したのだった。




 ※ ※ ※




 俺の生まれた村は周囲を木の柵で囲うようにして存在している。

 そして、その外側には森が広がっていた。

 特に山などはなく、基本的には平地になる。

 前世の記憶から言えば森は山にあるというイメージが強かったが、どうやらここらではそうではないということになる。


 この村はかつて開拓村として切り開かれたことが始まりであると言われている。

 鬱蒼とした森の木々を切り倒して開墾して畑を作り上げたのだ。

 その当時は治世が安定していたらしい。

 よそからも大量の人手を送ってもらい、木々を伐採して畑を作り上げることに成功した。


 だが、時代が変われば状況も変わる。

 現在では戦が絶えない時代になってしまい、以前よりも畑の面積は減り、村は現状維持が精一杯という有様になっている。

 なんとか森が広がるのを阻止しながら、生活を維持し続けるのみとなっている。


 だが、逆に言ってしまえば村の外の土地は現状誰のものでもなく、開墾すればそれを成し遂げたものの土地として認められるのだそうだ。

 俺は村の外の森へと足を運び、どこを開墾していこうかと見て回ったのだった。


「とりあえず、この辺に隠れ家を作ってみるかな」


 そうして選んだのは森の中を流れる小川の近くの土地だった。

 背の高い木と草が生える中をなんとか通り抜けて来たところで、少しだけ開けた場所があったのだ。

 ここに家を建てることにしよう。


「身体強化」


 俺は全身の強化を行う呪文をつぶやく。

 まだ子供である体でも魔法を使って強化すればそれなりの力が発揮できる。

 その力を利用して、周囲の木々に縄を巻き付けていった。

 家を建てる場所を中心に、じゃまになりそうな木へと縄を巻き付け遠くの木へとその縄をくくりつける。

 強化した力で木を引っ張るように縄をかけたのだ。


 そして、その状態で木の根元へとしゃがみ込み、地面へと魔力を送り込んだ。

 森のなかで育った木は地面へと深く、色んな方向へと根を張り巡らせている。

 その根が伸びるすべての土をふかふかの柔らかい土へと変化させたのだった。

 それまでがっしりと大地へと根を張っていた木が、足元から崩されてしまう。

 さらに引っ張るように結ばれていた縄によってゆっくりとだが、確実に、ズズズっと音を立てながら木が傾いていった。

 そうして最後にはズドンという大きな音とともに地面へと倒れ込む木。

 俺はこうして建築予定の土地から木を根っこごと引き抜いていったのだった。




 ※ ※ ※




「整地」


 木が倒されて森のなかにポッカリと空いてしまった空間。

 その木をまとめて端においてから別の魔法を使用した。

 畑を整地するときに使った魔法で呪文名もそのままだ。

 10m四方の土地が一気に真っ平らに変化する。

 土の中に残った根っこの切れ端や土に生えている様々な雑草、さらにゴロゴロと転がる石や岩。

 それらをひとまとめにして平らな地面へと変えてしまった。

 我ながらものすごく便利な魔法を作ったものだと感心してしまう。

 そして、その整地を何度か場所を変えながら行い、広々とした土地を確保してしまった。


「さて、こっからどうしようかな」


 ここまでは順調である。

 が、ここからの作業をどうしようかと考えてしまう。

 建物ならば以前物置を作ったことがある。

 それをもとに今回も隠れ家となるものを建てればそれで十分だろう。

 だが、再びレンガを量産するというのも面白くない。

 いや、面白いかどうかは別として、けっこう大変なのだ。


 俺のレンガはきれいな長方形で、まるで積み木のように積み重ねていくだけでも結構しっかりとした建物を建てることができる。

 だが、ものすごい数のレンガを魔法で作り上げて、それを積み上げ建物にするのはすごく大変なのだ。

 できれば一発でポンと建物が出てくる魔法がほしい。

 だが、かつて魔力がなくなり気絶したことを思い出すと下手なことはできない。

 なぜなら、ここは家族のいる家の裏などではなく、村の外の森の中なのだから。


「そうか。別に家を建てる必要もないのか……」


 しばらくウンウンと考えていたのだが、急に頭の中がスッキリした。

 思い返してみれば、以前物置を作ろうとして失敗したのは、一気に土蔵を作り上げようとしたからではないかという単純なことだった。

 俺の仮説では魔法に使う魔力の量は、作るものの体積・容積に関わってくるのだと思う。

 つまり、建築物を一度の魔法で作ろうとした場合、内部の空間までもが魔力消費に関わってくるのだ。

 当然、家や物置の場合、内部は空洞になっており、そのために魔力を消費するのは非常にもったいない。

 ならば、話は簡単だ。

 建物を一度に作るのではなく、壁ごとに作っていけばいいのではないか。

 単純だがそれだけでも魔力の消費はぐっと減るに違いない。


 俺は地面に手をついて目を閉じた。

 深呼吸を繰り返して体内の魔力を練り上げる。

 そうしながら、頭の中では完成図をイメージする。

 基本は今まで作ったレンガをベースにすればいいだろう。

 それを規則正しく組み上げて、それがひとつの壁となる姿を描き出す。

 レンガを固定するためにレンガとレンガの間にはモルタルを用意し、崩れにくくする。

 そして、そのイメージがまとまった瞬間、体内の魔力を地面の土へと馴染ませて魔法を発動させた。


 こうして俺は極めて短時間のうちに、森のなかに隠れ家を作り上げることに成功したのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 今まで影も形もなかった兄が生えてきてびっくりしたわ
[一言] 読み初めました  「開墾すればそれを成し遂げたものの土地として認められる」 ここは俺のだって宣言すると隠れ家にならないような?
[気になる点] 3番目の子で長男ではないとなると、兄や姉がいるはずだけど、今のところ登場してませんね 父母は若いようだし、まだ独立する年齢でもないハズ 少なくとも長男は家にいないとおかしい 貧乏農家と…
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