魔力配合
「とりあえず、金に糸目はつけずに使役獣の卵をかき集めてきたぞ、坊主。で、本当に【産卵】の魔獣型使役獣を作れるのか?」
「そんなのやってみなきゃわからないよ。ただ、うまくいけば今後の使役獣の卵の入手については心配いらなくなる。やらない手はないさ」
「……そりゃそうだろうが、やっぱり無理だろ。そんなに簡単に【産卵】の使役獣が生まれるわけないぞ。そもそも、有用な使役獣が生まれるだけでもラッキーなんだからな」
「ま、何事もチャレンジだよ、おっさん。とにかく、まずは使役獣の卵を孵化させてみよう。バルカ姓を持つもの全員に卵を孵化させるんだ」
「バルカの姓を持っているやつら全員にか? 本気か、坊主?」
「本気だよ。というか、使役獣は卵のときに取り込んだ魔力によって生まれる形態が変わるんだから、みんなに協力させないと話にならないだろ」
「わかった。俺からも声をかけて協力はさせよう。たとえ【産卵】持ちでなくてもいい使役獣が孵化できると分かればそいつを孵化させたやつらもいい稼ぎになるはずだからな。ただ、それでもバルカ姓を持つものは300人くらいだろ? まさか、その300の中に運良く【産卵】持ちを孵化させるやつがいるかもと思っているのか? 考えが甘すぎるんじゃないか、坊主」
「おいおい、おっさん。俺だってそこまで楽観的じゃないよ。300人に孵化させるのはあくまでも始まりにすぎないさ。そこからが本番だよ」
「……どうするつもりか、しっかり聞かせてもらおうじゃないか、坊主」
大量に使役獣の卵を入荷してきたおっさん。
最近は相場の上昇によって割高になってきているところにこんな大量買いをしたこともあって、いつも以上に神経質になっているようだった。
どうも、おっさんは俺の計画がうまくいくはずがないと思っているようだ。
確かに使役獣の卵を生む使役獣というものがそんなに簡単に産まれるということはないだろう。
もしそうならば、他にもたくさん似たような使役獣の存在が確認されているはずだ。
そんなものを狙って孵化させることができるのかと不安に思うのは当然だろう。
ぶっちゃけて言うと俺も自信があるわけではない。
だが、やるしかないのだ。
ならば、できるだけのことを試していくしかない。
そこで俺が考えたのはバルカ姓を持つ者を利用して使役獣の卵を孵化させていくことだった。
まずは300人のバルカ姓を持つ者たちに使役獣の卵を孵化させる。
バルカ姓を持つものであれば全員【魔力注入】が使えるので、卵に【魔力注入】をさせようと思う。
そうすれば少なくとも孵化自体には成功することだろう。
しかし、300人による孵化でも狙った能力を持つ使役獣は生まれない可能性が高い。
ではどうすべきか。
俺が考えたのは、魔力の配合をする、ということだった。
使役獣の卵は変わった特性を持っている。
卵の状態では周囲の魔力を吸収し、その魔力によって異なる姿形をもつ使役獣として孵化するというもの。
さらに、その魔力は複数の人間からであっても取り込むことができるのだ。
つまり、俺の魔力からはヴァルキリーが孵化するわけだが、俺とおっさんの魔力が混在する状態であればまた別の使役獣が産まれてくるということになる。
すなわち、複数人が【魔力注入】を行えば、300人であっても300種以上の使役獣を孵化させることができるのだ。
さらにいうならば、俺の【魔力注入】という魔法もこの魔力の配合には役に立つ。
例えば、俺とおっさんの魔力を半々で吸収した卵と、俺の魔力を多めにし、おっさんの魔力を少ない割合で吸収させた卵ではまた違った姿で孵化するのだ。
ただ、普通であればどちらの魔力がどの程度吸収されたかはわかりにくい。
卵を持っている時間などで調整するしかないのだ。
が、俺の【魔力注入】という魔法は毎回一定の魔力量を他のものへと注ぐことができる。
つまりは、俺とおっさんが何回ずつ【魔力注入】をしたかを数えることで、かなり正確に魔力の配合比を知ることもできるのである。
「ちょっと待てよ、坊主。お前、それは本気で言っているのか? 300人が複数人で魔力の配合比まで変えて使役獣の卵を孵化させるだって? 何通りのパターンがあるんだよ、それは」
「知らん。膨大な数になるだろうけど、逆に言えば、そこまでやれば【産卵】の使役獣が産まれる可能性もあると思う」
「……いや、まあそうかもしれんがな。誰がやるんだ、その作業は。言い出しっぺのお前が責任を持ってやるんだよな、坊主?」
「……おっさん、使役獣の卵の件が死活問題なのはおっさんのほうだろ。頑張ってみないか?」
「ふっざけんなよ。そんな気の遠くなるようなこと、やってられっかよ。坊主、お前がやれよ」
「はぁ、俺は領主だぞ。忙しいんだよ。卵の孵化だけやるわけにはいかないんだよ」
「ちょっと、ふたりとも落ち着いてよ。アルス兄さんも、おじさんも冷静になって。ほら、深呼吸して、ね?」
「ああ、カイルか。わかったよ。……ふう。でも、やり方自体は間違っていないと思うんだよな。うまく配合すればいい使役獣が手に入る可能性は十分ある。当然、【産卵】持ちもだ」
「それなら、その作業はビリーに任せたらどうかな、アルス兄さん。ビリーなら多分喜んでやってくれると思うよ」
「ビリー? ビリーってあいつか。文字も数字も知らないのにお前が名前を授けた学校通いの子供のやつ。あの子にこの作業ができるのか?」
「たぶんね。ビリーはまだ文字は勉強中だけど数字は覚えてきたから【自動演算】なら使えるよ。さっき話していた配合比なんかもすぐに計算できるし、何より、そういうパズルみたいなことは好きな性格だからね。作業が大変でも嫌がることはないと思うよ」
「そうか。カイルがそこまで言うならそのビリーに頼んでみようか。でも、かなりの金をかけた一大プロジェクトになるからな。責任もってやってもらうことになるぞ」
「うん。ボクも手伝える範囲で手助けするから大丈夫。ありがとう、アルス兄さん。ビリーも喜ぶよ」
こうして、再びバルカ騎士領の財政が逼迫する出来事になる計画がスタートした。
しかも、つい先日までろくに教養もなにもないビリー少年にその計画が委ねられることになった。
まあ、さすがにいきなり全部を押し付けるのも気が引ける。
最初のうちくらいは俺も手伝おう。
こうして、その日からバルカ騎士領では大量の使役獣の卵を孵化させ始めたのだった。
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