卵の流通
「なあ、坊主。ちょっといいか?」
「どしたの、おっさん?」
「いやな、前からその傾向はあったんだが、最近それが顕著になってきたんだ。一応まだ大丈夫だが問題になる前に坊主には報告しておこうと思ってな」
「ん? 何の話だよ。何がどうしたんだって?」
「ああ、悪い。ようするにだ、最近使役獣の卵の値段が上がってきてるって話だよ。だんだん手に入りにくくなっているんだ」
「使役獣の卵が? ヴァルキリーはまだまだ数を増やしたいと思ってるから、それは困るな」
「だろ? 前から値段がじわじわ上がってはきてたんだがな、最近になってそれがより上昇している。それでも買い手が増えてるから入手自体も難しくなってるんだ」
「そうなのか。任せっきりだったから全然知らなかったな。でも、使役獣の卵の入手はおっさんに任せていた仕事だろ。つまり、おっさんがなんとかするしかないってことだな」
「そんなこと言うなよ、坊主。使役獣の卵が手にはいらなくなって困るのはお前も同じだろうが。それにそもそも、値段が上がっている理由の一つは坊主にあるんだぜ」
「俺に原因が? 嘘つくなよ、おっさん。俺は何もしていないぞ」
「してないなんて言わせないぞ、坊主。使役獣の需要が上がったのは間違いなく坊主が原因だよ」
バルカニアの北を新たに拡張して牧場をつくった。
そこにヴァルキリーとヤギを入れてある。
ここには角ありヴァルキリーも一緒に入れている。
何かあればヴァルキリーが【散弾】を使うので、ヤギもおとなしく生活することだろう。
その牧場を作り終えたとき、おっさんが話しかけてきた。
どうやら使役獣の卵についてのことらしい。
最近値上がり傾向にあるらしい使役獣の卵。
その値上がりの原因が俺にあるというのだ。
「いいか、坊主。俺たちはここ何年もずっと使役獣の卵を買い取り続けている。ここまで買い漁るってだけでも普通なら値段が上がっちまうんだよ。供給量自体はそう変わっていないからな」
「まあ、そうかもしれないな」
「だが、それに更に拍車がかかった。お前のヴァルキリーの活躍によってだ」
「ヴァルキリーの活躍?」
「そうだ。戦場で活躍するヴァルキリーのことを多くの人が知ったんだ。レイモンド様率いるフォンターナ軍だけにとどまらず、ウルク軍に対してもヴァルキリーの騎兵隊が大きな戦果を上げた。それを見て、ほかにも使役獣を育ててみようって奴らが増えたんだよ」
「……でも、そんなのは前からいただろ? それに、その流れならヴァルキリーの販売価格を上げてもいけると思うけど」
「何いってんだ。魔法を使える角ありを売らないっていうのは有名になってるんだよ。他の連中がほしいのはあくまでも戦場で活躍することができる魔獣型の使役獣ってことさ。もちろん角なしでも買い手はつきはするけどな」
「なるほど。つまり、俺が魔獣型としてヴァルキリーを売らないから、自分たちで生産できないかと思って使役獣の卵の需要が伸びたのか」
「そういうことだな。それもこの話はフォンターナ領に限ったことじゃない。他の貴族領でもその流れが出てきているらしい」
「ようするに、フォンターナ領にまでたどり着く流通段階で使役獣の卵の値段が上がっちゃってるってことね。……もしかして、販売制限をかけられてたりするのか? バルカのヴァルキリーが増えすぎないようにって」
「わからん。今のところ、そこまでにはなっていないかもしれないが、そうなる可能性がないとは言えないな」
しまったな。
戦場で活躍すること自体は別によかったのだが、まさかこんな形で影響が出てくるとは。
どうやら世間では空前の使役獣ブームがおきているらしい。
しかも、俺のヴァルキリーに対抗する形をとってだ。
この問題はちょっと放置しておいたらまずいかもしれない。
ぶっちゃけ、現状ではバルカ騎士領最大の戦力はヴァルキリーの群れなのだ。
機動力の高さだけをとってもそれは大きな武器となっている。
だが、今のままでもいいというわけではない。
欲を言えば、もっとヴァルキリーの数は増やしていきたいのだ。
それこそ、ウルクのキーマ騎兵隊のように騎兵だけで1000を超えるくらいにはしておきたい。
「……そういえば、前から聞いてみたいことがあったんだけど、使役獣の卵ってどうやって手に入るんだ? 魔力を吸い取ってその魔力によって姿かたちが違う使役獣が生まれる卵って、今更ながら摩訶不思議な卵だよな」
「ああ、そのことか。使役獣の卵はとある使役獣から生み出されているんだよ。使役獣の卵を生む使役獣がいるんだよ」
「使役獣の卵を生む使役獣? ヴァルキリーとかと違って卵を生むような使役獣がいるのか……」
「そうだ。というか、それも魔獣型だと言われているけどな。【産卵】って魔法を使うらしいぞ」
「【産卵】ってまたそのまんまの魔法だな。でも、そんな使役獣がいるなら、そいつを買い取れないのか? 卵を産ませれば使役獣の卵として買い取る必要もないだろ?」
「無理に決まっているだろ。厳重に管理されてて、持ち出そうとしただけで捕まって生きては帰れないってことになるぞ」
「そりゃそうか。どうしたものかな」
使役獣の卵ってそんなふうになっていたのか。
今までおっさんが持ってきてくれていたから全然気にしていなかった。
だが、今後手に入らなくなるのは非常に困る。
なにか手を打たないといけないだろう。
まだ猶予がある今のうちにだ。
「よし、おっさん。今から手に入るだけの使役獣の卵を手に入れてくれ」
「どうするつもりだ、坊主」
「使役獣の卵を生む使役獣が存在するなら、それを再現できないかと思ってな。それを試すんだよ」
「【産卵】の使役獣を再現? そりゃ無理だろ。今まで誰もやらなかったと思うのか?」
「まあ、ダメ元でもいいからやってみよう。とにかく、使役獣の卵を集められるだけ集めてくれ」
こうして、使役獣の卵を安定的に手に入れるために俺は手を打つことにしたのだった。
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