一芸披露
「アルス殿。図書館とやらはいいでござるが、その後どうするつもりなのでござるか?」
「うーん、そうだな。もっと本も増やしたいところだけど、人もほしい。すでにそれなりの学識のある人間が」
「学識のある人間でござるか。そういうのは普通伝手を頼るものでござるよ。一般人に学のあるものは珍しく、どうしても貴族や騎士家出身の人間が幼い頃からいろんな物事を学んでいるものでござる」
「結局、頭のいいやつらを手に入れるのはコネってことか……。一応、募集をかけてみよう。我こそはと思う賢者はバルカに来いって。その知識を認められたものにはリード家による魔法を授けることにしよう」
「どういう基準で募集をかけるのでござるか? いくらなんでもカイル殿の魔法目当てに有象無象が集まってきても困るでござろう? 応募するための条件ぐらいあったほうがいいのではござらんか?」
「そうだな……。なら、こうしようか。なにか本を持ってこさせよう。どんな内容の本でもいいから持ってこさせて図書館に収蔵するために筆写することを認めること。その条件を満たしたものを対象に話でも聞けば数が絞れるだろ」
「本、でござるか。それはまた難易度が結構上がる条件でござるな。普通は本など持っていないでござるよ、アルス殿。その条件だと拙者のような造り手は条件を満たせないものが多いのでござる」
「グランのような造り手か。そういうやつらもカイルの魔法を欲しがるのかな?」
「それはそうでござろう。計算が楽になるのはもちろんでござるが、戦場に行かずとも魔法を得られる機会があるとなれば、手を挙げる者もいると思うでござるよ」
そうか。
戦場で命をかけた代償として手に入るのが攻撃力のない魔法では嫌がるものもいるが、そうでなければカイルの魔法も欲しがるやつはいるということか。
「……ちなみにグランはどうなんだ? カイルの魔法がほしいとは思わないのか?」
「ほしいでござるが、それよりもアルス殿の魔法のほうが拙者にとっては必要でござる」
「俺の魔法が? グランのものづくりに役立つ魔法なんてあったっけ?」
「もちろんでござる。【瞑想】は拙者にとってはこれ以上ない魔法でござるよ、アルス殿。幾日も寝ずに作業することができるなど夢の様な魔法なのでござる」
ああ、なるほど。
グランにとっては【速読】や【自動演算】などよりも【瞑想】のほうがメリットが大きいのか。
確かに一晩寝れば完全に疲れが取れる【瞑想】は便利だし、最近グランはものづくりの作業中にも【瞑想】を使っているようだ。
疲れを最小限に抑えながら何日も連続で作業し続けることがあるらしい。
いずれ反動が来て体に無理がくるのではないかと俺のほうが心配になるくらいだった。
ま、【瞑想】のことについては今は置いておこう。
問題は人集めにある。
カイルの魔法を餌に優秀な頭脳を持つものを集める。
各地を行商してきた経験のあるおっさんや旅をしてきたグラン、さらに元領地持ちの騎士家だったリオンを使って、周囲に声をかけさせる。
とりあえずはこうだ。
我こそは人より優れた頭脳を持つという自信がある人物に魔法を授けると広める。
あらゆる文章を瞬時に読み取れ、いかなる計算も行うことのできる魔法をだ。
だが、その魔法を授けるには条件がある。
バルカニアに新しくできた図書館へと本を持ち込み、その本を筆写させることを許可すること。
その上で俺やカイル、グラン、リオンなどが「なるほど」と思う知識を披露すること。
もしも、俺たちをうならせることができれば魔法を授ける。
その後は俺が造った大学で自由に研究するのもよし、あるいは俺に仕えてバルカで働くのも自由だ。
「まあ、とにかく、こんな感じの条件でやってみよう。グランも知り合いの造り手とかに手紙でも送ってみてくれ」
「わかったでござるよ、アルス殿」
こうして、バルカは大々的に知識を持つものと本を集めることになったのだった。
※ ※ ※
「万国びっくりショーかな?」
人材集めにカイルの魔法を餌に優秀な頭脳を集めようと考えていた時期がありました。
だが、蓋を開けてみたらどういうわけか俺の思っていた流れと違うことになってしまった。
どこでどう話が捻じ曲がってしまったのかはわからないが、想定外の話になっていた。
「はじめまして、バルカ様。わたしは絵の天才です。この通り、目を閉じたまま精巧な絵を描き上げることができます」
「はじめまして。わたしは鼻からパンを食べることができます。どうです、こんなこと他の誰にもできませんよ」
「初めてお目にかかります。わたしの歌を聞いてください。歌います」
なぜか、俺が求めていた知識者ではなく、一芸に秀でた者たちが集まってきてしまったのだ。
というか、ほとんどのものはたいした芸ともいえないお遊戯会でももっとマシなことをするだろうと思うことを俺に見せてくる。
今は耳障りにしか思えないほどの下手くそな歌を聞かされていた。
この流れはどうやらバルカへの移住者の動きも関係していたらしい。
ここバルカへと引っ越そうと考えている人間がそこそこいたようで、そんな奴らが今回の俺の出した知恵者を集め魔法を授けるという話に飛びついたようだ。
なぜか、知識ではなく他のものには真似できない芸を見せるという変容を見せて。
ちなみに本の定義を示していなかったので、バルカニアでは小冊子のようなものを販売する人も出始めたとか。
おかげで連日わけのわからないものを見せられている。
が、これも意外と悪くない。
なかには本当に一芸に秀でたやつもいるからだ。
さっきの絵描きは地図作りなんかに使えるかもしれないし、バルカ城で働かないか声をかけてみよう。
あと、街中で自作の本をつくって売ってるやつも見つけ出して筆写係としてこき使ってやろう。
こうして、俺の予想とは違う流れにはなりつつも、変わった人材が少しずつ集まり始めてきたのだった。
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