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説教

「もう、なにを考えているの!? お金を全部使うだなんて信じられないわ」


 俺は今、母親から説教を受けていた。

 いまだ若く美しいマイマザーだが、実は怒るとかなり怖かった。

 今回は、その中でも特別お怒りのようだ。


「いや、でも、うまく使役獣の卵を孵すことができれば購入金額よりもお金が手に入るんだよ」


「何バカなことを言っているの。そんな簡単にうまくいくわけ無いでしょ? もしそうなら、みんなお金持ちになっているわよ。はぁ……、将来のためにお金をためたいってあなたが言うからものの売り買いを許可していたけど……。男ってすぐに有り金全部使っちゃうんだから」


「大丈夫だよ。それに俺が自分で稼いだお金なんだから、好きに使ってもいいじゃん」


「なに言っているのよ。あなたが使ったお金はみんなで作ったサンダルの売上もあったのよ。自分だけのお金じゃないってわかってないようね。決めました。今後、勝手にものを買うことは禁止します」


「ええっ、そんなのってないよ。ごめんなさい。許して!!」


「駄目よ。ちゃんと反省しなさい!」


 地面に頭を擦り付けるように謝り続ける俺だったが、ついに母親の怒りは収まらなかった。

 くそう、言ってることが正論すぎて反論しづらい。

 って言っても、サンダルの売上金なんて雀の涙みたいなものじゃないかとも思う。

 使役獣の卵の代金はほとんどが俺のレンガによって捻出されているのだ。

 だが、それでももう少し考えて行動すべきだったかもしれない。


 まあ、購入禁止令が発せられはしたものの、やりようはある。

 どうせ、レンガを作るのは俺だし、それを行商人に売るのも俺が担当しているのだ。

 ちょちょいと売上高をごまかして、へそくりを作るようにしよう。

 それより、問題は卵のほうだろう。


 使役獣というのはこんな田舎の農村でも知られているくらいの金策法、もといギャンブルだそうだ。

 確かに母親の言う通り、そう簡単に有用な使役獣が生まれてくるというのであればみんなやっているに違いない。

 というか、たいていの人は手を出して失敗するのだそうだ。

 あまりにも失敗するケースが多いため、ひどいときには詐欺なんかもあるという。

 どうせ、ほとんどは満足に卵から孵らないのだからといって適当な動物の卵を使役獣の卵として買わされたりなんかがあるという。

 それでも極稀に何度も失敗を経験したあと成功するケースもあり、一攫千金を夢見て卵にお金を注ぎ続ける人もいるとかなんとか。

 まわりで卵を買い始めたやつは注意しろという言葉もあるという。


 行商人め、そこまで成功率が低いなんて聞いてないぞ、と心の中で愚痴る。

 だが、すでに買ってしまったものは仕方がない。

 最低でも孵化に成功させなければ……。

 できれば少しでも役立つ使役獣が誕生してほしい。

 俺は汚名返上できるよう、祈るように卵を手で包み持ったのだった。




 ※ ※ ※




 行商人から購入した使役獣の卵はスーパーで売っているごく普通の鶏の卵くらいの大きさだった。

 ただ、表面に迷彩柄のような模様がついているのが違いと言えるだろうか。

 基本的には卵が割れないように保管して、可能な限り身近においておくのがいいらしい。

 理由は持ち主の魔力を卵が吸い取って成長するからだ。

 どうやら魔力とは個人差が存在するようで、吸い取る魔力によって同じ卵なのに孵化するときに全然違った姿で生まれてくるらしい。

 ちなみに複数人の魔力で卵を孵すことも可能だそうだ。

 もっとも、その場合、同じ姿の使役獣を孵化させるのが難しいという欠点もあるのだとか。


 とりあえず、安全に持ち運べるようにしておこう。

 そう思って、俺はサンダル用に山積みになっているハツカの茎を手にとって編んでいく。

 少しぶ厚めの網のようなものを作り、上の方でくくるようにしておけば卵入れのネットになるものを製作した。

 これで上部の紐を腰にでもくくりつけておけばいつでも持ち運べるだろう。

 お尻で押しつぶさないようにだけ気をつけないといけないが。


「それにしても魔力ね。勝手に吸い取ってくれるみたいだけど、こっちから送り込んでもいいのかな?」


 そう思って、俺は目に魔力を集中させた。

 その状態で卵を見つめる。

 迷彩柄の小さな卵はそれ自体にはまだほとんど魔力がないようだ。

 だが、卵の表面には薄っすらと青いモヤがかかっている。

 どうやら、周囲から魔力を吸い取っているというのは本当らしい。


「魔力注入」


 だが、あまりにも少量しか吸い取っていない。

 そこで俺は魔法を発動させた。

 魔力注入は魔力茸を栽培する際に原木に魔力を送り込むための魔法だ。

 魔力を吸い取って成長するというのであれば、こちらから送り込んでもいけるかもしれない。

 そう思っての行動だった。

 俺の魔力が手のひらを通して卵へと移動していく。

 どうやら、送り込んだ魔力をすべて吸収できたようだ。

 卵そのものがそれまでよりも色の強い光を放つように変化していた。

 どの程度、魔力を送り込むのが正解なのかはわからない。

 それから俺は毎日卵の様子を観察しながら、魔力注入を行っていったのだった。

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