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人材育成

「大学、というのはなんでござるか、アルス殿?」


「うーん、どう言えばいいんだろうな。知識の集積所であり、最先端の研究を行う最高学府といえばいいのか……。まあ、とにかく頭のいい連中を集めて、そいつらの知識を記録として残す場所ってのが俺の作りたいものかな」


「それはいいでござるな。ただ、基本的には研究というのは金食い虫でござるが、いいのでござるか?」


「かまわないよ、グラン。今後のバルカ騎士領の領地運営は人材育成に力を入れていくつもりだからな」


 カイルの魔法についておっさんと話していた中で、俺は大学をつくってみようかと考えた。

 といっても、教授となる人間が生徒に教える場所というよりは、いろんなことを研究する場所というニュアンスのほうが強いかもしれない。

 だが、これはグランが言うように無尽蔵に金がかかることになるだろう。

 なにせ、実利を追い求める研究になるかどうかの保証は一切ないのだから。


 だと言うのに、俺が大学をつくろうと考えたのにはわけがある。

 それは、先日のカルロスとのやり取りが関係していた。

 氷精剣と九尾剣、どちらがほしいか、というクイズ形式の質問をされた例の件だ。

 あの質問の意図がリオンの推測したとおりだとすると、カルロスは俺たちバルカを戦場での道具として利用するために領地を取り上げてしまうことも頭の片隅にある可能性がある。

 敵対勢力と隣接する領地に飛ばされるか、あるいはフォンターナ家へと完全に吸収してしまうか、今後どうなるのかいまだに不透明と言わざるをえないのだ。


 あのときは適当にその場のノリで答えた結果、運良くバルカニアという街を維持しつつ領地を増やすことに成功した。

 だが、今後もそれが完全に保証されるかどうかは分からない。

 考えてみれば、フォンターナ家の家宰であるレイモンドを討ち取った俺という存在をあっさりと取り込んだカルロスは最初からいずれバルカの地を取り戻す気でいたのかもしれないのだ。


 せっかくバルカニアという街をつくったこともあり、そう簡単にここを離れる気はない。

 が、先のことなど分からない。

 もしかしたら、この地を離れて暮らすことになる未来があるかもしれない。

 バイト兄やバルガスなど多くのものの生活にも関わることであるだけに、そのことを一切考えずに暮らしていくことはできなかった。


 なので、俺が考えた末に出したのが土地の発展はもちろんだが、そこに住む人材の育成こそが大切なのではないかという考えだ。

 優秀な人材がいれば、たとえ別の土地に移ることになってもなんとかなるかもしれない。

 だが、この場合の人材育成はガラスや家具などを作る職人ではなく、頭脳労働者を意味する。

 領地の発展に貢献できる頭脳を持った人間を育てる。

 これこそが、これからのバルカ騎士領に必要なことなのではないかと思ったのだ。


 これはもちろん金がかかるがそれは仕方のないことだろう。

 むしろ、金をかけてでも今から始めなければならない。

 こうして、俺は大学作りに着手したのだった。





 ※ ※ ※




「でも、良かったのか、リリーナ。貴重なものなんだろ、あの数の本は?」


「そうですね。ですが、アルス様の言う図書館を作るためには必要なものでしょう? それに一時的な貸出ですから、問題ありませんよ」


「ありがとう。助かるよ、リリーナ」


 俺が大学作りとして取り組んだ最初の一歩は図書館作りだった。

 やはり箱物を作るだけでは大学としては成り立たないだろうし、誰も興味を持たないだろう。

 ならば、知識の集積所となるべく、最初に本を集めることにしたのだ。


 その手始めにリリーナが今まで集めて読んでいたという本を借りることに成功した。

 この世界の本は貴重であり、おいそれと手にする機会はないのだが、リリーナは昔から本が好きで読みふけっていたらしい。

 ほとんどは難しい文章で書かれた歴史関係の本だった。


 それを文官たちの手を借りて整理していく。

 カイルの魔法を授かった文官たちは見事な仕事をしてくれており、俺がいない間もカイルだけで支えていた領地の仕事も今ではゆとりを持ってできるようになっていた。

 そこで、文官たちがリリーナから借りた本を【速読】で読みながら筆写していったのだ。

 文章が読めるとはいえバルカニアの学校から選びだしたばかりの文官たちにとっても、歴史の勉強にもなるだろう。

 カイルが選んだだけあって、本当に一日中机の前に座っていても苦痛を感じないらしい彼らはそれから毎日分厚く難解な歴史の本を読み取って、植物紙へと筆写し、図書館の棚を埋めていったのだった。

お読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 良い考えだ。 よかった、主人公はカルロスの事を警戒し、彼の言いなりに成るつもりは無かった。
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