新魔法の活用法
「できねえ。カイル、お前の魔法すごすぎだろ」
「そうかな? アルス兄さんの魔法のほうがすごいと思うよ。あの高さの壁なんてもう普通の人には絶対に突破できないだろうし」
「いや、それでも俺はお前の魔法のほうがすごいと思うよ。ほんとどうやってるんだか」
カイルの作り出した魔法は【速読】と【自動演算】というものだ。
どちらも事務仕事を瞬時に片付けてしまうシンプルながらもそれ故に使い勝手のいい魔法だと言える。
だが、それ以上に俺はカイルの魔法に驚いていた。
というのも、俺が魔法をつくったやり方ではカイルの魔法は再現できそうにもないからだ。
俺の場合は同じ形のレンガを作り続けて、それを毎回同じキーワードをつぶやきながら条件反射にできるようにした結果、【レンガ作成】という魔法を完成させたのだ。
そして、その魔法は呪文をつぶやけば、必ず同じ大きさと重さ、材質のレンガが出来上がるという特徴がある。
つまりは、呪文として設定したキーワードをつぶやくと毎回同じ結果が得られるというのが俺の魔法理論なのだ。
だが、カイルの魔法はそれと似ているようでも違っている。
【速読】は文字の書かれた用紙を見ながら呪文をつぶやくと、一瞬でその文章を読み取り、内容を理解することができる。
【自動演算】も同じように導き出したい計算を瞬時に正確に行うことが可能というものだ。
呪文をつぶやけば効果が得られるという点では同じだが、どんなに内容の違う文章であっても一瞬で理解したり、答えの違う計算をして正解を導き出すという点が明らかに俺の魔法理論から外れていた。
どうやったら同じ言葉をつぶやくだけで違う結果を出すことができるようになるのだろうか。
「そんなに難しいことじゃないと思うよ。誰だってやればできるよ。アルス兄さんもちょっと練習すればできるようになるって」
おい、カイルくんよ。
軽々しく「やればできる」なんていうんじゃない。
やってもできないことなんかいくらでもあるっつうの。
……ってそうか。
もしかしたら、俺はなぜか土に関する魔法が得意でそれ以外ができないのに対して、カイルはこういう事務系に異常な適性があるのかもしれない。
もしそうなら、これからもいろいろ便利な魔法を開発してくれる可能性もあるということになる。
「まあ、でもお手柄だよ、カイル。じゃあ、さっそくその魔法を俺も使えるようにしようか」
「うんうん、練習するのはいいことだと思うよ、アルス兄さん」
「え? 練習? なんでそんなことしなきゃなんねえんだよ、カイル。お前が俺に名付けしてくれたらそれで十分なんだけど……」
「え? 名付け? 誰が誰に?」
「カイルが、俺に、名前をつけるの」
「いやいやいや、それは駄目でしょ、アルス兄さん。なんでボクがアルス兄さんに名前をつけることになるのさ」
「だって、そうしないと俺が【速読】とか【自動演算】を使えないじゃん。俺も使いたいんだけど。絶対便利だし」
「絶対ダメだって。アルス兄さんはフォンターナ家から名付けをしてもらって領地を任されているんだよ? そのアルス兄さんにボクが名付けするなんて許されるわけないじゃないか」
「駄目かな? やったらいけないとは聞いてないんだけど」
「普通に考えて駄目だよ。何考えてるのさ」
「だって、あんなにたくさんの書類を読んでサインするなんて大変なんだもん。俺も【速読】だけでも使いたいんだよ」
「別にアルス兄さんなら事務仕事のときに魔力を頭に集中させるだけでも十分でしょ。ボクは絶対名付けなんてしないからね」
「……本当に駄目?」
「駄目。これ以上言うならボクも怒るよ、アルス兄さん」
「……わかったよ。だけど、カイルが名付けを行うのは決定事項だ。俺に名付けをするのが駄目なら、他のやつに名付けをしてもらう」
「他の人って?」
「カイル、お前、今も時々学校に教えに行ってるんだろ? その中の生徒にいいやつがいないか? 勉強にやる気があって、真面目なやつだ。そんなやつがいるなら取り立てて文官として仕事をさせよう」
そうだ。
カイルの魔法があれば即戦力の文官を作り上げることができるんじゃないだろうか。
というか、以前からもっと文官がほしいとは思っていたのだ。
基本は俺とおっさんがあれこれやっていたのだが、おっさんへの負担がかなり大きかった。
【瞑想】を使えば一晩で疲れが取れるが、逆に【瞑想】が使えるがゆえに過重労働を強いられていたのだ。
それをサポートしていたカイルと後に入ったグラハム家の人のおかげでそれも少し改善していた。
だが、やはりもっと文官がほしい。
特にうちは俺が力で領地を手に入れたがゆえに、集まってくる人材も単細胞の力自慢か夢見る餓死寸前のやつらが多いので、文官になりえる人材の確保は切実な願いだったのだ。
それが、カイルの魔法によって大きく状況が変わる。
文章を瞬時に読み、計算を間違えないというのはとてつもなく大きい。
なぜなら商人たちですら読み間違えは結構あるのだから。
こうして、俺は学校に通う生徒たちからカイルの推薦するこれはと思う連中を選んで文官として取り立てて仕事をさせることにしたのだった。
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