悩む当主
「カルロス様、北の街ビルマが見えてきました」
「うむ。別働隊はどうなっている」
「はっ。北の街ビルマを攻略中のようですが、現在はまだ目立った戦果は得られていません。こちらが合流することになった際に、無理するなと伝えたため、現状は街を囲む配置を維持しているようです」
「よし。陣地についたら軍議を行う。皆に集まるように伝えろ」
「はっ」
去年フォンターナをまとめた俺は何年も手が出せていなかったアインラッドの丘を奪還するために動いた。
以前、俺がまだ今よりも幼かった頃に奪われてから奪い返すことができなかった土地だ。
それはつまり、今までレイモンドがまとめていたフォンターナではできなかったことを、俺がやるということになる。
ここで躓くようなことがあれば、俺はフォンターナ家の当主としての才を疑問視され、またレイモンドのような連中の台頭を許すことになるかもしれない。
このアインラッドの丘の奪還作戦は絶対に失敗することはできない。
俺はこの作戦に自分の人生をかけて挑んだ。
だが、蓋を開けてみればそれは思った以上にスムーズに終わった。
やつだ。
去年急に現れた男、かつ、今では俺の血縁にも関わってくることになったアルス・フォン・バルカによってだ。
アインラッドの丘の奪還を行うために先行して陣地とそこへ至る道路工事を行え。
俺がやつに命じたのはそれだけだった。
だが、そう命じられて先にアインラッドの丘に向かったやつは到着早々に戦闘を始めやがった。
しかも、ウルク家が誇る騎竜部隊と一戦を交えたのだ。
戦場において騎竜部隊の戦力というのは驚異的なものである、というのが一般的な考えだろう。
しかも、ウルク家はアインラッドの丘を防衛するために常時1000騎近い規模の騎竜部隊を置いているのだ。
だからこそ、俺はアルスに陣地づくりを命じた。
やつが使う魔法であれば、即座に壁を作り陣地を囲むことができるからだ。
その陣地さえ完成してしまえば騎竜部隊からの強襲という危険を抑えて作戦を進めることができる。
そのはずだった。
だが、結果的にはウルクご自慢の騎竜部隊はこの世から消滅してしまった。
奴らも最初に先制攻撃をかけて主導権を握ろうと考えたのだろう。
しかし、それを迎え撃ったバルカ軍によって壊滅させられたのだ。
さらに、驚くべきことにバルカ軍にはほとんど損害なしという信じられない結果だけを残して初戦が終わってしまった。
報告を受けたときには俺をはじめほとんどのものがなにかの間違いではないかと思ったものだ。
だが、何一つ報告に誤りはなかった。
本当にバルカ軍の圧勝で終わってしまっていたのだった。
そして、その後に行われたアインラッドの丘の攻略戦。
こちらは初戦で大きな手柄をたてたアルスには陣地作りだけをさせ、他の者達で取り掛かることにした。
各騎士たちは獅子奮迅の働きをし、俺に能力を示そうとしていた。
だが、そこでも大きく目立ったのはアルスを始めとしたバルカ軍だったのだ。
こちらが丘を攻略している後ろで丘ごと壁で囲ってしまうような陣地を造ったのだ。
しかも、丘へと救援に来る敵軍を事前に察知して、近寄らせないように戦ってもいた。
誰がそこまでしろと言ったのかと言いたいくらいだ。
アルスは自分から主張はしないが、どう考えてもアインラッドの丘の攻略戦でも武功の大きさでやつを無視することは不可能になってしまった。
あの働きを無視してしまったら、俺が正当な評価を下せない人間だと言われてしまう。
だから、と言うと語弊があるかもしれないが、丘の攻略戦がスムーズに終わった場合の戦略をとることにした。
やつに奪還したアインラッドの丘を任せて、他の軍で北の街を攻略に行くことに決めたのだ。
まあ、やつらなら大丈夫だろう。
お得意の壁作りで丘の守りを固めてしまえばしばらくの籠城は間違いなく成功する。
その間にこちらは北の街を攻略してしまおう。
アインラッドの丘と北の街ビルマを押さえればウルク領を大きく圧迫することにつながる。
そうなればこれ以上ない戦果だ。
俺の当主としての力を内外に示すことにも成功する。
「みな、集まったか。それではこれより北の街ビルマの攻略に関して軍議を行う。まずは各自考えがあれば述べてみよ」
こうして、俺は北の街の攻略へと取り掛かったのだった。
※ ※ ※
「ちょっと待て、今なんと言った? 先日ウルクの増援部隊を発見したと報告してきたばかりだったのではなかったか? 救援要請もあったはずだぞ」
「はっ。再度、申し上げます。アルス・フォン・バルカ様率いるバルカ軍が推定5000のウルク軍に夜襲を行いました。キシリア街道にて罠を張り、多数の騎士を討ち取ることに成功。その後、ウルク軍はウルク領第二の都市まで撤退したことを確認しました」
「5000の軍を撃退したのか、本当に? というか、ウルク軍を迎撃したのは間違いなくキシリア街道なのか?」
「はい。間違いありません」
「そうか。何を考えてそんなところまで出ていったんだ、あいつは」
アルスに任せたアインラッドの丘の北東に位置するキシリア街道という場所。
当然、そこについての地形などは俺の頭の中にも入っている。
だが、本当にそんなところまでウルク軍を迎撃に行ったのか?
キシリア街道といえばアインラッドの丘から北の街ビルマに向かって移動する距離よりも離れているはずだ。
なぜ、丘の防衛を任せたはずのやつがそんなところまで突っ込んで、撃退に出向かなければならないのか。
というか、ウルクの大軍が進軍していたとすれば、むしろ敵の増援はアインラッドの丘ではなくこちらに来ていた可能性もある。
それを迎撃したのであれば、これほど助かることはない。
「アインラッドにはピーチャも残っていたな。やつからの報告も出させろ。それとキシリア街道へと直接確認にも行かせようか。本当に増援が退いたのであれば、これ以上のチャンスはない。確認が取れ次第、周囲に大々的に知らせろ。籠城している奴らの気力を萎えさせるようにな」
こうして、一進一退を続けていた北の街の攻略もアルスによって大きく戦局が変えられ、フォンターナの勝利に近づいていったのだった。
……今回の戦の恩賞はどうすればいいのだろうか。
アルス率いるバルカに対しての適当な恩賞の選定が非常に難しく、俺は一計を案じることにしたのだった。
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