魔力の活用
「結局、新しく壁を作る魔法をつくったものの、魔力消費が思った以上に多くなっちゃったな」
「そりゃ、あんだけ高い壁を作るならそうなるだろ。最初に考えなかったのか、アルス?」
「そう言わないでよ、父さん。いろいろ試作してたらどんどん改良点が見つかったから、つい手直ししてたら魔力の消費量が増えちゃったんだから」
「まあ、いいんじゃないか? あんな高い壁を作ることなんてそうそう必要ないだろ」
「え? でも、もし今度巨人が現れたらって考えたら砦とか街を囲むようにしておかなきゃならないでしょ。壁を作る機会なんていくらでもありそうだけど……」
「アルスはいっつも壁を作りたがるよな。別に街を囲む必要はないんじゃないか? 敵軍を迎撃する拠点を囲むならともかく、街を全部囲まなくてもいいと思うんだがな」
「……ああ、なるほど。生活する街と迎撃用の城を別に作って、いざ戦いが始まるってときには城に移動するってことかな? それでもいいのか……」
「ていうか、普通はそうだろ。父さんはてっきり、防御力のなさそうなバルカ城をアルスがつくったから、そういうつもりなのかと思ってたけどな」
「そうか、そういうのもありなんだね」
なるほど。
フォンターナの街が城壁で囲まれていたからてっきり、すべての街は壁で囲まれているものなのかと思っていたが、どうもそうではないらしい。
ここ、アインラッドの丘や俺が造った川北の城みたいに、戦時に使うための防衛用の城をしっかりと固めておくだけでも十分効果があるということか。
俺が新しく造った【アトモスの壁】という呪文は思った以上に魔力を使う魔法になってしまった。
俺自身は何度も連続して使うことができるレベルだったので、これくらいでいいかと思って呪文化したのだ。
だが、それが一般兵レベルでは厳しかったらしい。
もともと、バルカ姓を与えた連中の中でも【壁建築】を使えるものと使えないものに分かれていた。
だが、その【壁建築】が使えるものでも【アトモスの壁】は使えなかった人が結構いたのだ。
正直、もうちょっと使える人がいると思っていたので誤算だったと言わざるを得ない。
「でも、まあ、父さんのおかげでみんなで壁を作る算段もついたからホント助かったよ」
「いや、礼を言われるようなことじゃないさ。父さんはなんとかあの呪文を使えたけど、アルスやバイトみたいに連続使用はできなかったからな。苦肉の策ってやつだよ」
「そう謙遜しないでよ、父さん。俺はあの方法を知ってたけど自分以外で使う発想がなかったんだからさ」
俺やバイト兄、バルガスなどは魔力量が多いが、父さんは【アトモスの壁】がなんとか使えるというほどの魔力量しかなかった。
もちろん使えない人間が多い中で、父さんが使えると言うだけでもありがたい話だ。
だが、父さんはそれを良しとしなかったらしい。
なんとか、自分でも壁造りに貢献できないかと頭を悩ませたようだ。
そこで、父さんがとった方法は他の人の魔力も利用するというものだった。
一定の魔力がないと【アトモスの壁】自体を発動することすらできない。
今までのバルカ軍だと、【整地】が使える人間、【壁建築】が使える人間、そして【アトモスの壁】が使える人間に分かれてそれぞれ別に作業をしていたのだ。
だが、父さんはその分担作業を取りやめて全員で【アトモスの壁】を使えるようにしたのだった。
【アトモスの壁】を使える父さんが、使うことのできない者たちを集めて自身で壁を作る。
そして、父さんが呪文を使い、魔力がなくなると、一緒に行動しているメンバーから【魔力注入】を受けて魔力を回復させる。
こうすることで、いままで魔力量が少なく壁造りに貢献できなかった人間までもを活用することに成功したのだ。
俺も新しい魔法を呪文化するときにはヴァルキリーたちから【魔力注入】してもらい、魔力を回復させることはあったが、人間同士でのやり取りは考えもしなかった。
少し考えれば誰でも思いつきそうなことだが、ちょっとした発見というやつだろうか。
おかげでアインラッド砦の壁を囲み直すのを時間短縮していた。
「それで、アインラッド砦を離れてこんなことをしていていいのか、アルス?」
「ん、こんなことって?」
「いや、今やってる作業だよ。アインラッド砦の周りの村にわざわざ【整地】や【土壌改良】をする必要があるのかってことだよ」
「ああ、そのことか。別に問題ないでしょ。アインラッド砦を確保すればもうこのあたりの土地はフォンターナ領に組み込まれることになるんだから」
「そうはいってもな。もう何年も前からここらはウルク家が統治していたんだぞ?」
「ま、別に今回は農地の改良だけで村を壁で囲ったりしてないからね。もし仮にもう一度ここがウルク領になってもそんなに不利益はないでしょ」
父さんと一緒にヴァルキリーの上からみんなが作業しているところを見守りながら、そう話している。
アインラッド砦の周囲にある村へ出かけていって、畑に手を入れているのだ。
もちろん無理矢理ではない。
これはあくまでも合意によるものだった。
このあたりの村はつい先ごろまでウルク領だったのでそんなことをする必要はない。
にも、かかわらず、なぜそんなことをしているのかというとアピールやパフォーマンスのためだった。
俺がアインラッド防衛をカルロスから命じられたときには、ここらの村からも戦力となる兵を募兵していた。
我こそはと意気込んだ若者たちが今のバルカ軍には多数おり、むしろ現状そちらのほうが数が多い。
募兵をして軍として使い始めてからそれなりに時間もたっている。
ここらでひとつ、お返しでもしておいてやろうと考えたのだ。
バルカ軍へ志願して入ってきた者たちの村に行き、そいつらの実家の畑を改良する。
よっぽど偏屈なやつでなければそれだけでも喜ぶだろう。
なにせ、彼らはアインラッド砦で【土壌改良】した土地でハツカが数日で収穫できているのを実際に見ているのだから。
さらにこの行為は志願してこなかった村人たちにもこちらの力を見せつけることにもなる。
うちに来て頑張ればこんな魔法を使えるようになるかもしれない、と思ってもらえれば、もしかしたらもっと志願してくるやつらも出てくるだろう。
そう考えた俺は、空いた時間を利用して村へと農地改良にやってきていたのだった。
バルカニアは無駄に土地を広げたおかげで、まだ人を受け入れる余地がある。
ちょっとでも引っ越しを希望するものが出ることを祈りながら、村での作業を見守っていたのだった。
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