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当主級

「アルス様、ご無事ですか? 追撃していったアトモスの戦士はどうなりましたか?」


「リオンか。俺達は平気だよ。狙い通り2個めの罠にかけて仕留めた。リオンこそよくあの場で取り乱さずに指揮をとってくれたな。助かったよ」


「いえ、わたしにできるのはそのくらいですから」


「謙遜するなよ。うちは兵をまとめられるやつって少ないからな。新兵も含めた部隊でよくやってくれた。それで、隘路の罠にかかったウルクの騎士たちはどうしたんだ?」


「はい。投石による損害がやはり大きかったようです。動けるものも一部いましたが、部隊としては壊滅的でした。ただ、すぐに後方から歩兵部隊がやってきたので、そちらに残っていた投石をぶつけてから被害のでないように撤退してきました」


「ナイスだ、リオン。よくやってくれた」


「おい、アルス。ウルクの騎士も巨人も倒したんだ。今ならもう一度敵に攻撃をかけてもいいんじゃないか?」


「うーん、いや、やめといたほうがいいだろ。あの場にいた騎士が追いかけてきたけど、それがウルク軍の騎士すべてってわけじゃないし、軍全体を見ると数が違いすぎる。危険だ」


「ですが、アルス様、ウルク軍が今後どう動くかを確認する必要はあるかと思います。さすがに騎士たちに多数被害が出た状況でそのまま進軍してくるか微妙でしょう。もしかすると撤退するかもしれません」


「撤退する場合は追撃をかけたほうがいい、か?」


「はい」


「わかった。バイト兄は騎兵をまとめてウルク軍の偵察に行ってくれ。リオンもそれに同行しろ。角ありたちを連れて行って構わない。ただし絶対に無理をしないこと。あくまで偵察で、撤退の動きがあれば追撃してもいいけど深追いはしないこと。いいな?」


「おう、まかせとけよ、アルス」


「ほんとに深入りするなよ。リオンが見張っておいてくれよ」


「アルス様はどうされるのですか?」


「俺は歩兵たちを連れて一度退く。アインラッド砦にいるバルガスたちにもアトモスの戦士を倒したことを報告しておきたいしな」


「わかりました」


 こうして、俺は当初の目的通り巨人討伐を成功させて、アインラッド砦へと帰還することにしたのだった。




 ※ ※ ※




「それでは、間違いなく例の巨人を仕留めたのだな、貴殿は?」


「え、そうですけど、ピーチャ殿はなにか気がかりがあるのですか?」


「もちろんだ。騎士を相手にするときもそうなのだが、確実に仕留めない限りは再び戦場で相まみえることになるのはよくあることだからな」


「……どういうことです?」


「そのままの意味だが、戦場で戦った騎士に手傷を与えても教会で回復魔法による治療を受けるとすぐに治る。間違いなく仕留めない限りは再び戦場で向き合うことになるのはよくあるのだよ、……貴殿らは知らなかったようだが」


「ってことは、隘路の罠で損害を与えたウルクの騎士たちもすぐに復帰してくるということですか? そうなるとバイト兄やリオンが危ないんじゃ」


「いや、そうとも限らない。基本的に回復魔法を使えるのは教会でも司教以上の立場のもので、そのような者が戦場へと足を運んでいることはないであろう。なので、反対に騎士たちを回復させようと判断したのであれば間違いなくウルク軍は退くことになると思う」


「そうか……。となると相手を退かせたいときにはむやみに殺さないで半殺しのほうが良かったりするのかな?」


「なにげに怖いことを言うな、貴殿は」


「あはは、でも回復魔法のことをすっかり忘れていました。リオンも戦場に出た経験がなかったから、そのへんのことをうっかりしていたのかも。助言感謝します」


「いや、このくらいはどうということはない。それにしても、話を聞くだけではその巨人の戦いぶりは信じられないが。本当にそれほどの強さだったのですかな?」


「ええ、実際に戦った自分でも信じられないくらい強かったですよ、アトモスの戦士というのは。ピーチャ殿なら勝てますか?」


「とうてい無理だろうな。フォンターナ領でそのようなものとまともに戦えるのはカルロス様くらいではないかと思うが」


「……カルロス様はあの巨人に勝てると?」


「正直なところ、勝てるかどうかは話を聞くだけでは分からない。だが、戦うこと自体はできると思う。当主であるカルロス様ならば我々には使えない上位の位階の魔法をも使えるだろうしな」


 なるほど。

 あれほど強かった巨人だが、どうやら領地を治める貴族当主クラスの強さらしい。

 このあたりでの戦はただ単に数が多いほうが勝つというものではなく、個人の武力が戦況に大きな影響を与えることがある。

 それは単純に魔力パスの恩恵によって絶大な魔力を保有するものほど個人的な戦闘能力が上がるというのも理由だ。

 だが、それ以外にも位階の上昇が関わってくる。

 一般兵よりも遥かに魔力量が多い騎士たちでさえ使えないような魔力消費量の魔法を当主が使える場合があるというのが原因だ。


 かつて、街ひとつを一度の魔法行使で滅ぼすことができたという王家の魔法ほどではないが、戦局に多大な影響を与えることができる魔法を各貴族家の当主たちは使えたりするのだ。

 だからこそ、力のある騎士たちも貴族の配下となって従うのだろう。

 そして、ピーチャが言うにはアトモスの戦士もそれに匹敵するレベルの実力ではないかということらしい。


「でも、そうなると一部の人間が強すぎるな……。正直、農民兵ってそこまでいらないんじゃ……」


「そうでもない。カルロス様のような貴族家の当主がいくら強くともそれは個人の力でしかない。例えばこのアインラッドを奪い取っても、北の街の攻略に向かっている間にここにカルロス様がいなければ再び奪われるかもしれない。各地を守る兵や指揮官といったものは必ず必要になる」


「ああ、なるほど。いくら一人だけが強くても領地全体を考えるとその人以外も必要ってことか。やっぱり、最低限、数を揃えるのも戦略上重要になる、か……」


 しかし、カルロスのやつってそこまで強いのか。

 あの巨人レベルであることをピーチャは疑いもしていない。

 単独で戦況に影響を与えるとかどんなだよ。

 今まで【壁建築】が使えるからといって割と気楽に考えていた部分もあるが、アトモスの戦士のような存在を見た以上楽観視はできない。

 せめてもう少し壁の高さが必要かもしれない。

 改めて俺はこれからのことを考える時期にきていると痛感したのだった。

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