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「どうだ、ついてきているか、バイト兄?」


「ああ、大丈夫だ。巨人はちゃんといるぞ。だけど、ウルクの騎士連中も騎竜に乗って追いかけてきてやがるな。どうするんだ、アルス?」


「このままのスピードを維持しよう。少なくともウルクの歩兵はついてこれてないしな。分断自体は成功だろ」


 真夜中の遅い時間帯にウルク軍の陣地へと夜襲を仕掛けた俺達バルカ軍は敵陣から逃亡していた。

 もしかしたらそのまま夜襲で巨人を仕留められるかもしれないとも思っていたのだが、予想よりも遥かに強かった。

 九尾剣まで使っても大したダメージを与えられないのであれば、少なくとも一対一の戦いでは勝てないだろう。

 となると、このままうまく誘導して罠にかける必要がある。


 だが、そこでひとつ問題がある。

 それはウルクの騎士の存在だった。

 成功の可能性は低いとは思っていたが、ウルク軍から巨人だけを引っ張り出すことはできなかった。

 しかし、ここまで多くのウルクの騎士が追撃してくるとも思わなかった。

 どうやら、俺が九尾剣を持っているというのに気がついたのが原因みたいだ。

 よほど、この九尾剣はウルクの騎士たちにとって大切なものらしい。

 血走った眼で怒声を放ちながら騎竜にまたがって追撃してくる。


 が、これはこれで良しと思おう。

 なんといっても数が多い歩兵がついてこられないスピードで逃げているにもかかわらず、騎竜に乗った騎士と大きな歩幅で走る巨人だけがついてきているのだ。

 罠にはめるという目的を巨人以外にも使ってもいいだろう。


「そろそろだな。頼むぞ、リオン」


 バルカの騎兵が逃げ続け、それを追い続けるウルクの騎竜と巨人という構図がしばらく続いた。

 その追走劇によって更に後方から追いかけてきていたウルクの歩兵たちの距離が十分に開いた頃、目的のポイントが見えてきた。

 そこはいわゆる隘路あいろと呼ばれる地形になっているところだった。

 道が細くなり、その道の左右は高くなっている場所。

 当然集団がそこを通るときには針の穴に糸を通すように先頭から集団の形が絞られるようになる。

 この隘路をヴァルキリーが駆け抜け、それを追いかけてウルクの騎士と巨人が追いかけてきた。


「今です。壁を作ってください」


 全速力で駆け抜けるヴァルキリーの一団が通り過ぎ、その後に同じところを騎竜たちが駆け抜けようとしたタイミング。

 その時、リオンの声が響き渡った。

 その声を合図にして細い道に高さ10mの壁が出現した。

 俺達が通り過ぎたあとに配置していたバルカの兵が道へと飛び出し、【壁建築】の魔法を使ったのだ。

 高さもあるが、この壁には厚みもある。

 突進力に定評のある大猪にもびくともしない信頼性のあるもので、以前ウルクの騎兵団と戦ったときにもそれは証明されている。

 その壁が最初は追撃してくるウルクの行く手を阻むように現れ、更にその後、追撃してきた集団の後方でも壁が作られた。

 これで細く狭まった道で完全に前と後ろを囲まれたことになる。


「投石、放て!」


 進行ルートに突如として現れた壁に追撃者たちは完全に翻弄されていた。

 先頭を走っていたものは壁へと衝突し、それを見たものは急停止したものの後方から来ていたものにぶつかられて押しつぶされ、うまく立ち止まったものたちは状況を把握しきれず立ち往生してしまう。

  周囲が暗いから余計に状況把握が難しいのだろう。


 そこへ道の左右から投石が放たれた。

 この隘路というポイントに誘い込んで攻撃を仕掛けると決めたあと、俺が魔法でつくっておいた投石機によるものだった。

 【記憶保存】で覚えている投石機を再現するだけなので後付で必要な縄など、一部の材料さえあれば襲撃地で即興でも作れる攻撃兵器。

 当初は防衛設備として考えていた投石機だったが、別に罠にハマった敵軍に使ってもいいだろうとはじめての実戦投入に踏み切ったのだった。


 そして、投石機によって放たれるのはただの石ではない。

 俺が大猪の牙とヴァルキリーの角という素材と触媒によって作り上げた通常よりも硬い硬化レンガを今回は使ったのだ。

 それが行き場を失ったウルクの追撃軍へと集中砲火を浴びせる。

 リロードの遅い投石機の弱点を補うために、投石機の数をそれなりに多く用意しておいたおかげで雨のように硬化レンガが降り注いでいた。


「どうだ?」


「ガアアアアァァァァァァ」


「……まじか。硬化レンガをあの勢いでぶつけても仕留められないのか」


 俺が用意した罠は確実に戦果を上げていた。

 騎竜に乗っていたウルクの騎士たちはさすがにこの攻撃を防ぎきれなかったからだ。

 狐に獣化するという魔法はたしかに身体能力を上げてこちらの奇襲を察知したり、炎の魔法を使ったりすることはできる強力なものだが、物理的な破壊力のある硬化レンガの雨を防ぐには相性が悪かったのだろう。

 数多くの騎竜と騎士たちが細く逃げ場のない道で倒れ伏している。

 が、その中で異彩を放つ巨人は違った。

 投石機によって飛ばされた硬化レンガで傷を負っているものの、いまだに健在で動いているらしい。


「って、うそだろ。あいつにとって10mの壁は大した障害にならないってか?」


 そして、さらに俺は衝撃的な現場を見せつけられた。

 急な壁の出現によって立ち止まってしまった巨人だが、その壁の上部へと手をかけて乗り越えてきたのだ。

 自分の2倍の高さの壁だというのに手で体を引き上げて、足を伸ばし、その足も壁の上部へと引っ掛けて体全体を持ち上げる。

 そうして、壁の上に乗り上がった巨人は周囲をグルリと見回した。


「まずい、リオンたちが狙われるかも……。おい、こっちだ、デカブツ」


 壁の上に立つ巨人からだと隘路となった道の左右に配置していたリオンを含めたバルカ兵が襲われるかもしれない。

 そう思った俺はとっさに手にしていた九尾剣を頭上へと掲げて魔力を注入した。

 ゴウっという音をたてるかのように九尾剣から炎の剣が現れる。

 あたりを見ていた巨人の眼が俺を捕らえる。

 今はまだ日も出ておらず周囲は暗い。

 その中でこの炎の剣は目立つだろう。

 なにより、一度自分に切りかかってきた剣なのだ。

 無視するという選択肢は取りづらいはず。


 そう判断した俺の考えは正しかった。

 ギロリとこちらを見た巨人は周囲にいるバルカ兵を無視して、俺に向かって走ってきたのだ。


「壁の高さが10mって駄目なのかな」


「今そんなこと言ってる余裕ないだろ、アルス。ほら、逃げるぞ」


「わかってるよ、バイト兄。でも、一応あの罠も役に立ったと言えるのかな。最初の目的通り、巨人を一人きりにすることができたし」


 用意した罠では巨人を倒すことはできなかった。

 が、巨人と一緒に追撃してきたウルクの騎士の騎兵には大打撃を与えられた上、更にその後から追いかけてくる歩兵の進行を遅らせることもできるだろう。

 だとすると、あとはあのしぶとい巨人をどうにかしさえすればこの戦いは終わることになる。

 こうして、巨人との追撃戦は第2ラウンドへと突入したのだった。

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