早期発見
「アルス、北東の監視塔から狼煙が上がってるらしいぞ」
「まじかよ。バイト兄、騎兵をまとめろ。出るぞ」
バルガスや父さんが新兵を連れてきてからしばらくしてからのことだった。
アインラッド砦の城壁を改修したり、投石機の使い方を訓練していたときにバイト兄から声がかかる。
どうやらウルク家の動きを監視するためにつくった監視塔のひとつから狼煙が上がっているようだ。
父さんではないが、ここまでアインラッドの丘の形を変えるほどの要塞化をしたこの砦を見ればウルク家はこちらを攻めてこないのではないかとも少し考えていた。
だが、どうやらその考えは甘かったようだ。
俺とバイト兄はヴァルキリーに騎乗して北東へと走らせたのだった。
※ ※ ※
「あちらです。あそこからウルクの軍の様子が見えます」
「わかった。案内ご苦労さま」
監視塔で狼煙を上げ、遠方の異変を知らせる。
そうして、いくつかの監視塔を経由して伝えられたウルク家の動きはまだ初期のものだったようだ。
こちらに向かっている最中の軍を発見して、それを知らせてくれたらしい。
軍の進行というのは思った以上に時間がかかる。
大人数でまとまって移動するというだけでも時間がかかるのだが、それに合わせて食料などの荷物までも一緒に運搬しなければならない。
軍の規模が大きくなればなるほど、進軍するスピードというのは遅くなってしまう。
とくにフォンターナもウルクもそのことを分かっていてあえて道を整備していないため、余計に時間がかかるようだ。
場所によっては1日で15kmほどしか進まないこともあるそうだ。
だから、そんな鈍足のウルク軍の動きを早めに察知できたうえ、こちらはヴァルキリーという素早い移動方法がある。
まだ防衛地点のアインラッド砦よりも離れた位置で実際に進軍してきたウルク軍の姿を自らの目で確認することができたのだった。
「監視塔が役に立ったのは嬉しいけど、こりゃきついな」
「多いな。ウルクの連中、あんな数を引っ張ってきたのか。おい、アルス。あれはどのくらいの数になるんだ?」
「正確にはわからないけど……、ざっと見た感じ、少なくても3000人、多くて5000人って感じじゃないかな、バイト兄」
「どうする? 攻撃を仕掛けてみるか?」
「いや、バルカの騎兵は200騎くらいだろ。角あり入れても数が少なすぎる。無茶だぞ」
「なら、このままアインラッドまで帰るのか? つっても、アインラッドにいる新兵をあわせても数はこっちが少ないだろ。どうするつもりなんだよ」
「うーん、そうだな……」
監視塔に配備していた兵がウルク軍全体が見える位置に案内してくれた。
そこで相手の数を確認して、俺とバイト兄はこれからどうすべきか悩んでしまうこととなった。
それは想定していた以上に相手の数が多かったからだ。
平地の遠い距離から双眼鏡で見ているため、正確な数は分からない。
だが、ものすごい数の人が移動していた。
どうやら使役獣などにも荷物を引かせているうえ、きちんと並んで歩いているわけではなく、数が数えにくい。
そのため、かなり幅のある数の差だがなんとか相手の人数を推定する。
が、その数はどう見てもバルカ軍の数を超えていた。
俺はバルカニアからバルカ姓のあるものを全員連れてきてはいない。
せっかく造った新しい街があり、そこを無防備にするわけにもいかなかったからだ。
そのため、バルカ姓を持つものを200人ほどを、ヴァルキリーに騎乗する騎兵として連れてきていた。
カルロスと一緒にアインラッドの丘にやってきたときには、さらにバルカニアに飢えをしのぎにきた連中で若い男連中を募兵していたのでその数が200人ほど。
そして、今回カルロスの許しを得て新たにバルカニアのほか、フォンターナの街とアインラッドの丘付近の村で集めた人数をあわせて、おおよそ1000人弱の規模が俺の配下としてアインラッド砦にいる。
この数でウルク家に対抗できるだろうか?
相手の数が3000ならば、防衛できる砦があるこちらの3倍程度で攻めかかってくることになり、いい勝負になるかもしれない。
最も、こちらは防衛戦などしたこともなければ、新兵だらけできちんと対応できるかどうかはわからないのだが。
だが、5000ほどが戦力だとすればこちらの5倍に相当する。
そうなるとかなり厳しいかもしれない。
というか、今、カルロスたちが北の街とやらに攻めかかっているのではなかったのだろうか。
そちらでも戦が行われているのに、アインラッド奪還のためにここまで兵を追加で出してくるとはウルク家も相当力が入っているものと見える。
相手も必死だということだろう。
「とりあえずは、このことを北にいるカルロス様とアインラッド砦にも報告しておかないといけないだろう。伝令を走らせよう」
「そうだな。何人かにいかせようか」
「バイト兄、北には土地勘があるやつを向かわせてくれ。ついでに救援に来るように俺からも一筆書いておくから持たせようか」
「救援が必要なのか?」
「そりゃそうだろ。俺が命じられたのはアインラッド砦の防衛だ。ってことはこのまま敵と戦うとなると最悪籠城することになる。籠城するからには外からの救援がないと無理だ」
「ってことは、このまま何もせずにあいつらを進ませようっていうのか、アルス?」
「……いや、それも面白くないな。ちょっかいくらいはかけてみようか」
「そうこなくっちゃ。で、どうするんだ? 普段の訓練どおり、騎乗して近づいて魔法攻撃を撃ち込むのか?」
「いや、それをするには相手の数が多すぎる。弓矢で迎え撃たれたら、騎乗していてもこっちに被害が出る可能性があるだろ」
「ならどうするんだ?」
「決まってるだろ。夜襲だよ。夜、暗くなってから攻撃を仕掛けよう。うまくいけば、相手を引き返させることもできるかもしれない」
こうして、俺達バルカ騎兵団は数千人に及ぶウルク家の軍に対して、夜襲を仕掛ける準備に取り掛かるのだった。
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