防衛準備
「とりあえず、やれることをやっていくしかないか」
カルロスたちフォンターナ軍がいなくなり、風がピューピュー吹いているアインラッドの丘に残された俺はつぶやく。
カルロスのやつは何を考えているんだろうか。
こんなところに少数を残して再出撃していくなど意味不明なんだが。
だが、愚痴ばかりを言っていられない。
アインラッドの守備を言い渡され、それを引き受けた以上やり遂げなければならないのだ。
ほっぽって帰ってしまえば俺に未来はない。
「最初は崩れたところを修理するとしてだ、問題はどのくらいの期間を守備しとけばいいんだ?」
「おそらくそう長い期間というわけではないと思います。ですが、カルロス様が援軍に向かった北の街の攻略も包囲しての攻城戦となっていると聞いています。短い期間というわけにはいかないかと」
「リオン、とりあえずで構わないから予測できる守備期間を計算しておいてくれ。おっさんはその期間以上をここに立てこもることになっても大丈夫な量の食料を確保して運ばせるように。他に早めにしておくことってあるかな?」
「大将、募兵するんじゃないのか? 今の人数でここの守備は無理だぞ」
「そうだった。バルガスは兵を集めてきてほしい。希望者は後で働き口を斡旋するといっても構わない。とにかく人数を集めてくれ」
「了解したぜ、大将」
「集めた兵はバルガスがまとめておいてくれ。特に決まりと命令はしっかりと守らせるように。この近くの村は何年もウルク家が治めてたって話だし、変なことをするやつがいたら処罰を与えてもいい。頼んだぞ」
「アルス、俺は何をすればいいんだ?」
「バイト兄は俺と一緒に防衛線を構築してくれ」
「防衛線? なんだそりゃ?」
「このアインラッドの丘を守るためにここの守りを固める。だけど、それだけだときついかもしれない。一応外に打って出ることも考えておきたい。そのための防衛線をつくるんだよ」
「……具体的には何をするんだ?」
「バイト兄はアインラッドの攻略戦の間、騎兵を率いて敵の増援部隊を迎撃していただろ。敵の進行ルートもある程度分かってきたと思う。その予測できる進行ルートを見張ることができる場所に俺が塔を建てて、監視塔をつくろうと思う。敵を発見したら狼煙と伝令を使って、籠城する前に迎撃できる準備をしておきたいのさ」
「なるほど、監視塔か。それなら気になる場所もあるし、案内してやるよ、アルス」
「よし、それじゃ各自準備を進めてくれ。なんとしても守り切るぞ」
「「「「「おう」」」」」
こうして、俺達のアインラッド防衛が始まったのだった。
※ ※ ※
「結構、集まったみたいだな、バルガス」
「おう、大将。かなりの人数だろ。どいつも農家の次男坊や三男坊みたいな奴らばっかりだがな。大将の人気が高いから自分たちから志願してきたぜ」
「俺の人気? そんなもんがあるのか、全然自覚ないんだが……」
「なんといっても自分たちと同じ農民から領地持ちの騎士にまでなったやつだしな、大将は。それについこの間も圧勝して名前が広まっていたんだよ。もしかしたら、自分も魔法を授けられて騎士になれるかもと気合が入っていたな」
「そうか。だけど、防衛戦は一致団結してるのが重要だろ。あんまり手柄を焦って勝手な行動するなって言っておかなきゃな」
「そのことだがな、大将、どうやって防衛するつもりなんだ? 普通は城壁の上から弓を使って防衛するんだろ? でも、弓の練習なんかまともにできてないぞ。今からやるのか?」
「問題はそれなんだよな。弓はまともに使えるようになるまで時間がかかるから難しいんだよな」
「なにか考えがあるんじゃないのか?」
「一応考えてはいるよ。やっぱりレンガを武器にしようと思っているかな」
「レンガを? 城壁の上から落とすのか? 悪くはないと思うが、壁を登ってきているやつにしか効果ないんじゃないか?」
「さすがにそれだけじゃ無理だってのは分かっているさ。投石機を使うんだよ」
バルカを騎兵団にするというコンセプトに決めた俺だが、防衛や籠城について一切考えなかったわけではない。
いずれそういうときが来る可能性というのも頭に入れていたのだ。
そこでどうやって防衛するのかという問題がある。
そのときに考えたのはやはり兵器となるものの存在だった。
この世界には魔法が存在しており、戦場では魔法の有無が戦局に関わってくる。
であれば、勝負の決め手となる強力な魔法があればいいのかとも思った。
だが、以前リリーナと話したときの王家の話を思い出したのだ。
王家は強力な大魔法を使ったという。
確かにそれは非常に強く、この地を平定する原動力になったのだと思う。
だが、下手に殺傷性の高い魔法を作るとバルカ姓を持つものまで無差別にその魔法を使えるようになってしまう。
かといって、俺だけにしか使えない魔法では使い勝手が悪い。
その場合、俺が毎回その場にいなければいけないということになるからだ。
あまりむやみに攻撃魔法を増やしたくないという思いと、俺がいなくても使える攻撃手段の確保。
その両方を満たすものとして俺は投石機を作ることにしたのだ。
大きなスプーンのような形状をした棒の先にレンガを入れて、テコの原理を利用して遠方へとレンガを飛ばす。
まともにそのレンガにぶつかれば、たとえ防御力を増したバルガスであっても無事ではいられないだろう。
十分兵器として使えるし、壁の向こうに殺到する敵軍に対しても使用可能だ。
「……でも大将、そんなもんがどこにあるんだ? バルカニアから持ってきたってことはないだろ? ここで作るってんならすぐに材料とかを用意しないといけないんじゃないか?」
「ふふふ、慌てるなよ、バルガス。投石機は俺が作る。材料は土があれば作れるからな」
そう言って、俺は地面に手をついて土に魔力を流し込んだ。
投石機はすでに一度バルカニアにいるときにグランと試作していたのだ。
そのときに、投石機の構造を【記憶保存】で覚えている。
であれば、簡単だ。
俺は記憶している通りの構造の投石機を硬化レンガで作り上げたのだった。
車輪が4つついていて場所の移動も可能な投石機。
レンガを飛ばすために棒の投石する側とは反対側を重くなるようにする。
あとは棒の投石側に紐とつなげて、この紐を投石機の土台にある、ハンドル部分につなぐようにする。
ハンドルをグルグル回すと紐につながった側が下に下がってくるが、それを解き放てば跳ね上がるようにして持ち上げられ、レンガが飛ばされる。
投石の武器となるレンガはバルカ姓を持つものならば誰でも作り出せる。
弾となるレンガが無くなる心配はない。
こうしてアインラッドの丘はその日のうちに多数の投石機が設置された砦に早変わりしたのだった。
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