エン禁止令
俺に対して忠誠を求め、それを実現した者を援助して国政、あるいは都市の統治を担わせる。
そうして、オリエント国周辺の小国にたいしての影響力を高めることに成功していった。
それが実現できているのは、俺の力の大きさももちろんある。
が、一番影響力が大きいのはなんと言ってもバルカ教会で配っている腕輪のおかげだろう。
金属製の腕輪。
これは一見するとただの装飾品にしか見えないかもしれない。
が、実際にはこれは非常に優れた魔道具だ。
腕輪には【自動調整】の魔法陣が描かれたおかげで、老若男女とわずに統一規格で使用することができる。
さらには制御の魔法陣が描かれたことによって、アイの管理が行われているのだ。
腕輪を装着した者の魔力によって個人を識別し、その位置までもを常時把握できている。
さらにはエンという通貨のやり取りまで可能なこの腕輪が、すでに小国家群で広く普及していることが他国への介入を容易にしていた。
なにせ、今では多くの人が腕輪を通して物の売り買いを行っているのだ。
まだ金貨や銀貨を用いている人ももちろんいるが、日増しにエンの流通量は増えており、それが市井の経済活動に用いられている。
だが、オリエント国を除く他国ではエンを税として回収するのが難しかった。
それが、俺に対して忠誠を誓い、その結果、政治を担うことができるようになると税の回収ができるようになる。
国内に居を置く人物にどのような税を負担させるかはそれぞれによって異なるだろうが、腕輪を使用している限り、簡単にエンを徴収することが可能になる。
この結果、国政を奪うことに成功した後も、その者は安定的な政権運営ができる環境にあるのだ。
しかし、そうなると当然反発は起きる。
もともと国を統治していた者たちはそんなことをされたら困るわけだ。
税の確保はいかなる国家にとっても最重要の課題だ。
通貨以外にも米や農作物、特産品などもあるのだが、それでも金というものは特に貴重な財源でもある。
それをバルカ教会によって握られているという現状がいかに危ういことなのかということが、ここにきてようやく認知されてきたようだ。
ぶっちゃけ、遅いと言わざるを得ないだろう。
が、今までは不況のこともあったり、非常に便利な魔道具であるということもあって、反対意見があれどもバルカ教会の布教とともに配られる腕輪を使用禁止にしようとする動きはほとんどなかった。
が、それがついに出てきた。
ヒッタルト国の地方都市から一般市民が団結して代表者を出し、その人物が俺に忠誠を示して都市ごと独立したあたりから、バルカ教会の腕輪やエンの使用を禁ずる小国が出始めたのだ。
そんなことをされるとバルカ教会としては困ってしまう。
しかし、そのことについてバルカ教会はなんの意見も出さなかった。
信者に対しては腕輪を配るのをやめたりはしないが、使用の有無は個人の判断や各国の法に任せると相手にゆだねたのだ。
それによって、どうなったかというと、結論から言うとエンの使用を国が完全に禁止することはできなかった。
なにせ、腕輪は個人の魔力によって識別して管理されている。
例え、普段は腕輪をつけていなくとも、教会から配られた自分用の腕輪ではなくとも、人のを借りれば使用可能なのだ。
隠れてこっそり使って取引することができた。
いくらでも役人の眼を盗んで売買が可能だったのだ。
それでも強引にエンの使用を禁止させようとする国があった。
常に荷物の中に腕輪を持っていないか確認したり、エンでの取引をしているところを見かけたら逮捕されるということにもなっていたらしい。
あるいは、それらしい動きをしたというだけで冤罪をかけられて痛めつけられた者も現れる事態となった。
そうなるとどうなるか。
もしも、金貨や銀貨、あるいは銅貨などが十分に市場に流通していれば、エンを禁止していてもさほどの影響はなかったかもしれない。
便利なエンが使えなくなるが、それだけだからだ。
が、現状は違う。
多くの金貨は俺がすでに集めているし、銀貨に至ってはエンの担保として確保しているからだ。
つまりは、エンを禁止してしまうと代わりとなる通貨があまりにもなさすぎる事態となったのだ。
エンの使用禁止令を発した国で新たに不況の波が起き始めた。
通貨がなく経済活動が制限されたら、ふたたびラッセンの大不況のような状況が引き起こされるかもしれない。
このことをその禁止令が出された国に住む者たちは理論ではなく自分たちの肌感覚で敏感に感じ取ったのだ。
国が行ったエン禁止令は自分たちの命に係わるかもしれない。
だが、それを解決できる手段は存在する。
国の方針とは違う者を代表者としてたてて、そいつがエン禁止令を撤廃すればいい。
さらに言えば、エンの発行元でもあるバルカ教会と密接な関係になれば、エンを税としても活用することができる。
であれば、代表者はそれができるように俺に忠誠を示した者のほうがいいだろう。
そんな流れができてきた。
こうして、それまでよりも多くの場所で住人の意を汲んだ代表者が擁立され、俺のもとへとやってくることとなったのだった。
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