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小国家群の土壌

 新調した新しい柔魔木の弓に魔力を注ぎ込む。

 かつて、流星と呼ばれた男が使っていた弓よりも大きくて太いものだ。

 俺が手にして握る部分ですら分厚いそれは、見る者がみれば巨人用の弓ではないかと思うだろう。


 魔力を注げば柔らかくしなやかになるという柔魔木であっても、そこまで太いのであれば弓としては使いにくい。

 だからこそ、弓兵の国であるグルーガリア国でもここまでの太さの弓は作られていなかった。

 が、それを俺は使えるようになっていた。

 それは手の指にはめている指輪の効果に他ならない。


 緋緋色金で作られた魔法の指輪だ。

 ベンジャミンの魔法鞄から手に入れた希少な特殊金属である緋緋色金に魔法陣を描き、そして精霊を宿したことで迷宮核にすらなりえる指輪。

 それが俺の指に嵌っていて、その精霊の力が発揮されていた。

 木精が柔魔木の弓に干渉して、その特性を最大限に引き上げている。

 ただでさえ太く大きな弓がきしむこともなく引き絞られて、矢が放たれるのを今か今かと待っていた。


 魔剣ノルンが俺の血を鎧と化して、俺の肉体補助を行ってくれているのもある。

 まだ体格的には子どもの俺だが赤の鎧を身に纏っている今は、そこらの成人男性よりも大きく、ちょっと小柄な巨人と言えなくもない。

 そんな立派な体格の赤の鎧を着た俺が特性の柔魔木の弓から【流星】を放つ。


 通常であれば弓の一射ではけっして崩れることがないであろう【アトモスの壁】ですら、その【流星】を防ぐことはできなかった。

 硬化レンガで作られた高さ五十メートルの壁が一撃のもとで粉砕する。

 さらに、その【アトモスの壁】も一枚ではなかったのだろう。

 この都市に迫りくる俺たちを見て、あらかじめ何重かで補強したいのだろうが、その後ろの壁もろとも破壊に成功してしまっていた。


「今だ、攻め込め。くれぐれも略奪や虐殺のようなことはするなよ、ゲラント」


「もちろんです。わかっていますよ、アルフォンス様」


 ワルキューレに騎乗したまま、【流星】を放った俺はその結果を見てそばにいたゲラントに告げる。

 そこには先日俺に忠誠を誓った男がいた。

 ここ、サーシーン国の出身のゲラントという男だ。

 こいつは、かつて父親がこの国で権勢を誇っていたのだという。

 だが、勢力争いで負けたことで父親が国外へと追いやられてしまい、その子どもであるゲラントも同様の扱いとなってしまった。

 そして、その父はふたたび国に戻って権力を取り戻したいという野望を秘めたまま、病没したのだという。


 本人曰く、卑怯な手で濡れ衣を着せられてのことだったのだそうだ。

 むしろ、命を全うできただけでも御の字だと思わなくもない。

 が、ゲラントは違った。

 父を陥れた者どもを決して許さないと心に秘めながら、これまで生活してきたのだそうだ。


 そして、その時がきた。

 父に従って国外までついてきた者もいたが、彼らだけではどうしても父の無念を晴らせない。

 そのための力が必要だった。

 そこに手を差し伸べたのが俺だというわけだ。

 一撃で壁をぶち破れる力があり、そして戦力を持っている。

 その力を利用できるのは金や権力などではなく、心だ。


 忠誠を示す。

 それができれば、ほとんど格安、というか出世払いでその力を借りることができた。

 その結果、ゲラントが国の中枢に収まったとしても、けっして自由気ままに好きなことができるとは限らない。

 重い足かせがついてしまうことにもなるだろう。

 それでも、父の無念を晴らすことができるのであれば、俺に忠誠を示して行動に出る。

 そうと心に決めたゲラントは、確かに忠誠紋という試練を乗り越えて、こうしてサーシーン国へと帰ってきた。


 おいしい。

 この小国家群にはゲラントのような連中は思った以上にいたからだ。

 いくつもの国が存在し、各国の力がぶつかり合いつつも、一国にはまとまらずに長年あり続けるという不思議な土地。

 そして、どこの国でも権力争いは日常茶飯事であり、そこで負けた者が国外に逃げてふたたび表舞台に舞い戻る機会を虎視眈々と狙っているのだ。


 もちろん、そういう連中が国に戻って再び力を得ることはそう多くはないだろう。

 だが、けっしてないわけでもない。

 元の国にとっても他国に攻め落とされて国が無くなるよりも、国内での権力争いとして早期に決着をつけて国を安定したほうがいいこともあるからだ。

 そのため、どちらかの勢力が優位に立った瞬間に一気に潮目が変わってしまいやすいという傾向もあるのだとか。


 ようするに、ゲラントが人の力を借りてでも敵を討ち、国に戻ってきたのであればサーシーン国の人間はそれを受け入れる土壌があるのだ。

 鉄壁とも思える【アトモスの壁】を軽々と破って都市内部へと入ってきたゲラントとバルカ傭兵団が中枢を抑えると、かつてゲラントの父と直接的に争った連中以外は驚くほどおとなしくゲラント陣営へと鞍替えしたようだ。

 あっという間にサーシーン国はゲラントが主導する国となり、そのゲラントは俺に忠誠を示す親バルカ派陣営になった。


 さて、次に行こうか。

 【流星】を一発撃つだけの簡単なお仕事を終えた俺は、さらに別の小国へと向かうことにしたのだった。

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[一言] おー請求権の代理行使戦争かー
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