頭のすげ替え
【聖域】の魔法陣が組み込まれた新しい都市。
その都市計画はラッセンによる土地開発から始まった。
それまでのグルー川の川岸に作られた対グルーガリア国用の要塞を地ならししながら、地中の設備を作っていく。
そのため、見た目だけならまだあまり大きくは変わっていない。
規模が大きいだけに完成までもまだまだ時間がかかるだろう。
そんな都市づくりをしている間、俺は俺で動く。
それは俺自身の影響力の拡大だ。
新しい都市はこれからの目的を達成するための手段であって、目的そのものではない。
もっともっと俺が強くなるために動いていく。
「お願いいたします、アルフォンス・バルカ殿。どうぞお力をお貸しいただきたい。私にお力添えいただければ、この御恩は決して忘れはしないと誓いましょう」
「アルフォンス様は心の広いお方だ。助けを求める者を援助することをいとわないだろう。しかし、誰にでも寛容というわけではない。だが、貴殿が心の底からアルフォンス様に忠誠を誓うのであれば、必ずやお力を貸してくれるだろう」
「はっ。誓います。変わらぬ忠誠をささげることを誓いましょう」
「では、それを証明してもらおう。ここにある魔法陣の上でそれを示すのだ。貴殿の心が真にアルフォンス様への忠誠を持っているのであれば、我が手にある紋章と同じものが描かれるだろう」
絶賛工事中の新都市開発地、ではなくオリエント国にある俺の屋敷。
そこに訪れた者が、俺に頭を下げている。
それに対応しているのはエルビスだった。
俺に対して忠誠を示せとエルビスが言い、そのための試練を与えている。
それは忠誠紋だった。
床に描かれた忠誠紋の魔法陣の上で俺に対して忠誠を示そうとそこに立つ。
俺はと言えば、魔法陣の上に立ったのを見届けてから、魔力を流し込むだけだ。
その結果、そいつの手の甲に俺の紋章が描かれれば、そいつは俺に対して本当に忠誠を示していることがはっきりと分かる。
が、そうでなければなにもない。
驚くほどあっさりと、その結果が分かってしまう。
なぜ、そんなことをしているのか。
それは俺のもとにやってきているのが、他国の人間だからだ。
俺が小国家群で影響力を高めようと決めた際に、俺に忠誠を示せと周辺国に発したのだ。
当然だが、それをまともに受け取る国はない。
俺に忠誠を示したところで、自国のためになるとは限らないからだ。
が、それに食いついてくる者もいる。
それは、その国の主流派ではない者たちだった。
自国の中でもっと上に行きたいけれど、その力がない者たち。
だが、それでも野心を捨てられない者。
そいつらが、なんとかして成りあがろうとした結果、俺のもとへとやってきたのだ。
忠誠紋で俺に対して忠誠があることを示す。
そして、忠誠を示すことに成功すれば、俺はそいつのために働くことになる。
そいつの国に行って武力を行使するのだ。
いまや大国の王族級に膨れ上がったその力を遠慮なく使っていくことになるだろう。
忠誠紋を手に入れたときに、それを利用することを考えた。
最初は各国に俺に対して忠誠を示すように求めようかとも思った。
が、それは現実には難しそうだということはすぐにわかった。
どこの国でもそうだが、現状ですでに自分が一番上にいるような立場であれば、関係のない人間に忠誠を誓うなんてことはあり得ないからだ。
だから、発想を変えることにしたのだ。
現状で一番上にいる者に忠誠を誓わせるのではなく、俺に忠誠を誓った者を一番上の立場にしてしまえばいい、と。
ようするに頭のすげ替えというやつだ。
俺に従う者を国の中枢にしていけばいい。
この方法は普通ならば無理だろう。
机上の空論と言い換えてもいいだろうか。
いくら口先だけで忠誠を誓うと言っても、心の底では全然違うことを考えているものだからだ。
が、この忠誠紋があればその可能性も減らすことができる。
少なくとも、本当に俺に忠誠を誓っていなければ、手の甲に紋章が現れないことはこれまでの経験から分かっているのだから。
こうして、俺は自国で成り上がりたいと考える者が俺のもとにやってきたら、それを忠誠紋を使って証明させることにした。
そして、実際に忠誠紋で俺の紋章が手の甲に浮き上がった者に対しては惜しみなく力を貸すことにしたのだ。
バルカ傭兵団という戦力とともに俺が出張っていく。
「見事だ。貴殿の忠誠はここに証明された」
「おお。では、お約束通り、私に力を貸してくれるのですね?」
「どうでしょうか、アルフォンス様? この者は見事にアルフォンス様への忠誠を示しました。力を貸してやってはどうかと考えますが、いかがでしょう」
どうやら、今回面会にきた男は本当に俺に忠誠心を持っていたようだ。
サーシーン国のゲラント、だったっけか?
そのゲラントをサーシーン国の国主にするために協力すると頷く。
こうして、俺は他国にたいして内政干渉しながら影響力の増大と魔力集めを平行して行っていったのだった。
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