【聖域】の魔法陣
【聖域】という魔法がある。
聖光教会における上位の魔法であり、これが使える者は枢機卿の資格ありとみなされている魔法だ。
各地にある教会の区分にしたがい、その地の住人に名付けをして魔力量をあげた神父などが【回復】を使えるようになり司教となる。
その司教はだいたい貴族領を任されることが多いようだが、そのさらに上位の【浄化】を使えるようになって大司教となり、そして枢機卿へと昇り詰めるわけだ。
つい先日まで【回復】しか使えなかった俺が【浄化】を飛び越えて【聖域】までもを使えるようになっていることを考えると、本当にベンジャミンの魔力をその血と一緒に吸い取れたことは大きかったと言えるだろう。
ちなみに、そのさらに上位の魔法として【神界転送】というものがあるらしいのだが、これは今は使えない。
封印指定されたとかで、どれほど魔力量をあげたところで使えるようになったりはしないようだ。
というわけで、実質的に現在の最上位の魔法が【聖域】となる。
その【聖域】だが、俺が呪文を唱えて発動すると地面が円形に光り、その光が柱のように天に延びていく。
その光の中は不死者の穢れのいっさいを祓う効果が継続して得られるというものだ。
【浄化】が穢れを祓うために一瞬だけ光るのにたいして、持続的な効果があるのが特徴と言えるだろうか。
だが、その【聖域】は【神界転送】のように呪文を唱えたら魔法陣が描かれるというものではない。
ただ、光の円柱が現れるだけで、その下に魔法陣があるわけではないのだ。
なのに、新たに作る都市では魔法陣を描いて、【聖域】と同じ効果を得ようとしている。
これができるのは、ひとえにアイが神の巫女であるからだ。
アイはその人格をカイル兄さんが作り上げ、そして体をアルス兄さんが用意した。
そして、アルス兄さんは自身の魔力で精霊石を作り出せることから、アイをたくさん生み出してバルカ銀行の管理にすら活用している。
が、本来のアイの体の使用用途はアイではなく神アイシャが使うことにあった。
神界という天空王国や天空霊園とは別に空に浮かぶ場所にいる神アイシャ。
その神アイシャ様は自由の身ではないのだという。
かつて、俺たちと同じ人間だったにもかかわらず、迷宮核と【合成】されて神像へと変えられてしまったからだそうだ。
そんな神様が少しでも動けるようにと作ったのが神の依り代であるアイの体だ。
つまりは、もともと神様のための依り代をアイが使わせてもらっているということになる。
そして、現在は神界にもアイがいて、神様との話し相手や掃除などの身の回りの世話をしているというわけだ。
なので、アイは頻繁に神様と話をすることができる存在でもあるということになる。
そこで、話は【聖域】へと戻ってくる。
この【聖域】も【浄化】や【回復】も全ては一人の女性が呪文化に成功した魔法だ。
だからこそ、その女性は教団から神としてその身を変えられ、現在に至る。
そんな偉大なる魔術師でもあり、西方では失われた古代魔導文字の使い手たる神アイシャからアイは情報を得た。
呪文ではなく、魔法陣として【聖域】を使えるのはこのためだ。
神界にある神殿はその内部が常に清浄なる空気で満たされているが、それも同じなのだという。
神殿の下や壁に特殊な魔導文字が配置され、神アイシャの神像から生み出される聖水の魔力をもって【聖域】の効果を生み出している。
なので、もしも地上の都市でその都市のすべてを【聖域】で包み込むようなことができれば、それはとんでもないことだろう。
神の地と同じ場所を生み出すことと同義なのだから。
「実存する神が住む地と同じ環境、ですか。すごすぎて想像もつきませんね」
「まあ、俺も行ったことがないけどね。ただ、確実に言えるのは病気になりにくい都市になるんじゃないかってことだけどね」
「あ、そうかもしれませんね。アイ議長も【聖域】の効果を見越しての下水道の配置かもしれません。汚れた生活排水を下水道を通して川に流したら、その下流はかなり汚れるはずですもんね。実はちょっと心配していたんですよ。上流の街による汚染水って結構土地の権力者の間で問題になることが多いので」
「生活魔法の【洗浄】があるから、今までのどの都市と比べても汚染水の量ってかなり少なそうだけどな。けど、確かに下流の影響は確実に減るだろうね」
呪文では得られない【聖域】の魔法陣について、かいつまんでラッセンへと話をする。
そのラッセンはというと、指にはめた魔法の指輪に魔力を送りながら、計測が済んだ土地にたいして魔術を発動させていた。
俺からは見えないが地面の下は穴が開いているはずだ。
新たに都市を作ることになったのは、都市国家オリエントからグルー川を下って、グルーガリア国につく手前の地点だ。
ここはかつて、俺がグルーガリア国と持久戦を指向して作り上げた陣地の近くだったりする。
どこに新しい都市を作るかも問題だったが、魔導鉄船などを有効活用しやすいこの陣地のあった場所がいいだろうということになったのだ。
領土を減らしたグルーガリア国が俺の支配下にはいりやすいようにという牽制も兼ねている。
そんなふうに雑談をしながらも、新しい都市計画は順調に進められていったのだった。
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