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重層魔法陣

「けど、本当にそんなことができるものなのか、アイ?」


「都市そのものを魔法陣として設計し、建設することについてですね。確かに単純に道路や建物を魔法陣に見立てて作っていくだけでは成立しないでしょう」


 アイの豊富な魔力を魔法の腕輪という媒体を通すことで、指輪が迷宮核として機能するかもしれない。

 その話から、面白そうな内容に発展していった。

 が、はたしてそれは可能なのか。

 普通に考えて、そんなことができるものなのかと疑問に思ってしまう。


 というのも、都市というのは日々変わっていくものだからだ。

 たしかに、最初に設計した影響を受けるだろうが、だからといってそれが今後ずっと変わらないというわけではない。

 道路だって一度作ったとしても、使っていれば補修することもあるだろう。

 あるいは、新しく道路を作る必要に迫られて、道路の場所が変わってしまうことにもなりかねない。

 そうなったら、当初の魔法陣の形から崩れてしまうこともあるだろう。


 俺のその考えにアイも同意を示した。

 そのとおりだというのだ。

 では、一体どうするつもりなのだろうか。


「魔法陣を構成する要素を単一ではなく、いくつかのものを用いて重層的に表現する手法を用いてはどうでしょうか?」


「複数の要素と重層化? どういうことなんだ、アイ?」


「はい。道路や建物を用いて魔法陣を描き出すことはアルフォンス様の指摘するとおり、後々不具合が発生する可能性があります。そのため、それらの危険性を可能な限り避けるために、魔法陣を描く要素を重ね合わせるのです」


「……どういうことだか全然わからん。もうちょっと簡単に言ってくれよ、アイ」


「そうですね。たとえばですが、一枚の紙の上に線を描いて魔法陣を描くとします。ですが、それではその紙が破けてしまえばすぐに使い物にならなくなってしまいます。それは分かりますね?」


「ああ。そうだね」


「ですので、紙が破れてしまっても魔法陣を機能させられるようにするのが多層化です。複数の紙に線を描き、その紙を重ね合わせる。そうすると、重ねた紙を上からみても、魔法陣は一つのものとして機能しますが、かりにどれか一枚が破れただけでは機能停止に至りません。つまりは、応急処置を行うことができるのです」


「……それはなんとなく分かるかも。植物紙って結構薄いから下の紙の模様も見えるもんね。でも、それで本当に魔法陣として機能するのかな?」


「はい。オリエント魔導組合で職人による研究で、多層化した魔法陣でも効果を発揮することが確認されています。また、多層化により魔法陣の破損を減らす効果も報告されています」


「なるほど。職人たちがすでに手法を確立しているのか。だったら、大丈夫かな」


 さらにアイから詳しく聞いたところによると、複数の紙に魔法陣を描くといっても、そのすべてに完成された魔法陣の全体図を描く必要もないらしい。

 十枚の紙を重ねて一つの魔法陣とするのであれば、極端な話で言えば一枚の紙には魔法陣全体像からすると十分の一だけでもいいわけだ。

 あくまでもそのすべてで一個の魔法陣となれば機能するのだから。

 もっとも、魔法陣の機能停止を防ぎたいのであれば、そのようなギリギリの構成ではなく、それぞれが補い合うように図形を重ねる部分があったほうがよいのだそうだけれど。


「ま、そういう手法がすでにあるってのなら、それでいいか。でも、道路以外で魔法陣を描くって言うなら、どういうものを魔法陣の一部に使うんだ?」


「そうですね。まず、考えられるのは最下層に下水道でしょうか。都市で排出される汚染水を都市外へと送り出す下水道も道路と同様に魔法陣を構成する一要素として活用できるでしょう」


「なるほど。でも、土地の下にある下水と地面の上にある道路で一個の魔法陣として認識されるのかな?」


「都市の大きさが大きければ、下水道のある深さなど地表と大差ないものであると認識される可能性があるかと思います」


「微妙な言い回しだね。その感じだと、アイもやってみないとわからないってとこか。でも、もしも下水道が魔法陣を構成する要素たりえるんなら、地下鉄道もそれに利用できそうだね。まだ空気の問題とか解決していないけどさ」


「そうですね。地下を走る線路も一つの要素として活用できるかと思います。また、魔道具の設置も要素の一つとして検討すべきでしょう」


「魔道具の設置? 普通の魔道具に制御の魔法陣を組み込んだところで、迷宮核にはならないだろ? どういうことだ?」


「街灯の魔道具を活用してはどうかと考えています。下水道、あるいは地下鉄道、そして、道路上に光を灯す魔道具を等間隔に設置していきましょう。その魔道具や光も魔法陣として活用していくのです」


 なるほど。

 光を放つ魔道具を使って、都市を照らし出す。

 アイの職場である【寝ずの館】みたいに、夜通し光ることで、遠目から見れば魔法陣のようにみえる、のかもしれない。


 そんなものが本当に魔法陣として機能するのかどうか。

 分からない。

 が、少なくともアルス兄さんが作った【道路敷設】や【線路敷設】は地脈をつなげる効果があることは証明されている。

 転送石というものがそれを示したそうだ。

 本来であれば迷宮内でのみ転送石同士で移動可能なのだが、【道路敷設】などを使って土地をつなげると迷宮街にある転送石間で瞬間的な移動が可能になる。

 つまりは、魔法で作った道路には魔力的なつながりというのが確かに出来上がっているのだ。


 下水道は多分ラッセンにお願いして魔術で作ってもらうことになるだろう。

 地下鉄もそうだ。

 そして、魔道具による光もそのすべてがアイの魔力で光るのであれば、光の連なりが魔力の流れとして見立てて魔法陣の要素となるのかもしれない。


 なかなか面白そうだ。

 重層的に、いくつもの要素を用いて、都市全体を一つの魔法陣として見立てる。

 その中央に設置した魔法の指輪という迷宮核が都市全体に影響を与えるようにして、さらに不具合が出た時には修理がしやすいようにしておく。

 それならば、魔法陣の都市を作ることができるかもしれない。


 アイとの話し合いで、新しい都市は重層魔法陣という手法を用いて作ることに決定した俺は、それからしばらくの間、その計画策定に没頭したのだった。

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