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地下水道

「地下通路の問題点、か。やっぱり、改めて実用化に向けて考えてみると解決しないといけないことが多いんだな」


 土精が宿った指輪をラッセンへと渡したことで、それまでよりもラッセンが魔術を使える規模も速度も格段に向上した。

 そこで、実際に地面の下に穴を掘り進めるようにしていった。

 が、そこで問題にぶち当たる。

 実際にやってみることで、いろいろ気になる点が見えてきたのだ。


「とりあえず、一番の問題は空気な?」


「そうですね。地下深くに横穴を通して、そこを魔導列車アルフォンス・バルカラインが通る。そのためだけの穴を掘るならできなくはないのでしょうが、人が乗るのなら空気は問題ですよね。空気の流れがなさすぎて、息ができなくなってしまいます」


「で、そのために空気穴を地上に空けようとしたら、今度は水が問題になる、と。地中の横穴に水が溜まったら、列車が走るどころじゃなくなるしな」


「はい。そもそもですけど、地中には水分が含まれていますからね。空気穴の有無に関係なく、地下通路を作るなら浸水してこない構造を考えるのと同時に、入ってきた時のことを考えて排水機能をつけるようにしておかないといけないかと」


 地面の下に通路を掘り、そこに線路を敷設して魔導列車アルフォンス・バルカラインを走らせる。

 口にするだけならこれだけだ。

 だが、子どもが土遊びをするのとは話の桁が違う。

 もしも、列車を走らせるのであれば、それなりに深く掘る必要があった。


 そのために、ラッセンは魔力を用いて穴を掘り、その穴から横穴を掘り進めていったのだが、距離が長くなるほどに呼吸が苦しくなってきたのだ。

 これは地下通路内の空気が不足してきたためだという。

 さすがに、穴掘り師と呼ばれるだけあって、こういうことはラッセンも耳にしていたそうだ。

 鉱山で金や銀を得ようと坑道を掘ると、怪我をしたわけでもないのに倒れてしまう人が出ることがあるらしい。

 そういうときはたいてい空気がないか、有害な空気がどこかから発生してるのだという。


 苦肉の策として、地下通路と地上をつなげる空気穴を一定間隔で作ってみようかという話になった。

 そして、それを試してみたのだ。

 が、それはあまり効果的ではなかった。

 地下深くから地上に向かって上にのびる穴を作ったところで、たいして空気が入ってこなかったからだ。

 だというのに、水は入ってきた。

 雨が降るだけで空気穴という管から水が地下通路へと入り込んでくる。

 そんなものをこの九頭竜平野で使えるわけがない。

 川の氾濫が起こるか、あるいは嵐が来れば一瞬で大量の水で地下通路は埋まってしまうだろう。

 そうしたらもはや列車が走るどころの話ではない。


「なんとかならないですかね、アルフォンス様?」


「……空気を送るだけなら、まあなんとかなるかもしれない。精霊石を用いた魔装兵器を改良する感じで風を送る魔道具を作れるかもしれないし。けどなあ。精霊石は無駄にはできないからな。距離を延ばして初めて意味のある地下通路とそこを走る魔導列車のために使うには、さすがに用立てることができないだろうな」


「それはまあ、確かに。というか、そこまでする意味ってないですもんね。それなら地上に線路を作ったほうがはるかに維持しやすいでしょうし」


「そりゃそうか。魔導列車が襲われないようにってので地下通路の建設を考えたけど、そこまでするんなら列車の警備をする人間を増やしたほうが早いし安上りになるだろうな」


 指輪の魔道具を作ったときには、すぐに地下通路を作れるかと思ったんだけどな。

 けれど、そうはいかないようだ。

 ラッセンとの話し合いでは、何度意見を出し合っても最後には地上に作ったほうが楽だ、という結論に達した。


 それは多分、正解なんだろう。

 今ならアルス兄さんが坑道の類を作らなかった理由もよくわかる。

 土の魔法をいくつも作ったあのアルス兄さんですら、地下の通路は解決すべき問題が多すぎると思ったんだろう。


「けど、これはある意味で便利なんじゃないかとも思いますけどね」


「ん? どういうことだ、ラッセン? 列車を通すには問題が多いってさっき言ってただろ」


「ああ、いえ、すみません。列車はそうなんですけど、列車じゃなければ利用価値はあるんじゃないかと思ったので」


「列車以外で地下通路の利用法があるのか?」


「ええ。さっき、空気穴の管から水が入って、地下通路が水で満たされるって言ったじゃないですか。だから、それが理由で列車が通れない。だけど、最初から水が通る横穴としてだったら、それはそれで使えるんじゃないのかなって思ったんです」


「水を通す穴として?」


「はい。私はラッセンの大不況とかいう不名誉な名称がついたおかげで、小国家群のあちこちの国を点々としていたではないですか。で、その時、思ったんですよ。どの国の都市に行っても、雨が降るときには水で都市内の道が大変になるんです。このオリエント国は【道路敷設】で道が整備されてかなりいい状態が保たれているんですけど、道路から一歩外はやっぱり水浸しになりますし、水はけが悪いところもまだ多いのですよ。だから、都市の下にこういう水を逃がす道を作ってやれば、もうちょっと水はけのいい住みやすい都市になるんじゃないかと思ったので」


「へえ。言われてみれば、そうかもしれないな。最初から水を通す管を地面の下に作るって考えるわけか。言うなれば地下水道ってとこか? その地下水道の水もグルー川とかに合流するようにすればいいし、案外いい考えかもしれないな」


「そうですよね。どうでしょうか、アルフォンス様。列車が通れる地下通路の研究は続けるので、その地下水道を作れる呪文作りも試してみたいと思うのですが」


「……ま、いいか。許可するよ、ラッセン。その間に俺は魔導組合に掛け合って、精霊石なしで空気を送るような魔道具が作れないか研究してもらうようにするから」


「分かりました。それでは、さっそく地下水道の呪文を作っていこうと思います」


 こりゃ、しばらくは地下通路に魔導列車アルフォンス・バルカラインを走らせるのはできないかな?

 列車だけならアイの機能を使って無人でも走らせられるかもしれないけど、地下通路の整備もできないなら現実的ではないしな。

 その間に、ラッセンには地下水道でもなんでもやっといてもらおう。

 で、魔導列車アルフォンス・バルカラインのほうが当面は地上で作っていこうか。

 というか、皇帝としての象徴として作るから、どのみち人目に触れる地上にも必要だしな。


 こうして、紆余曲折を得ながらも、当面は地上に線路を、地下に水道を作っていくこととなったのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 魔導列車自体に空気を留める仕組みとか、酸素を生み出す仕組みとかってアプローチも考えられそう
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