国内人気
「うーむ。こういう結果になるのか……」
小国家群をまとめるための方針として、都市国家を統治している議会があれば議員への買収工作を、そして、特定の権力者が牛耳っている場合には忠誠を誓わせることになった。
そのための忠誠紋。
ベンジャミンが使った魔法陣で現れるその忠誠紋の挙動をしっかりと確認するためにも、俺はオリエント国内でそれを使用することにしたのだ。
だが、その結果は思わぬものとなった。
忠誠紋が現れない者がそれなりに多くいたのだ。
自分で言うのもなんだが、事前の予想ではもうちょっと人気があると思っていたんだけどな。
予定の変更が必要だろうか。
アイと話し合って忠誠紋について探っていく。
「オリエント軍、並びにバルカ傭兵団に所属する者たちはアルフォンス様に忠誠を示す方が多いようですね」
「そうだね。そういう連中の中で俺に対して忠誠を示していない奴も、話を聞いたらエルビスやほかの将兵を信頼しているって言う奴が多かった。だから、総合的に考えると俺は軍人や傭兵からはかなりの支持を得ていることになると言えると思う」
魔力を操り作り出す魔法陣。
その魔法陣が発動すると、相手に対して忠誠を誓っていれば俺に魔力が流れ込んでくることになる。
だが、相手が俺に忠誠心を持っていなければそうはならない。
魔法陣を使用した俺の手にも現れた紋章と同じものが相手の手の甲に現れないのですぐに分かる。
その場合はおそらく魔法陣の効果が現れていないのではなく、待機状態ということになるのだろう。
もしも、そいつの忠誠が俺に向けばその瞬間にその手の甲に紋章が現れて俺に魔力が送られることとなる。
ようするに、俺の紋章が相手に浮かんでいないのは誰か別の人物が俺より上位に位置しているということなのだろう。
「で、軍関係者以外のたいていの奴がアイにたいして支持を表明しているんだよな」
今回は軍や傭兵団以外にもそれなりに広い層で試験をしている。
忠誠紋の使用試験として実施し、紋章が発動しなかった者たち。
そいつらには聞き取り調査をした。
もちろんだが、俺に忠誠心がないからといって罰したりはなく、ただの調査だ。
もしも、自分が忠誠をささげる者がいたとしたら誰になるか。
信頼を寄せている者がいるかどうか。
それを聞いて集計を取ったのだ。
調査する前はその人の身近な人物であるかと考えていた。
バルカ傭兵団の傭兵たちのほとんどは俺の紋章が現れたのにたいして、オリエント軍の兵たちの中には自分の上官で信頼できる者を信頼していると言う者もいたからだ。
遠くの有名な人物よりも、近くのいつでも相談できる人のほうがいい。
そういうこともあるのだろうと思っていた。
が、一部のオリエント軍人や議会関係者の中ではそれらの身近な人物よりも圧倒的に信頼している人の名として上がったのがアイだった。
オリエント国議会の議長を務めるアイ。
一般的に言って身近とは言えない者までもがアイという存在を強く信じていると答えたのだ。
「それはそうじゃないかしら。アイさんが議長になってからこの国の状況は基本的にずっといいのだから。軍に関わる人や武勇を好む男の人なんかはアルフォンス君を支持しているかもしれないけれど、商人や普通の一般人はアイさんが議長になってくれたのが一番うれしいんじゃないかしら」
「まあ、アイは優秀だからね。クリスティナの言うとおりかも。それに【分身】が使えるおかげであちこちで仕事しているから認知度は俺と同じか、もしくはもっと高いかもしれないもんね」
「そういうこと。その忠誠紋だったかしら? それをアイさんも議会の人に使ってみればいいんじゃないかしら。そうすれば、アイさんの紋章っていうのが議会関係者の手の甲に浮かぶことになるわよ」
「アイが忠誠紋を、ね」
多分、総合的に考えると俺のほうがアイよりも名が通っていると思う。
が、それは軍を率いる者としてほかの国相手と戦ったことがあり、その実績から他の国の人々にも知られたということだ。
オリエント国内に限って言えば、俺よりもアイのほうが人気があるかもしれない。
圧倒的な政治実績によって、国内が安定し、衣食住に困ることもなくなっているからだ。
そんなアイの姿は議会に行けばいつでもみられる。
オリエント国首都や新バルカ街、あるいは戦場に出張っていることが多い俺よりも、もう少し身近に見に行けることができる美しい女性ということも関係しているのだろうか。
そんなアイが忠誠紋を使ってみるのはどうかとクリスティナが提案してきた。
その考えはよくわかる。
今の状況ならばアイを信頼している議員はバルカ党に所属していなくても一定数いるだろうからだ。
そういう者も味方に引き込むという意味でもやる価値はあると普通ならば考えるだろう。
が、アイが忠誠紋の魔法陣を使うことはできるのだろうか?
どんなに優秀で人から信頼されていると言ってもアイは特殊な存在だからな。
うまくいくのかどうかわからない。
「試してみるのもいいでしょう。私と同じくカイル・リード様に創造された高位精霊は一定の自我を持ちながらも魔力を有していました。であれば、仮想人格である私にも魔力の譲渡が行われる可能性はあります」
「アイに魔力が? なんかよくわかんないけど、面白そうだね、それは。じゃ、やってみようか」
忠誠紋は【命名】の魔法陣を改良したものだ。
そして、【命名】の魔法陣はもともと聖光教会で使われていたものでもある。
教会では神父が魔法陣を展開させ、貴族が配下の騎士に名付けを行ったりもしていた。
つまりは、魔法陣を展開させる者以外がその魔法陣を利用することもできたわけだ。
なので、忠誠紋も同じようにできるかもしれない。
俺が魔力を操って忠誠紋の魔法陣を作り上げる。
そして、その魔法陣をアイが使う形で相手の忠誠を問うようにしてみようか。
とりあえずは、アイの仕事場である【寝ずの館】にいるやつで試してみようか。
あそこは寝食を忘れてアイとともに仕事を行う異常者ばかりだから、アイに対する忠誠心は絶対にあるだろうからな。
それで、魔力譲渡ができれば成功だ。
こうして、アイによる忠誠紋の運用がオリエント国で試されることとなったのだった。
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