騎竜の欠点
「坊主、言われてた通り、こないだの戦いで手に入れた騎竜は全部売り払ったぞ。これがその代金だ」
「ありがとう、おっさん。……やっぱ、結構良い金額になるんだな。使役獣を売るってのは」
「そりゃあな。使役獣で一番人気があるのは騎竜だしな。力もあるし、怪我もしにくい頑強さがあるからな。いつかは騎竜を買いたいって考えて仕事してる商人が多いんだぜ?」
「なるほどな。でも、軍隊の足として使うのは微妙じゃないのか?」
「なんでだ? そりゃ、お前はあっという間にウルクの騎兵団を殲滅しちまったからそう考えても不思議じゃないけど、普通は騎竜兵団って言ったら恐怖の象徴だろ。あの数の騎竜が襲ってくるってだけでビビるぜ」
「うーん。まあ、騎竜が強いっていうのは否定しないんだけどな。でも、魔法が完全に通じないってわけでもないし、それになにより、騎竜兵団って言っても騎竜の種類が多すぎる。統一性がないんだよ」
俺がウルクの騎兵団と戦って感じたことをおっさんに話す。
騎竜を使った軍をつくるというのは確かに強い軍を作りたいという意志から出る当然のものだと思う。
俺も使役獣であるヴァルキリーを使ってそういう軍造りをしたのだから、そのコンセプトとしては間違いないものだと思っている。
だが、それはあくまでもヴァルキリーという存在がいたからこそだった。
しかし、ウルクの騎兵団には微妙に使いにくさがあるのではないかと思ったのだ。
それは一言で騎竜と言っても実は色んな種類の騎竜がいたからだ。
同じ二足歩行するトカゲのような騎竜でも姿かたちが違うものもいれば、立つときは二足でも走るときには四足に、あるいはその逆にというタイプの騎竜もいたのだ。
これは使役獣の入手方法にあるのだと思う。
なんといっても使役獣を育てるには人の手によって使役獣の卵を育てなければならないのだ。
同じ人間からは同じ使役獣が生み出されるが、他の人はすべて違う使役獣となる。
つまりは軍団すべてを同じ使役獣で統一するということは非常に難しいのだ。
【魔力注入】という魔法が使える俺のヴァルキリーはその点で他の使役獣とはまったく違う。
ヴァルキリーにまかせておけば、どんどん同じ使役獣を増やしていけるのだ。
騎兵として使うならば使役獣の種類は統一しておいたほうが絶対にいい。
なぜなら種類の違う使役獣の走るスピードがどうしても違うからだ。
速いやつもいれば遅いやつもいて、どうしても遅い方にあわせて進軍することになる。
実際、俺が敵騎兵を壁で囲ったときには混乱が起こっていた。
急にできた壁に追突しないように走るコースを変えた際に、足の速さの違いから集団が渋滞を起こして縦に伸びる形になってしまったのだ。
そこを待ち受けていた俺に狙われたのだから、あそこまで一方的なことになってしまったとも言える。
やはり使役獣の種類は統一できるならしておいたほうがいいだろう。
では、ヴァルキリー以外の使役獣で統一してはどうか、とも考えた。
もともとヴァルキリーが【魔力注入】を覚えたのは、俺が名付けをした結果なのだ。
つまり、これはと思った騎竜に名付けを行い、魔法を授けた状態で使役獣の卵を孵化させればどうか、とも考えたのだ。
だが、この考えは実行しなかった。
何故かと言うと、騎竜が食べる食料に問題があると感じてしまったからだ。
どうやら、接収した敵の騎竜はどれも肉を主食とするようだったのだ。
よくもあれだけの数の騎竜を養えるだけの肉を定期的に確保し続けられたものだと感心してしまう。
そんな肉があるなら、俺が自分で食いたいくらいだ。
その点、ヴァルキリーは食料事情にも優しい。
【土壌改良】した畑で数日で収穫できるハツカを主食としてくれるヴァルキリーは数が多くともそれほど懐を痛めないのが助かる。
やはり、ヴァルキリーは最高の使役獣なのではないかと自画自賛してしまった。
「なるほどな。確かに食料まで考えると騎竜よりはヴァルキリーのほうがいいのかもな。ウルクの土地があってこその騎竜兵団ってことだな」
「……うん? どういうことだよ、おっさん。ウルクの土地がってのは」
「あん。そりゃ、ウルク領の東側は山があるだろ。そこにヤギがたくさんいるんだよ」
「ヤギか。家畜化してるのか?」
「いや、別に家畜として育ててはいないな。山に勝手に住んでるんだよ。かなり数がいるらしくてな。騎竜の餌にするにはもってこいなんだろうな」
「ふーん。ヤギがいるのか。いいな。肉を食べることもできるし、ミルクも取れるんじゃないか? あと、ヤギっつったらカシミアとか取れるんじゃないのかな。ほしいな。手にはいらないかな、おっさん?」
「はあ? ヤギを飼うのか? 坊主、お前、ヤギがどういうやつか知っているのか? 魔法を使うんだぞ、ヤギってのは」
え?
ヤギって俺の知っているやつじゃないのか。
そういえばヤギは悪魔のイメージをされたりもするらしいが、ここのヤギってのは本当に魔法が使えるのか。
でも、考えてみれば森に住む大猪も【硬化】の魔法が使えるのだ。
別段おかしなことではないのかもしれない。
俺は改めて、この世界の摩訶不思議さに気付かされたのだった。
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