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魔術の変質

 ブリリア魔導国にて新たに作られた魔法陣。

 相手に対して使用することで効果を発揮するが、そのためには相手が自分にたいして忠誠を誓っているという条件が必要になるという。

 その名も忠誠紋。

 なんとも変わったものを作り出したものだと思ってしまった。


 が、それもこれも、おそらくはベンジャミンが研究に携わったからではないだろうか。

 今の俺にはそれがなんとなく理解できた。

 というのも、ベンジャミンの本来の血を吸い取った後だからだ。


 ブリリア魔導国の王族であり、次期王と目された第一王子ベンジャミン。

 そのベンジャミンから血をすべて奪いつくして、俺は力が増している。

 単純に魔力の量としても相当に底上げされたのは間違いない。

 が、それを抜きにしても大きなものを得た。

 それは魔術だ。


 ベンジャミンは魔術の使い手だった。

 それはこれまでに一緒に行動してきたことでも分かる。

 吸氷石から精霊を使役したりしていたからだ。

 おそらくは、あれこそがベンジャミンの魔術であり、そして忠誠紋の開発にも参考にされたのではないかと思う。


 ベンジャミンが吸氷石に魔力を送りこんだとき、その魔力が吸氷石内の魔力、および精霊を咀嚼するような動きを感じた。

 だが、あれは自分の魔力で相手に力を示して忠誠を誓わせる行為だったのではないだろうか。

 ようするに、どちらが上かを示したことで精霊を使役することができたのだろう。

 忠誠紋と同じではないが、似た側面のある魔術であると感じた。


 ただ、同じではない。

 ベンジャミンの魔術では魔力の移譲が行われないようだし、魔法陣では相手を使役できない。

 似て非なるものであると言えるだろう。


 なので、新たに手に入れた力を理解するために、実際にその力を使ってみることにした。

 魔法鞄から吸氷石を取り出す。

 そして、そこに魔力を送りこむ。

 もともと魔力の扱いをアイに教わり、それを徹底的に鍛え上げてきたこともあるだろうか。

 すんなりと吸氷石内に魔力が満たされ、さらにその濃度を濃くしていく。

 そうしてから、その魔力で吸氷石内に含まれる魔力を食べてみることにした。


 自分の魔力でほかの魔力を食べる。

 その感覚は不思議なものだ。

 口でものを食べるのとはまた少し違う感じだろうか。

 あえて言うならば、【いただきます】の感覚に近いのかもしれない。

 食べることそのものよりも、魔力を使って消化吸収の機能を高めている感じに似ているのだろうか。

 お腹の中で細かく砕いて流動的になった食物から栄養を取り込んでいくような感じで、吸氷石の中身を取り込む。


 そして、吸収率を高めるためにさらに自分なりの改良もしてみることにした。

 オリバが炎の矢を【炎雷矢】として自分のものとしながら作り変えたように、ベンジャミンの魔術を変質させていく。

 頭の中にあるのは【いただきます】とは別に、俺が他者から奪い取る魔剣による血の吸収のことだった。

 相手の血を取り込み、自分のものとする。

 血を媒介にしながらも魔力と魔術、あるいは魔法を得る感覚をベンジャミンの【精霊使役】に組み込んでいく。


 俺の魔力が吸氷石内をさらに激しく動き回った。

 ほかの誰よりも濃縮され、どろどろの液体のように、けれどなんの抵抗もなく滑らかに動き回る魔力を使って吸氷石内の魔力を細かく砕き、すりつぶし、さらさらにして吸収しやすくする。

 そして、それを自分の魔力に乗せて、吸血するかのように自身の体に取り込んだ。

 取り込んだ魔力は俺の血液に混ざりこむようにして全身を循環し、そして最後には心の臓に送られる。

 そうして、それはそばにある体の中の赤黒い魔石に保管された。

 バルカ傭兵団の傭兵たちに埋め込んだのと同じ、アルフォンス式強化術で用いている体内の魔石に吸氷石から得た魔力を格納したのだ。


「……今、何をしたんだい、アル?」


「ものまねですよ、ベン。ベンが吸氷石から【精霊使役】を行い竜と戦ったのを見て感銘を受けたんです。だから、それを真似できるように、自分なりにやってみたんですよ」


「……すごいな。真似しようとしてできるものではないと思っていたんだけどな。だけど、それはもう俺の【精霊使役】とは全然違うように感じるよ。というか、中にいた精霊の気配が無くなったんじゃないか?」


 俺が吸氷石にたいして行ったことを見て、ベンジャミンが驚きの声を上げる。

 まあ、ベンジャミンが気を失っている間に血を奪い取ったからな。

 本人も側仕えたちもそれを知らずに、命が助かった代償としてベンジャミンの力が減じたと思っているはずだ。

 だから、彼らからすれば俺がベンジャミンの血を奪うことでその能力までもを得ているとは知りもしない。

 向こうからしてみると、一度見ただけで俺が相手の魔術を真似したかのように見えるのだろう。


 だが、それでも、ベンは鋭かった。

 一度は一般人程度にまで魔力量が落ちているはずなのに、俺が持つ吸氷石にいた氷精の力を感じ取っていたのだろう。

 そして、俺が取り込んだ際に、その精霊の力は感じられなくなってしまっている点を指摘した。


 確かにそうだ。

 ちょっと細かくすり潰しすぎたかもしれない。

 あまりにも吸収率をよくしようと魔力で細かく砕いてしまったがゆえに、精霊としての格は下がっているだろう。

 が、それはそれでいいか。


「出ろ、氷精たち」


 俺が吸氷石から自身の中に取り込んだ氷精を表出させる。

 その氷精たちは非常に弱弱しい印象のものたちばかりだった。

 ベンジャミンのように人型や狼型、あるいは蛇型などの動物系でもなければ、ましてや竜などの姿をしていない。

 どれもその精霊の力のみでは戦えないようなものたちばかりだった。


「アルス・バルカ様と同じですね」


「これがそうなのか、アイ? でも、確かにこれが最弱の氷精だって言われると納得だな」


 その氷精たちはなんの力も持たなかった。

 ただそこにあり、光っているだけだ。

 俺の体から出てきた氷精たちはどんな生物の形もしておらず、ただ丸い光の玉として宙に浮いている。

 これはアルス兄さんが【氷精召喚】を使ったときに出てきた氷精たちと同じってことでいいんだろうか?

 自分が使役した氷精たちに周囲を取り囲まれるようにしながら、淡い光を放つ氷精たちを見てそう思ったのだった。

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