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忠誠紋

「……ん? その手の甲のは? 前までそんなのありましたか、ベン?」


 魔法陣を展開させて側仕えたちから魔力の譲渡を受けたベンジャミン。

 そのベンジャミンの様子を見ていた俺が、ふと、今までとは違っている部分があることに気が付いた。

 それはベンジャミンの手の甲にあった。

 右手の甲に模様が描き出されていたのだ。


 魔法陣とも違うその模様。

 なんと言ったらいいのだろうか。

 あえて言うならば紋章や家紋という感じだろうか。

 ただ、ベンジャミンの右手の甲に現れた模様はブリリア魔導国の紋章と似ているようだが違う。

 これはいったいなんだろうか?


「ふむ。報告通りだね。これは忠誠紋だよ」


「忠誠紋? なんですかそれは?」


「彼らの手の甲も見せてもらうといいよ、アル。俺の手の紋章と同じものが描かれているだろう?」


 俺の疑問にベンジャミンが答える。

 忠誠紋なるものが描かれた右手でほかの側仕えを指し示すので、ベンジャミンの言うとおりに彼らの手も見てみた。

 すると、ベンジャミンのものと同じ模様がその手には浮かんでいた。


「……そういえば、【命名】を使用した際に浮かび上がる魔法陣を改良して作ったのに、名付けをしていませんでしたね。それなのに、ベンは彼らから魔力を得ている。ということは、この忠誠紋とかいうものが名付けのかわりになっているということですか」


「そのとおりだよ。あの魔法陣は忠誠紋を刻むためのものであったと言っていい。俺の紋章と同じ忠誠紋が浮かび上がった彼らから、俺は魔力を受け取ることができたというわけだ」


「……それって、魔法陣を使用すればかならず相手に忠誠を誓わせられる、ってわけじゃないですよね? もしそうなら、これまで使わなかった理由がない。というか、なんだったら俺にも忠誠紋を刻めば魔力を受け取れることになりますし」


「ははは。本当に理解が早いね、アルは。そのとおりだよ。この忠誠紋は【命名】の魔法陣を改良したといったが、実際は未完成でもある。相手の忠誠先を選べない、というよりも相手側にゆだねてしまうことになるんだ」


「相手にゆだねる? 自動選択ってことですか? いや、もしかして途中で忠誠を向ける先が変わることもあり得るのか……」


 ベンジャミンの説明を聞いて、この忠誠紋の効果がおぼろげに理解できた。

 ブリリア魔導国は【命名】の魔法陣に手を加えて新しい魔法陣を生み出した。

 だが、それは真の意味で完成形たりえなかった。

 相手から受け取れる魔力の量を増やすことには成功したものの、その受取先は絶対的、あるいは固定的ではないのかもしれない。


 ようするに、相手が忠誠を誓うほどの存在でなければ魔力はびた一文送られない、なんてこともあるのだろうか。

 そして、複数の相手から魔法陣を使われた際にはそのどちらにも魔力が送り込まれるのではなく、忠誠が強いほうにたいして魔力が送られるということもあるのかもしれない。

 そうなると、今まで得ていた魔力量がなんらかの事情により他者に渡ってしまうこともあるのか。


 であれば、そんな魔法陣は失敗作と言えるだろう。

 今、ベンジャミンが魔力量を高めることができたのは、ここにいる側仕えたちが彼を信頼し、忠誠を誓っているからでもある。

 そうでなければ全く効果がなく、もし、この魔法陣がブリリア魔導国で不用意に広まれば王族ではなくほかの貴族が魔力量を高めてしまう可能性だってあるわけだ。

 だからこそ、ここまでそれを使用していなかったのだろう。

 それでも【命名】の魔法陣の改良を行ったのは、魔力が向かう先を貴族以上の人間に限定したかったからなのかもしれない。

 どうしたって貴族や王族のほうが一般人よりも名声を得やすいし、忠誠心を向けやすいだろうからな。


 それに、この魔法陣があれば魔法を授けることなく相手から魔力を受け取れることにもなる。

 今の小国家群のように無秩序に魔法が広がり、独自勢力が台頭したりするのを防ぐことができるかもしれないのだ。

 現在の体制のもとで、その頂点に位置づく王族たちこそが利益を得られるようにと考えての改良結果がこれなのだろう。

 問題は、これが相手の心にゆだねられているという点を除けば、かなりうまく作られた魔法陣なのではないだろうか。


「面白い魔法陣ですね。ただ、これだと派閥の勢力が明確にわかりそうですね。誰が誰に忠誠を誓っているかが一目で分かるのは、かなり怖いことではないでしょうか?」


「そのとおりだ。だからこそ、我が父である魔導王はこれは完成していないとして秘匿したし、俺も使わなかった。だが、そうも言っていられないからね。幸い、あれを手に入れられたおかげで名を挙げることができそうだからね。利用しない手はないさ」


「あれ、ですか?」


「そうだ。ああ、ちなみにあれは俺の遺失物ではないからね。あれは俺が白竜と戦い、その結果手に入れた戦利品だ。さすがにアルにもあれは渡せないな」


 そう言ってベンジャミンが視線を向けた先には雪があった。

 が、どうやらそれはただの積雪ではなく、舞い上がった雪が覆いかぶさっただけであり、その下には別のものがあるらしい。

 ベンジャミンの言葉を聞いて、すぐにラムダが動いた。

 パッと走り寄り、雪を手で払うとそこには白竜の素材があった。

 白竜の純白の鱗や翼の膜などだ。

 王級魔装兵や魔装兵器を使った白竜との戦いでベンジャミンは敗北を喫したが、どうやら完敗というわけではないらしい。


 霊峰に行き、竜と戦い、生き延びた。

 そして、その結果、一部とはいえ竜の素材を持ち帰ることに成功した王子。

 なるほど、確かにそれなら名声を得られるかもしれない。

 他の貴族から王であるとして忠誠を向けるに足る実績を得て、帰還する。

 改良された忠誠紋により、ブリリア魔導国の王位継承の行方はまだまだ分からない状態になってきたのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] あぶない魔法陣だね 忠誠度で、魔力の送り先が変わるのか? 白竜の素材で、王笏か宝剣でも作りのかな 王権の象徴として
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