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竜と正気と魔法鞄

「竜を倒す? 正気か、アルフォンス?」


「そんなに危険なことなのか、イアン? 竜を倒すってのは」


「ああ。といっても、俺が竜と呼ばれるものと直接対峙したわけではないがな。ただ、話には聞いている。タナトスが不死骨竜と呼ばれる不死者と戦った話だ」


「ああ。それか。たしか、アルス兄さんとカイル兄さん、それにタナトスが不死者の竜と戦ったんだよな」


「そうだ。タナトスの持つ如意竜棍はその素材から作られたものだと聞いている。見事な武器だった。俺たちアトモスの戦士は武具の類にはそれほど興味を示さないものだが、あれだけは例外だ。だれもがあの如意竜棍には引き付けられた」


 出発直前に、イアンと話をした。

 俺がブリリア魔導国の王子を連れて霊峰に赴き、白竜退治を見届けるということをイアンに伝えたところ、すぐにそんなふうに返された。

 竜と戦うなど正気とは思えない、と。

 その理由はイアンがタナトスから聞かされた不死骨竜との戦いのことにあるようだ。


「肉のない骨だけの竜。それは本来の竜と比べても力が落ちているだろうと考えられる。だが、それでもタナトスは力では勝てなかったという。不死者という特性を持っていたことを抜きにしても強敵だったと聞いているぞ」


「そういやそうだね。ってことは、不死者化していない肉のある白竜だと、イアンやタナトスでも力では勝てないってことになるのか」


「まず間違いないだろうな。そもそも人間が戦うべき相手ではないのだろう。少なくとも、アトモスの里に出たあの化け物すら倒せなかったアルフォンスでは到底相手にはならないだろうな」


 アトモスの里の化け物。

 それは、超大型の土喰のことだろう。

 土中を移動しながら、地面の下から飛び出すようにして現れる土喰。

 その外見は竜とは似ても似つかないミミズ型の魔物だ。

 もともと、体の大きな魔物ではあるのだが、それがなぜか超大型の個体が現れてアトモスの里にいる。

 おかげで、アトモスの里には近づくことすら難しいことになっていた。

 たしかに、その超大型土喰を倒せない俺が竜を倒すのは無理なのかもしれない。


「しかし、それを言ったらベンも同じか。ブリリア魔導国がアトモスの里を取り戻したという話を聞いていないし、あの化け物は放置されているんだろう。ぶっちゃけ、あれを倒すだけでも十分な気はするけどな」


 大きさが規格外すぎる土喰でも、魔物を倒す偉業としては申し分ないような感じはする。

 が、見た目はでかいミミズみたいなものだからな。

 あの遺骸を持ち帰っても、驚く人はいても気持ち悪いと感想を抱く人のほうが多いかもしれない。

 それならば、大雪山でも活動可能な魔物の毛皮のほうが評価は高い、かもしれないな。


 しかし、竜がそこまで危険だというイアンの言葉を信じるなら、それを複数討伐したアルス兄さんはやっぱりすごいな。

 不死骨竜だけではなく、空竜という空を飛ぶ竜を倒しているからだ。

 そういう意味ではいずれ俺も竜を倒せるくらいにはならないといけない。


「ま、けど、今回戦うのはベンだからね。俺は危険そうならさっさと逃げるさ」


「あの優男か。確かにあいつは強そうだ」


「イアンにはベンの強さが分かるのか?」


「いいや。どれほどの力を持つのかは読み取れない。だが、あそこまで力を隠せる奴はたいてい強いのが相場だ。おそらく奴もそんな類の人間だろうな」


「ま、弱いってことはないだろうからね。それはともかくイアンはどうする? ついてくるのか?」


「当然だろう。そんな面白そうな話を聞かされて、ここで待っているわけがない。俺も行くぞ、アルフォンス」


「結局、お前も正気を失っているってことだな、イアン。死んでも文句を言うなよ」


 急に決まった霊峰行きだが、同行する者の数を絞ることですぐに準備は終わった。

 今回の主役のベンジャミンとブリリア魔導国から彼の世話をするためについてきていた者たち。

 そして、俺とイアン、それとバルカ傭兵たちだ。

 今回同行する傭兵はみんなバリアント出身の者なので、山の中に行くのもそれほど苦にはならないだろう。

 ちなみに、食料は魔法鞄に詰め込んで、遭難しても生き延びられる程度には豊富に入っている。

 なんだかんだと言いつつ、やっぱりこの鞄は遠出するときには必須だな。


「そういえば、ベンも魔法鞄を持っているんですね」


「ああ、これか。我が愛しの妹であるシャーロットが王家にもたらした秘宝ともいえる一品だね。素晴らしい出来だ。もちろん、魔法鞄としての機能もあるが、それを除いたとしても名工グランによる製作というだけでも貴重だよ。それだけで十分価値がある鞄だ」


「ベンはグランを知っているんですか?」


「もともと、我が父である魔導王がグランの作品を好いていたからね。その関係で俺もよく作品を見ていたんだ。死んだと思っていた彼がまさか霊峰の向こうの国でこのような品を作り上げているとは思いもよらなかった。元気にしているんだろうか」


「多分元気でしょうね。それより、準備は終わりましたね。では、出発しましょうか。白竜の住まう霊峰へ」


 準備は万端だ。

 魔法鞄と吸氷石。

 それがあるおかげで、真冬の霊峰にも突入できる。

 俺はワルキューレに騎乗して、ベンを連れて霊峰へと向かっていったのだった。

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[良い点] 交易品は貴重だよね。 季節毎などに送ってるのだろうか。 お婿さんのカイルは、気配りの出来る子 [一言] 戦闘民族の血が
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