報奨品
「おい、バカアルス。何一人で突っ走ってるんだよ」
「バイト兄か。遅いぞ」
「遅くねえっつうの。勝手に先に走っていきやがって。で、なんだこの壁は?」
「ぼさっとするなよ、バイト兄。フォンターナの本陣を狙っていた敵騎兵隊を迎撃したところだ。まだ壁の中に生き残りがいるはずだ。取り囲んで、壁の隙間から【氷槍】を叩き込め」
「ちっ、わかったよ。後で言いたいことはあるけど、今はそれどころじゃないみたいだしな。お前ら、聞いたな。この中にウルクの兵がいる。壁を囲んで、外側から攻撃しろ。絶対に逃がすなよ」
カルロスがフォンターナの騎士たちを招集して、アインラッドの丘への侵攻作戦を実施するために、丘の近くまでやってきてすぐだった。
先行して道路の敷設と陣地造りをしていた俺は運良く塔の上から敵の奇襲に気がつくことができた。
慌てて迎撃に向かう俺。
だが、こちらも他の作業に取り掛かっていて迎え撃つ準備が調っていなかった。
仕方がないので俺は他のみんなを置き去りにするほどの速さで出陣したのだ。
愛獣のヴァルキリーと魔法を使える角ありとともに。
ちなみにうちの戦力はバルカ姓を持つものでヴァルキリーに騎乗できるものは角なしに乗せている。
あとからバイト兄たち騎兵隊が追いかけてこられるように、角ありだけで出陣したのだ。
塔の上から見た敵の居所とそこから本陣を狙う進行ルートを予測し、そこに先回りするように角ありたちと急行する。
そうして、敵騎兵と接敵したのだった。
見た瞬間、ビビった。
どう見ても、こちらの角ありの数よりも向こうのほうが多いのだ。
遠目からも見える二足歩行するトカゲのような生き物に乗って走る兵士たちのプレッシャーはすごいものだった。
角ありヴァルキリーがいくら魔法を使えると言っても、あの騎竜部隊と真正面から衝突するようなことになれば勝ち目はない。
しょうがないので以前から考えていた策を使うことにした。
俺はバルカ軍を騎兵隊として運用しようと考えていた。
だが、いくらヴァルキリーに乗って魔法を放てるとはいえそれだけで必ず勝てるというものではない。
むしろ、まだまだ弱点だらけだと言える。
その弱点のひとつにバルカ騎兵団は防御力が弱いという面があった。
なるべく戦場を駆け抜けて、魔法による遠隔攻撃で一撃離脱という戦法で相手にダメージを与えるという考えなので、動きの遅くなる重量物となる装備を少なくしたかったのだ。
おかげで足であるヴァルキリーはほとんど防具らしいものはつけていないし、騎乗する人間も革鎧くらいしかない。
この状態では敵の魔法や弓による攻撃でこちらもダメージを受ける可能性がある。
それを防ぐためにどうしようかと考えていたのだ。
そして、そのときに思いついた方法のひとつに角ありヴァルキリーに防御を任せるというものがあった。
人が騎乗する角なしに伴走するように角ありを走らせておき、大量の弓による攻撃などがあった場合は【壁建築】を使って弓の攻撃を防いでもらおうというものである。
ちなみに騎乗している人間は【壁建築】はできない。
地面に触れていなければ【壁建築】の呪文が発動しないからだ。
それに対してヴァルキリーの場合は四本の足が地面に接しているからなのか、走行中でも【壁建築】ができるのだ。
そのことが頭にあった俺は大群の敵騎兵を前にして、ヴァルキリーたちに【壁建築】を発動させることにした。
しかも、移動しながら相手の周りを取り囲むように高さ10mの壁を作りあげていく。
さすがに騎竜といえどもこの壁に囲まれるとどうしようもなかったようだ。
慌てて急激な角度でUターンして壁のないところから包囲を脱出しようとした。
相手が向こうから一箇所に集まるように殺到してくれたおかげで、今度は数の差による不利という状況が消えた。
俺とヴァルキリーが待ち受けるところに列をなしてやってくるのだから、その先頭のやつに攻撃を集中させるだけで良かったのだ。
結果として、この作戦はうまくいった。
あとから見てみると走りながら造った壁は互い違いになっているだけで隙間だらけなので、ストーンサークルのようになっていた。
冷静になれば騎竜たちも抜けられたかもしれない。
相手がパニック状態になっていたのが良かったのだろう。
冷静さを欠いて俺に向かって突進してきてくれたのが良かった。
俺が敵騎兵隊を閉じ込めてすぐ後にバイト兄たちが角なしに騎乗して駆けつけてくれた。
その後にリオンや父さんたちも兵を連れてきてくれている。
おかげで敵を閉じ込めたストーンサークルを囲んで一方的にボコることに成功している。
あとはこのまま囲んで攻撃の手を休めずにいれば、じきにこの戦闘も終わるだろう。
ほとんど損害も出さずに撃退できたのはまさに僥倖だった。
※ ※ ※
「それで、貴様はアインラッド攻略にやってきてすぐにキーマとミリアムを討ち取ったのか」
「カルロス様、そのキーマとミリアムというのは誰でしょうか?」
「キーマはウルク家当主の直系の子供で、ミリアムはその補佐を務める将だ。キーマはまだ今年で21歳ほどの若造だが、ミリアムは歴戦の猛将として有名なものだ。かつて、幾度も行われたアインラッドの丘の争奪戦でその名を馳せた人物で、フォンターナの騎士が幾人も討ち取られている。お手柄だったな」
「ありがとうございます」
「ただな、お前の手柄がでかすぎる。このままでは今度の戦の武功でお前に勝てるものがうちの騎士にいなくなる可能性がある。これから始まる丘の奪取にはアルス、貴様は参加するな。おとなしく陣地を造っているんだな」
「いいのですか?」
「ああ、かまわん。今回の戦いはレイモンド派だった連中が俺のためにどれほど働けるかを見るという側面もある。活躍すれば相応の手柄と地位の保証を、そうでなければ権益の縮小もあると伝えている。やつらのやる気を出させるためにもお前は後ろで見ているだけでいいさ」
「わかりました」
「ああ、それとこれはお前が持っておけ。今回の武功の報酬として先払いだな。キーマが持っていた魔法剣だ」
「え、いいんですか? ありがたくいただきます。ちなみにどういう効果のある魔法剣なんでしょうか?」
「九尾剣というウルクの所有する剣だな。氷精剣のように魔力を込めると炎が剣の形に伸びるはずだ。なかなか見ることのできない一品だぞ」
「こんな貴重なものいいんですか?」
「かまわん。実はそれと同じものをミリアムも持っていたからな。そちらは俺がもらう。かまわんな?」
「もちろんです。ありがとうございます、カルロス様」
「ああ、では、この度の勝利、大儀であった。ひとまず、ゆっくり休むといい」
「はい、失礼します」
やったぜ。
勝手に戦闘してしまったからなにか言われるかもしれないと思っていたが、どうやらお咎め無しにしてくれるようだ。
それに、魔法剣までついてきた。
さらに、今後の丘争奪戦では戦場に立たなくともいいようだし、嬉しいことだらけと言えるだろう。
俺はカルロスからもらった九尾剣を手にして、ルンルンとスキップしながらみんなのもとへと戻っていったのだった。
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