魔導王崩御
「崩御? 魔導王が?」
『そうでござるよ、アルフォンス殿。年が明けて早々、大変なことになったでござる』
「それは間違いない情報なんだな?」
『もちろんでござるよ。拙者、この数年、ブリリア魔導国の内情について知るためにわざわざこの国へとやってきたのでござる。確実な情報でござるよ』
年が明けた。
ガロード暦十五年になるその年のはじめに、ブリリア魔導国にいるバナージから魔導通信器を用いての情報が入った。
大国であるブリリア魔導国の王である魔導王。
その人が亡くなったのだという。
直接会うこともなかったが、大国の王として君臨していた人物だ。
魔道具の国でもあるブリリア魔導国で、その力をさらに増した王でもある。
なんといっても、あのアトモスの戦士という一族をほぼ壊滅させたのだからすごいとしか言いようがないだろう。
アトモスの里で採れる精霊石を用いた魔装兵器や岩弩杖によって、王の持つ武力はさらに高まり、魔導国内の貴族を束ねて帝国などとも争った。
そんな偉大なる王が死んだ。
「ブリリア魔導国の様子はどうだ? 王族でなにか動きはあるのか?」
『それは今、拙者も調べているところでござる。が、まず間違いなく動きはあると思うでござるよ。むしろ、何もないということはないでござろうな』
「ってことは、ブリリア魔導国も内部争いが起きそうだね。グルーガリア国とは比べ物にならないくらい大きな争いが」
魔導王の死。
それ自体になにかを感じるということはない。
今まで接点がなかったのだから当然だろう。
だが、それでも無視できないのはそこに後継者争いという問題があるからだ。
東方では代々魔力量の多い者同士で婚姻を結び、魔力を高めてきた。
それは貴族やその上位にあたる王族もそうだ。
その結果、大国であるブリリア魔導国の王ともなれば、そこらの貴族では太刀打ちできない圧倒的な魔力量を持っているのだという。
そんな圧倒的強者である王の後を継ぐのは当然、それにふさわしい人物であるということになる。
それは誰かと言えば、王の子たちだ。
フォンターナ連合王国では当主の力を引き継ぐ者は継承権第一位の者であったり、あるいは生前に継承された者である。
が、東方ではそんな仕組みにはなっていない。
王子たちが争うこともあるのだという。
さらに、今は【命名】の魔法があるからな。
小国家群でも広がっている魔法だが、ブリリア魔導国でもそれなりには知られている。
が、まだこのへんよりは広がりきっていない。
ブリリア魔導国で最初に魔法を受けたのは王族のシャルロット様だったからだ。
【命名】によって魔法が使える者を増やせることと同時に、魔力が他者へと流れると分かったからだ。
おかげで、小国家群ほどに無秩序に増えていないが、それでも魔法を使える者はいる。
その辺をうまく使えば、今まで注目されていなかった王子も王位争いに参加してくるかもしれない。
「率直に聞きたいんだけど、シャルル様って王になれそうなの?」
『それは分からないのでござるよ。ただ、基本的にはシャルル殿下は自分から王位に興味を示す素振りを見せてはいなかったのでござる。あくまでも、周囲がそう期待しているという感じでござるな』
「周りの連中が押し上げようとしているってことだよな? それに対して、苦々しく思っている王子もいる、と」
『そうでござる。第一王子などは面白く思っていないことはまず間違いないでござろう。なにしろ、長年次の王は第一王子であるとされていたくらいでござるからな』
「ふーむ。しかし、そうなると結局どうやって次の王って決めるものなんだろうな? 王子同士で戦うことになるのか?」
『それは分からないでござるよ。双方が直接戦って決まることもあれば、ほかの要因によって王位が決定することもあるでござる。言ってしまえば、ブリリア魔導国内の貴族がその人物こそ王である、と認めればいいのでござるからな』
「ふーん。結構あいまいなんだね」
バナージに聞いた感じでは、割とその時によって違ってくるみたいだ。
確かに、ブリリア魔導国の中にいる大多数の貴族がその人物こそ王であると認めさえすればいいんだ。
戦って決めることは絶対条件ではない。
なんらかの功績をもって王として認めさせるという方法もあるんだろう。
ってことは、これからシャルル様が王位を取りたいのであればそれに見合った功績を内外に示さないといけないのか。
どうするんだろうか?
そんなふうに、割と他人事のようにバナージの話を聞いていた。
が、それから少しして驚くべき情報が俺のもとへと入ってきた。
ブリリア魔導国の次期王候補として筆頭の第一王子ベンジャミン。
そのベンジャミン王子が単身でオリエント国へとやってきて、俺に面会を求めてきたのだった。
お読みいただきありがとうございます。
ぜひブックマークや評価などをお願いします。
評価は下方にある評価欄の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして頂けますと執筆の励みになります。





